俺、モデルになる。
強い日差しがジリジリと照りつける。
代わる代わる鳴く蝉の声。
リビングのエアコンの下。
春輝はぐったりと体を伸ばしていた。
『あっちぃ……』
『ちょっと外出ただけで汗だくだぞ』
春輝の小さな足の裏はしっとりと湿っていた。
ハアハアと少しだけ呼吸が荒い。
「ハルちゃん、ちゃんとお水も飲むのよ」
優しいママの声。
『そうだな。熱中症になったらやばいしな』
春輝は立ち上がるとサークルの中へ水を飲みに向かう。
チロチロとピンク色の舌が動く。
『ぷっはぁ!やっぱ散歩の後の一杯は最高だな』
春輝は健康的な男だった。
「ハルちゃん、ママ、おはよ〜」
目を擦りながら陽菜が降りてくる。
『遅いぞ!陽菜、学校は大丈夫か?』
時計をチラリと見る。
『寝坊しちゃったのか?』
「陽菜ちゃん、夏休みだからたくさん寝ちゃったのね」
「えへへ」
「明日からはもう少し早く起きましょうね」
「は〜い!」
『そうか!陽菜は夏休みなのか!』
春輝は陽菜を見つめると、ふんわりと胸を張った。
『陽菜、今日からずっと一緒ってことだな!』
陽菜は、春輝を抱っこするとソファの上にトンッと降ろした。
「ハルちゃん!陽菜といっぱい遊ぼうね」
陽菜は嬉しそうに目を細めた。
『ああ!俺が遊んでやるよ!』
陽菜は春輝の衣装ケースをゴソゴソと漁る。
「ええっと、今日のお洋服は……」
『ひ、陽菜!暑いしさ、俺ハダカがいい!』
春輝はハダカのまま、くるりと回ってみせる。
「ハルちゃんもお着替え好きなんだあ!」
陽菜は嬉しそうに一着を手に取る。
ピンク色に白の水玉。
背中に大きなリボンのついた可愛いワンピース。
『ゔっ……』
「ハルちゃ〜ん、こっちおいで」
春輝の足取りは重く、そろりそろりと向かうのだった。
『陽菜、わかってるのか?俺男だぞ!』
「わあ!ハルちゃん可愛い!」
カシャカシャカシャ。
容赦ない連写音。
『おい、陽菜!勝手に撮るなよ!』
春輝は思わず後ろを向き、背中を向けた。
「ハルちゃん、モデルさんみたい!」
『えっ?まじ?』
くるりとカメラを見るポメラニアン。
雑誌の犬みたいだった。
「ママ〜ハルちゃん可愛く撮れたよ!」
「あら、本当ね!ワンちゃんのモデルに応募しようかしら」
ママはポチポチとスマホを検索し始めた。
『モ、モデル!?俺が?』
『犬に転生して芸能活動、か……悪くないな』
春輝はニヤニヤと口端を上げた。
妄想だけならタダだった。
ピンク色の可愛いワンピースのことは、既に忘れ去られていた。
春輝は、陽菜の前でポーズを取り続けていた。
『陽菜、次はローアングルで頼む!』
シャッター音はしばらく止まらなかった。




