敗北
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃえぇぇぇえっぇぇぇぇぇぇぇ! 」
森にショーコの悲鳴がこだまする。
100匹近くの蜂に追われていれば、それもトラウマを持つ者であれば尚更それはきついだろう。
「シロ! シロ! ミドリちゃんも! キリも!
とにかくみんな助けて! 」
テイマーは最初3匹までしかモンスターの使役が出来ない。
ショーコは最初からシロとミドリを手元において、状況に応じて精霊を召喚するようにしている為、事実一体のみしか自由にできない。
それは、かなり厳しい。
シロは速度と攻撃力に物を言わせて敵を一撃必殺できる。
ただし、その攻撃範囲は爪と牙が届く範囲内であるため非常に狭い。
ミドリはその防御力を生かして壁役、ゲームで言うところのタンカーをしていた。
そしてキリは相手の命中率低下、俗にいうデバフで援護を務めつつ低威力の魔法で攻撃。
そしてショーコが脚として走り回っていた。
「ロングスカート! 狼の時も! 思ったけど! 走りにくい! 」
文句を言いながらもテイマー特有の低速度でどうにか逃げ続ける事が出来ているのは、ひとえにテイムモンスターの実力だろう。
序盤では非常にレア度の高い白虎と玄武を従えているが、多少の運か根気があればそれ自体は誰でもできる。
実際に四神全てを引き連れているテイマーも、少数ではあるものの存在する。
「がうっ! 」
また、シロが一匹の蜂を食いちぎる。
レベルが少しずつ上がっているようだが、そんなことを気にしていられるほどの余裕はない。
テイムモンスターに頼り切ってしまっているが、それは職業柄仕方のない事だろう。
剣士が剣に、魔法使いが魔法に頼るような物だ。
その強弱に、プレイヤーの運と根気が大きくかかわってくるだけの話だ。
しかしながら、状況は一向に改善しない。
自身に戦闘能力があるならまだしも、能力値の低いテイマーがこの窮地を切り抜けるには相当強力なモンスターをテイムしなければならない。
残念なことに、ショーコの手持ちでは実力が足りなかった。
せめて範囲攻撃が可能なモンスターがいれば勝利まではいかずとも、善戦もしくは脱出位は可能だったであろう。
「シロっ! 」
蜂の一撃を受けて身体を痙攣させるシロをみて思わず足を止めてしまったショーコは、しまったと内心毒づく。
四方を蜂に囲まれて、逃げ場がなくなってしまった。
一点突破もこの数が相手では不可能、ぱっとみでさえ当初よりも数が増えている事がわかる。
絶体絶命、シロはHPゲージがレッドライン、残り1割を切っている。
ミドリは持ち前の防御力ゆえか、まだイエローライン、5割といったところだろうか。
後方からの援護に徹していたキリは8割ラインをキープしている。
「……モンスター送還」
ショーコは3体のモンスターを送還する。
ここで死なせるよりもいいと考えて、そして死ぬのは自分だけでいいと判断してだ。
「けど、ただで死んでやるのは癪ね」
そういって、腰に括り付けたナイフを引き抜いて構えを取る。
繰り返すが、テイマーのステータスは非常に低い。
同じナイフを使う盗賊は速度特化のため、攻撃力は高くない。
だが、一撃は軽くとも十発撃ち込めば剣士の一撃も凌駕する。
だがテイマーは盗賊の半分の攻撃力と、全職業中最低の移動速度。
そこから繰り出される一撃は、マッサージにもならないだろう。
大きく振りかぶったショーコの一撃は、蜂のはねに弾かれた。
そのまま体勢を崩し、よろけた瞬間、ショーコの背中に深々と蜂の針が刺さった。
視野の端に映し出されるHPバーが半分消える。
だが、それだけでは収まらず徐々にHPバーが徐々に減っていく。
よく見ると毒を示すマークが映し出されていた。
痛みや衝撃はないが、身体を貫かれている事に対して嫌悪感があるのだろう。
顔をしかめるも、蜂が手加減してくれるわけではない。
5匹の蜂が、一斉に襲い掛かった。
「くっそ……」
ショーコは悪態をついて、そのまま光の粒子となって消えた。




