草原
平原での戦闘は非常に単調だった。
ミドリが敵の攻撃をひきつけ、シロが遊撃を行い、アカネがとどめを刺して、ショーコが眺めているだけ。
動いているアカネはまだいいだろう。
けれどショーコとしては非常に退屈だった。
「それもテイマーが、タイトルに入ってるくせに不人気の理由なんだよね。
基本的に動けない」
「それ致命的だよね。
ゲームなのに動けないって」
はっきり言ってしまって、今のショーコは役立たずもいいところだ。
経験値も低レベルの相手ばかりなうえに、活躍する機会がないため微々たるものである。
「あーあエリアボスでも出てこないかな」
冗談めかして言ってのけたアカネだったが、ショーコとしては洒落にならない。
短期間で複数のエリアボスと遭遇して死線をさまよった身としてはエリアボスという言葉だけでげんなりしてしまう。
「テイムしなかったの? 」
アカネの声はいたってまじめだったが、笑いをこらえているのだろう。
小刻みに震えているのをショーコは見逃さなかった。
「シロ、噛め」
「にゃん」
ショーコの言葉に反応したシロが、アカネの頭部にかみつく。
しかしHPの減少もなければ痛がる様子もない。
シロが甘噛みをしているというわけではなく、設定上パーティ内でのフレンドリーファイアは発生しないようになっているためだ。
この設定は切り替える事が可能だが、痛みだけは伝わらないようにされている。
「うーん、やっぱり低レベルの間はただの猫ちゃんだよね」
頭上のシロを抱きかかえてアカネはそう言った。
ショーコも攻略サイトを見て回ったが、レベルの低い間は子猫のような姿だった。
それがある一定のレベルになると次の姿に進化するそうだ。
ただし進化前の子猫の姿になることは可能なため、街中では子猫、戦闘では虎と使い分けているテイマーも存在する。
中には移動時には馬代わりに虎、戦闘時は猫というのもいるが通常であれば常に虎のままでいさせる方が多い。
「今はシロがレベル15、ミドリが7だからもうちょっとかかるかな」
「ちなみにあんたは? 」
「……9です」
森で蜂の大群に襲われた時から比べて1しか上がっていない。
戦闘での貢献度を考えれば1上がっただけでも上々だが、一桁というのは少しさびしいものがある。
「これからだね」
メインアカウントをカンストさせてサブの育成に精を出しているアカネの言葉には重みがある。
だが、真似しようと思えないのはゲームだからだろうか。
ショーコもゲームは大好きだ。
だけど生活リズムの乱れや、日常生活を犠牲にしてまでのめりこむのはいかがなものかと思う。
目の下にクマを作り、授業中は平然と居眠りをして、テスト間際に涙目でノートのコピーをねだるアカネを見ているといつもそう思ってしまっていた。
「ほどほどに頑張る、だからアカネは生活習慣をどうにかしなさい」
「してるよ、夜寝て昼起きるか、昼寝て夜起きるかの違いはあるけど」
「それは昼夜逆転しているじゃない。
ゲームが原因とかただのダメ人間じゃない」
「ひどっ」
平原は遮蔽物がない。
そのため、声も広範囲に届くように設定されている。
それが、問題の引き金となった。
「おう、嬢ちゃん誰がダメ人間だ」
「…………」
他のRPGならば主人公を演じたであろう金髪ロングヘアの男が声をかけてきた。
端正な顔立ちだが、非常に言葉使いが荒い。
「そこの侍」
「おいおい、ごまかしはよくねえなぁ」
話を聞いてもらえる様子はない。
おそらくこの金髪も所謂廃人ゲーマーなのだろう。
それが運悪く、先ほどのショーコの発言を聞いてしまい腹を立てたのだと予想できる。
「まったく傷つくぞこら。
ゲームくらい好きにさせろ」
「いや、好きにやってください。
日常に支障の出ない範囲でやる分には誰も困りませんから。
この侍の場合、日常生活犠牲にしているんで文句を言っているんです」
「…………あんたら学生さんかい? 」
「えぇ、花も恥じらうね」
横からアカネが口をはさむ。
「そんな古い慣用句を使う女学生がいてたまるか」
「いるさ、ここにひとりな」
何かの漫画の引用だろうか。
ショーコにはその判断がつかなかった。
「OK、お前がなんと言おうと俺は認めない」
いつの間にやら仲良くなりかけている二人を、ショーコは冷めた目で見ていた。




