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ハズレ召喚士のオレ、各個撃破を警戒する敵をガノタ考察と人型戦闘精霊でなお各個撃破し生還  作者: ノラネコ王国


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異世界空間戦闘チュートリアル

 宴は白けたまま、あっさりと解散になった。

 オレの評価は、「ハズレ召喚士」で確定したらしい。


 廊下に出た途端、鳥野郎――アウルムがカティアにマウントを取りにきた。

 黄金の翼を少し広げ、見下すような声で言う。

「まさか貴様らが僚軍とはな。

 戦場に出ずに王国騎士団に奉仕して、士気を上げてもらった方が、よほど国のためではないのか?」

 腹が立った。

 たまらず口を挟む。

「おいあんた、あんまり無礼じゃないのか?」

 アウルムは鼻で短く笑った。

「ふん。事は戦なのでな。

 弱卒と並べられては、命に関わるのよ」


 カティアは何も言い返さなかった。

 ただ、唇を真一文字に結んで、じっと耐えている。

 その横顔が、妙に痛々しく見えた。

 オレはそれ以上、言葉を続けられなかった。


 割り当てられた部屋へ向かう廊下は、妙に静かだった。

 足音だけが石畳に響く。

「……あんたも、言い返した方がいいぜ」

 オレは横を歩きながら、小さく言った。

「ああいうヤツは、黙ってると調子に乗るだけだ」

 カティアはゆるく首を振った。

「我々の戦力が乏しいのは、事実なのです」

 彼女のタイタンである狼型のフェンリルは、ガルーダに比べて一回り小さい。

 一体あたりの戦力は、おおよそ半分だという。

 本来なら、その差をミニオンであるワルキューレが埋めるはずだった。

 だが、ガルーダのミニオン――スパルナは、ミニオン同士の戦闘を専門としている。

 飛行が異常なまでに俊敏で、主であるガルーダを鉄壁に守り抜く。

「ワルキューレの体では、スパルナの動きについていけないのです」


 詳しく聞くと、彼女らは召喚された後も「アストラル界」に存在し、そこには「落ちる」こと――重力の作用も空気の作用もないらしい。

 何もしなくても浮かんでいることはできるが、移動するときは「マルクト粒子」を放出して加速する。

 ガルーダやスパルナの翼は羽ばたくためのものではなく、その粒子をより高速に噴射するためのものだという。

 つまりはアニメの宇宙戦闘のようなものだ。


「我々の体にはそのような機構はありません。

 特に脚は空間戦闘においては重い飾りなのです」

 そりゃ確かに、飛ぶ能力では人型は鳥型に不利だろう。


 しばらく黙って歩いたあと、オレは気を遣うように言った。

「まあなんだ、明るく行こうぜ。

 オレは良かったよ、美人の上官になれてさ」

 カティアの足が止まった。

 振り向かずに、低く、抑え気味の声で言った。

「そのもの言い……二度となさらないでいただきたい。

 我らは戦士です。侮辱です」

 言い終えると、彼女はそれ以上何も言わず、足早に先を歩いていった。

 背中がどこか「またこいつもか」と諦めているように見えた。


 オレは廊下に一人、取り残された。



 ――翌日。


 王国軍から正式な通達が届いた。

『一週間後、合同演習を実施する。

 召喚士軍の実力を確認するためである。それまでに習熟を済ませておくように』

 短い文言だった。

 だが、意味は明確だ。

「ハズレ」の軍がどれほど使えるか、王国が見極めるための試験である。


 練習用に確保された平坦な草地で、カティアと習熟を行う。


 俺は先に口を開いた。

「……カティア。

 昨日のことは悪かった。軽く言いすぎた」


 彼女は静かに俺を見る。

 数秒の沈黙のあと、短く答えた。

「気になさる必要はありません。

 我らは戦士です。個人的な感情で戦いを左右するつもりはございません」

 淡々とした声音。

 でも、完全に突き放した感じでもなかった。


「では始めます。」

 まず行われたのは、オレの空間戦闘への体感だった。


「今回は、マスターに空間戦闘の感覚を理解してもらいます。

 視覚と聴覚だけ、一時的に共有します」

「ああ、頼む」


 カティアが軽く目を閉じ、俺もそれに合わせた。

 次の瞬間、視界が切り替わった。


 自分の体は地面に残っているのに、目の前に広がるのは空だった。

 城の石壁が下方に遠ざかり、森と畑がゆっくりと広がっていく。

 体がふわりと浮く。

 正確には、カティアの体が浮いている。


 昨日聞いたように、重力の作用も、空気の抵抗もない。

 マルクト粒子がエーテルの作用で静かに噴き出す音が、耳の奥で聞こえた。

 羽ばたく音でも、空気を切る音でもない。

 空間そのものを押し出すような、低く澄んだ響きだ。


 上昇する。

 風がないのに、視界が滑らかに動いていく。

 ただ、前へ、上へと進んでいく感覚だけがある。


(……すげぇ)

 空を飛んでいる。

 本当に、空を飛んでいる。

 城の屋根が小さくなり、街道が一本の線になっていく。

 喜びが自然に湧いてきた。

 難しい理屈なんてどうでもよくなるくらい、純粋に気持ちよかった。


『もっと上がってみてくれないか?』

 カティアの動きが、ほんの少し止まった。

『これ以上は上がれません』

 高度は地上から三十メートルほどだった。


『我々戦闘精霊が属するアストラル界は、生物の肉体・精神体・アストラル体の三位一体に依存しています。

 生物が存在しない高空や深砂漠では、エーテルの循環が極端に弱まります』

 下を見ると、城下の気配が急速に薄れていくのがわかった。

『だから、戦場は常に地上近くに限定されます。

 陣形も地上と変わらず、ほとんど平面的な形になります』


 共有された視界の中で、彼女が無駄なく体を制御しているのが伝わってくる。

 脚は重い飾りなのだろう。

 それでも上半身とマルクト粒子の推力だけで、滑らかに機動していた。

(……綺麗だな)


 共有が解除される。

 視界が元に戻り、俺は草地に立っていた。

「……飛んでる感覚、最高だったよ」


 彼女は一瞬だけ表情を動かしたように見えたが、すぐに冷静な顔に戻った。

「戦場ではあの感覚を楽しむ余裕はありません。

 次は全軍で行います」


 翌日は全軍を召喚して、実際の戦闘――模擬戦を見せてもらった。


 カティアを召喚した時と同様、沸き上がる言葉を言うだけで空中に三十体のフェンリルが実体化した。黒い毛皮に銀色の装甲を纏った巨体はど迫力だ。

 続いてワルキューレ三百体。カティアと同じく鎧を纏った少女たちだ。ただ髪は金髪だった。


 これだけの数が整列しているのは壮観だ。ただ気になることがある。

「飯とか、兵舎はどうするんだ? 王国がやってくれるのかな?」

「食事は不要です。我々は自然に存在するマナを糧にしています。

 待機時はアウルムがやっていたように、この空間での存在を調節することも出来ますので、大きな建物は不要でしょう」

 ゲームでも召喚魔法はそんなものか。しかしすげえな召喚士。そりゃ伯爵待遇になるわ。


 ワルキューレとフェンリルにはそれぞれ二人、二体の隊長格がいる。

 リーゼは冷静で、状況を整理して伝えることを得意とする。感情を表に出すことは少なく、指揮の補助に適した性格だ。

 ジルは積極的で、前線に出ることを厭わない。周囲を鼓舞するような明るさを自然に持っている。


 フェンリルでは、体躯が一段と大きいスカールが低い咆哮を上げる。打たれ強さに優れ、盾役を任せるのに向いている個体だ。

 反応の鋭いフェンは、俺の近くまでひょいと寄ってきた。指示への対応が速く、機動的な運用に向く。


 カティアの合図で、模擬戦が始まる。


 金髪のワルキューレたちが空に舞い、銀色の光弾を撃ち合い始めた。

 掌から放たれる光弾、エーテルボルトが、空中に無数の軌跡を描く。威力は控えめだ。主に人間大の戦闘精霊、ミニオン同士の戦闘で使われる光の弾丸である。

 別の一団がロングスピアを構える。

 穂先にエーテルを集中させて威力を高めた槍が、投擲され、あるいは近接で振るわれる。対タイタン用の武装だ。


 三十体のフェンリルも同じく空中に浮いている。

 口から放たれる、やはり銀色のエーテルブラストが、太い奔流となって空間を貫く。戦艦の主砲に相当する一撃だ。

 爪の一本一本から放たれるエーテルボルトは、対空砲のように周囲を薙ぎ、接近するワルキューレを牽制する。


 空中一面に光が交錯する。

 短い模擬戦は、そんな風景のまま終わった。


 ワルキューレの華麗な空中機動と、フェンリルのエーテルブラストの迫力。

 オレには、ただの「最弱」には見えなかった。

 これなら十分に戦力としてやれる、そんな感覚があった。


 一週間後の演習で、ガルーダとの差を見せつけられるまでは。

無重力状態のカティアが歩いているのはおかしいとツッコミあると思いますが、人間世界の鎧などを着ればそれに重力がかかるので歩くことができます。戦闘時以外は、いちいち粒子を使うよりそっちのがワルキューレたちも楽らしいです。

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