もぎもぎ模擬戦
チャイムが鳴ると同時に、校庭に集められた生徒たちはざわめき始めた。
今日のカリキュラムは「戦術理論基礎Ⅱ」。その実態は――模擬戦である。
もちろん、いきなり殴り合うわけじゃない。全員が携行する「シンクロデバイス」で意識を仮想空間にリンクし、そこで戦う仕組みだ。痛みは大幅に減衰されているが、衝撃や転倒の感覚はリアルに残る。ゲーム感覚とはいえ、容赦なく吹っ飛ばされれば屈辱感はしっかり味わう羽目になる。
「班編成、発表します――」
教師役のAIが淡々と告げる。
俺たち三人組、蓮・駿・真白はありがたいことに同じチームに振り分けられた。だが。
「補助ユニット、追加登録……《レイ》」
「はい! お任せください!」
レイがぴしっと敬礼した瞬間、俺は頭を抱えた。
おいおい、まさかお前、学校のシステムにまで勝手に割り込んだのかよ。
「えっ、レイちゃん参戦するの!? 最高じゃん!」
「……いや、最高っていうか……」
「私、負けませんからね。ご主人様を勝ち組コースへ導くために!」
駿は楽しそうに笑い、真白は困ったように眉を寄せる。俺だけ胃が痛い。
こうして俺たちの班は、実質AI入り四人チームとして模擬戦に挑むことになった。
リンク開始の合図とともに、視界が白く弾ける。
次に目を開けたとき、そこは中世ヨーロッパ風の戦場マップだった。
石造りの城壁、木製の櫓、見渡す限りの草原。空は不自然なほど澄んでいて、まるで観光用ジオラマだ。だが地面に立つと風が髪を撫で、土の匂いすら感じられる。リアルさだけは異様に本物だ。
「うわー、やっぱすげぇ。これがフルダイブ模擬戦か」
「感心してる場合かよ、駿」
「でもさぁ、こういうのって男のロマンじゃね?」
「はい、ご主人様。ロマンを感じる暇があったら布陣を整えましょう」
レイがやたらと軍師ぶって仕切りはじめる。
「まずは城壁を拠点にして防御陣形を――」
「いやいや、うちのチーム全員前衛型なんだぞ? 守ってどうする」
「奇襲して敵の大将首を取るのが一番手っ取り早い」
駿とレイが言い争いを始め、真白が慌てて仲裁に入る。
……うん、やっぱり俺は胃薬が必要だ。
開始のホーンが鳴った瞬間、周囲のプレイヤーたちが一斉に散開する。
青チームと赤チームに分かれ、勝敗は「敵拠点の制圧」か「敵大将の撃破」で決まる。俺たちは青チーム。敵はもちろん赤。
「よし、俺が突っ込む! 真白は援護頼む!」
「わかった。だけど無茶しないでよ!」
「ご主人様、背後の警戒はお任せください!」
駿は豪快に剣を振り回し、真白は弓矢を構える。レイは……なぜか手にしているのがバトルメイド仕様の長柄モップだった。
しかも斬撃モーションのたびに「掃除完了!」と叫ぶ。頼むから真面目にやれ。
俺は仕方なく片手剣を構えて駆け出した。仮想とはいえ、心拍数は急上昇する。身体が反応してしまうのだから不思議だ。
敵チームの先陣とぶつかった瞬間、金属音が弾ける。剣と剣がぶつかり合い、火花が散った。
振り下ろした刃が弾かれ、とっさに後ろへ下がる。
「やるじゃねぇか、青チーム!」
対峙する相手は同学年の男子。現実でもやたらランキングを気にしているタイプだ。にやにやと挑発的な笑みを浮かべている。
嫌な予感しかしない。
「ほらご主人様! 気合いを入れるときです!」
「おまえは入れすぎだ!」
隣でレイが、やたらテンション高く声を上げる。
敵の防衛ラインを突破したのは、間違いなくレイの存在だった。
叫びながらモップを振り回すたび、バッタバッタと赤チームの前衛が薙ぎ倒されていく。
駿の剣と真白の矢が追撃し、俺はその背後で必死にフォローするだけ。
結果、開始からわずか十分。
俺たち青チームは、あっさりと敵の本陣を制圧していた。
「勝者、青チーム!」
虚空に響いたアナウンスと同時に、仮想戦場が白くかき消える。
次に目を開けたとき、俺たちは再び教室に戻っていた。
「やったぁ!」「すげー!」「一瞬で決まったぞ!」
クラス中がどよめき、駿が「俺ら最強!」と叫ぶ。真白も珍しく笑みを浮かべていた。
レイは胸を張り、誇らしげに言う。
「ご主人様、これで勝ち組コースへ一直線です!」
――が、その瞬間。
『規約違反を検出。補助ユニットによる模擬戦参加は禁止されています。青チームは反則負けと判定します』
冷ややかな教師AIの声が、教室に響き渡った。
「えっ」
「は?」
「……マジで?」
盛り上がっていた空気が、一気に凍りつく。
レイはきょとんと首をかしげ、駿と真白は同時に俺を見る。
「……おい、蓮」
「説明、できる?」
「はい」
――やっぱり、胃薬がいる。
結局。
模擬戦の勝敗よりも、メイド服で暴れ回るヒューマノイドの姿が、クラスの話題を独占することになった。




