お手
「どうやらこちらの誤解だったらしいな、申し訳ない」
アカネとのやり取りを経て落ち着いたのか、男がショーコに頭を下げた。
ショーコとしては最初からそう言っているだろうと怒りを覚えなかったわけではないが、ひとまず感情を抑え込む。
「俺の名前はサイファー、睡眠時間を犠牲に日夜冒険を続けている剣士だ」
剣士、ゲームの職業としては非常にオーソドックスであり剣と盾を使った近接戦闘を得意とする職業である。
ちなみに攻撃力と防御力だけで換算するなら、同レベルのテイマーと比べた場合およそ5倍の差がある。
テイマーはその差をテイムモンスターで埋めるのが常だが、そこは運による。
「剣士かー、あたしのメインアカウントも剣士なんだけど……その恰好から自由騎士スタイルかな」
自由騎士スタイルとは剣士の戦い方の一つである。
例えばアカネのメインアカウントは侍型、スキルを駆使して闘う事を得意とするスタイルである。
対して自由騎士はスキルよりも多く通常攻撃を使用する戦法であり、遊撃役をこなす事が多い。
また防御を主体とする守護騎士型、スキルを使わない手数型など様々なスタイルがあり、中にはユニークスタイルといわれる単一の戦法まで存在する。
「おう、自由騎士。
あんた達は四神使いとナックラーか」
四神使いは青龍や玄武を使うテイマーの総称で、ナックラーはこぶしで戦う武闘家の総称だ。
「この子はまだ駆け出しだから四神使いというには未熟だけどね。
私はサブアカウントだから中途半端なんだよね」
「へぇ……その割には玄武と白虎か」
「ビギナーズラックっていうやつよ」
二人はショーコを見ながらため息をついたが、本人は意味が分からず、どころかすでに空き始めたショーコはシロを相手に構っていた。
「シロ、お手」
「いや一応虎だから、猫ですらないしそもそも犬相手にやるべきでしょうそれは」
「にゃん」
ショーコの言葉にこたえるようにシロがその手をたたく。
それは見事なお手であった。
「するんだ……」
「まあAIだし……簡単な命令には従うしな」
シロがお手に応じたことに驚いた二人だったが、ゲームの設定という事で無理やり納得することにした。
その考えでは玄武も青龍もお手をすることになるが、気付かないふりをしたようである。




