ハズレ痛感そして出撃
合同演習は、一方的な結果に終わった。
ワルキューレはスパルナの群れにことごとく遮られ、ガルーダ本体に近づくことが出来ない。
遠くからロングスピアを投擲する。命中はしているが ガルーダの巨体は身動ぎもしない。
フェンリルとガルーダのエーテルブラストの撃ち合いも、威力も耐久も勝るガルーダ相手では防戦一方だった。
「……これが、差か」
オレはただ、空を見上げるしかなかった。
演習終了後、王国軍の武官たちは顔を見合わせ、オレに何も言わず、そのまま談合に入っていった。
一方でユウトは、得意げにアウルムの肩を叩いている。
それから数日。
王国軍はオレを外したまま、連日軍議を重ねていたらしい。
帝国への侵攻作戦が、そこで決められたようだ。
そして、オレは呼び出された。
「出撃は四週間後。進軍ルートはこちらだ」
武官が広げた地図の上で、指が裏街道をなぞる。
同じルート上に、軽歩兵だけの小さな隊が記されていた。
(……懲罰隊だな)
直感でわかった。
捨て石をこのルートに集めたのだろう。
一方、ユウトのルートは本道だった。
王国騎士団と一緒に、行軍しやすい道を進むらしい。
武官は地図を畳みながら、軽く付け加えた。
「アキラ殿にも、ずいぶんと『石』を使ってしまったのでな。
その分、働いてもらわねば採算が合わん」
(……ガチャの石かよ。どういうシステムだ?)
オレは内心で毒づきつつ、黙って頭を下げた。
このままじゃ、本当に終わる。
生存確率を少しでも上げないといけない。
演習やカティアとの訓練を思い出し、夜通し必死に考えた。
何かないのか……?
二日後、城の一室を借り、カティア、リーゼ、ジルを集めた。作戦会議だ。
リーゼは銀縁のメガネをかけていて金髪を後ろでまとめている。
鎧の上からでもわかるほど胸が大きく、知的な印象とのギャップがある。
一方のジルは、同じく金髪を肩あたりで軽くウェーブさせていて、明るい笑みが似合う娘だ。
(……でかっ)
一瞬、リーゼの胸に目が行った。カティアがしばらく冷めた目でオレを見ていたのに、オレは気づかなかった。
オレは二徹で考えてきた策を説明した。
ロングスピアを廃止して武器を換装する。その訓練を今日からやってもらいたい。訓練の内容も簡単に伝えた。
ジルが開口一番、声を上げた。
「ええ〜!? スピア止めるんですか? すごい練習したのに!」
こいつ、ほんま……。
「マスターに失礼じゃないですか、ジル」
リーゼが静かにたしなめる。
「しかし、私も少し危険だと思いますが……
兵士たちの練度は今の武器に最適化されていますし、伝統的なスピアを廃止すると士気にも影響するのでは?」
「そうだよ! スピアがいいよ! カティアも何か言ってよ!」
ジルがカティアに助けを求めるように言った。
カティアは目を閉じて、しばらく考え込んでいる。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……いえ。
これまでのやり方には、限界を感じています。
マスターの策、やるべきです」
「そんなあ……」
カティアは続けた。
「言われること確かに思い当たるところがあります。
私も研究してみます」
「ありがとう、カティア。
ジルとリーゼも、いいんだな?」
リーゼが静かに頷く。
「まあ、訓練でうまくいかなければ戻せばよいことですし……」
ジルがふっと笑った。
「マスターってカワイイね。
私らに当たり散らす人もいるのに、目にクマで考えてきてくれて」
ほんまやで。まあ半分以上オレのためなんだが。
オレは心の中でそう呟き、軽く肩をすくめた。
ワルキューレたちは熱心に訓練に励んでくれた。
構想通りの動きが出来るようになった頃、出撃の日が来た。
フェンリルの一体に、オレが乗るための輿が据えられる。
戦場では鞍になるのだろうが、行軍のためのものだ。
なんか今川義元みたいで締まらないが、二十メートルの高さから落ちれば流石に死んでしまう。
屋根付きの輿の中で、昼寝しながら運んでもらおう。
閲兵式――
王都の正門前には、王国騎士団とユウト軍、そしてオレの軍が整列していた。
朝日を浴びて、ガルーダの黄金の翼が輝く。
スパルナの群れが空を舞い、騎士たちの鎧がきらめく。
ユウトは軍服の襟を正し、得意げな表情でアウルムの隣に立っていた。
一方、オレの側はというと——
黒い毛皮に銀の装甲を纏ったフェンリル三十体が低く並び、その周囲を金髪のワルキューレ三百体が静かに取り囲んでいる。
カティアを先頭に、全員が整然と控えていた。
華やかさでは負けていない。だが、力強い印象という点では、どうしても劣る。
喇叭が鳴る。
騎士団とユウト軍が先に門を出ていった。
沿道の民が歓声を上げ、花を投げ、軍旗がはためく。
まさに華々しい出陣だった。
オレの番が来る。
カティアが無言で頷くと、フェンリルがゆっくりと浮かび上がる。
オレも流石に見送りでは鞍に乗り、手を振っていた。しかし、歓声はすでにかなり小さくなっていた。
(……まあ、捨て石扱いだもんな)
オレは軽く息をついた。
これから始まる行軍と、その先にある戦を思って。




