脱出
『エリアボス:ランディングウルフが出現しました』
ひたりひたりと、ゆっくり近づいてくる真っ黒な狼をショーコは見ている事しかできなかった。
死を覚悟しながら、自分が死んだらシロはどうなるのだろうと考えて目を閉じた。
そして、頬をかすめるようにして矢が飛来する。
それは的確にランディングウルフの額を打ち抜きのけぞらせた。
「新人さん、ちょっと横殴りさせてもらうよ」
横殴り、獲物の横取りの事を指すがこの場合ショーコが獲物にされていたので厳密には違う。
とはいえ助かったと腰を抜かしてへたり込んでしまったのは、少々情けないだろう。
事実横殴りと称して助けてくれた男はその光景を見て思わず舌打ちをしていた。
「まじもんの素人かよ……白虎なんて連れてるのはパラか? 」
パラ、パラサイト、寄生、自分よりも強い相手とパーティを組みその恩恵にあやかる事を言う。
ほとんどの場合悪い意味で使用されるが初心者救済・育成のために使われることも多い。
「【ライトショット】」
男は弓を構えて、狼に向かって矢を放つ。
一度に5発、打ち出されたそれは当たる瞬間に閃光を発して狼の目をくらませた。
「おい逃げるぞ!
流石にあれソロ討伐は無理! 」
ソロ、というのは個人プレイの事を指す。
これだけ熟練したプレイヤーでもできないことというのは存外多い。
それから10分も走っただろうか。
現実であれば息を切らせて心臓の鼓動をBGMにへたり込んでいたであろう距離を走り、無事街にたどり着いた二人は胸をなでおろす。
その際に男の視線がショーコの胸元に行ったのは、実はショーコも気づいていたが敢えて追及はしなかった。
「ありがとうございます」
「あぁ、まさか裏エリアボスに出くわすルーキーがいるとは思わなかったけどさ。
まぁ今のレベルじゃデスぺメイは……ないよな」
デスペナとは死亡時に受けるペナルティの事だが、レベル20まではペナルティがない。
現在ショーコのステータス画面には3と書かれたステータスが表示されている。
ちなみにシロはレベル7まで上がっている。
「レベル3って……今日スタートか?
協力者は? いない? まじで?
すっげぇな、白虎テイムして裏エリアボスに出会うとか……猪?
それエリアボスだろ」
矢継ぎ早に繰り出される言葉にタジタジになるショーコだったが、深呼吸をして気分を抑える。
正直、現実の世界で失禁していないか不安になるほどの恐怖だったがシロの頭を撫でる事で落ち着きを取り戻す。
「白虎ってそんなにレアなんですか? 」
「あー今のところ目撃数は極端に少ないな。
テイム成功率含めたら天文学的数値なんじゃないか? 」
後にショーコが攻略サイトで確認したところ、出現確率は0.002。
更にテイム成功確率の基本数値は0.0001%と書かれているのを見て目をまわしたのは本人のみの知るところだろう。
「……あの、この辺りでもふもふしたモンスターっていませんか」
「もふもふって……まあ街の周りにいる動物型はその白虎とラッドックていうネズミくらいか。
あと近くの森に四神シリーズの玄武が超低確率で出現するが……あれはもふもふではなくつるつるだな。
あぁ、森にはあれがいたか。
キラービークイーン、もふもふした虫だ」
「虫は嫌です! 」
思わず声を荒げるショーコだが、昔蜂に刺されたことがあってからは特に敏感になっていた。
アナフィラキシーショック、アレルギー反応を起こし最悪死に至る可能性もあるからだ。
「……森には近寄らないようにしようかな」
「あとは精霊がいるな」
「精霊? 」
「あぁ、もふもふじゃないんだがな。
子供みたいなやつらさ。
悪戯が好きでベテランのプレイヤーでもその被害者は多い。
というかあの手この手で悪戯を仕掛けてきやがるから何かしら引っかかる。
俺も前落とし穴にはまった」
「へぇ……」
気にはなる、そう思ったショーコは早速前言を撤回することにした。
虫が出たらシロに任せよう、そう考えて森へ向かう準備をした。
なお、店で虫よけスプレーを購入したのは言うまでもない。




