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ハルちゃんは、俺。  作者: 家宝ダンゴ


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1/11

俺、ハルちゃん。

青々とした木々の隙間から光がさす。

心地よい風が通る病院の中庭。


鮮やかな花壇。

横に並ぶベンチ。


栗色の髪が風に揺れる。


一條春輝(いちじょう はるき)は、ベンチに座り人を待っていた。


「ハルちゃん!」


手を振る車椅子に乗る女性。

くるりと巻かれた白い髪に紫色のニット帽。

ピンク色のブランケットがふんわりと揺れた。


後ろで微笑みながらお手伝いさんが車椅子を押す。


「ばあちゃん、佳代さん、こっち」


春輝は軽く手を挙げた。


「ハルちゃん、大きくなったわね」


「本当よね。前までこんなにちっちゃかったのに」


お手伝いの佳代が手を胸に当て、目を細める。


「佳代さん……いつの話?俺、もう二十一だよ?」


「あら、そうでした!」


その時、強めの風が中庭を走り抜けた。


「あっ!」


小さな子供の声。

春輝はくるりと振り返った。


目の前に白い帽子が転がってきた。

風で飛ばされたのだろう。


春輝は、帽子をさっと拾い上げ女の子の元に駆け寄った。


長い髪を二つに結んだ小さな女の子。

下を向き俯いている。


「君の帽子?」


春輝は膝を折り、女の子の顔を見た。


「どうぞ」


白い帽子を女の子の手に渡す。

女の子はちらりと春輝を見るとすぐに帽子で顔を隠した。


「ハルちゃん、お茶にしましょう」


「うん。今行く」


春輝は女の子に微笑み、口を開いた。


「じゃあね」


立ち上がり、祖母のもとへ駆けていく春輝。


その後ろ姿を見つめる大きな目。

白い帽子を握る小さな手に、ぎゅっと力がはいった。


「……ハルちゃん」


小さく呟いた。





──これが俺、一條春輝の最期の記憶である。


最期というか、全く覚えていない。


気づいたら俺は死んでいたらしい。


なぜそう思うかって?



……俺は今、真っ暗な部屋にいる。



やけに揺れる床。

振り回され、手足が壁にぶつかる。


こんなの現実じゃありえないだろ。


嗅いだ覚えのある匂い。

新聞紙?いや、ダンボールだ。

大学の引越しで散々嗅いだ匂い。


体が軽い。軽すぎる。



これ、絶対……俺、転生してる。



問題は何に転生したか、だ。

異世界か、勇者か?


最悪、農民でもいい!


部屋の揺れが収まる。

天井が開き、強い光が差し込む。


眩しい。

目が開かない。


何か大きなものが落ちてくる。


逃げようと手足をバタつかせるが、両脇に何かを差し込まれ逃げられない。


体がフワッと宙に浮いた。


そっと目を開ける。


大きな人間。

巨人の女の子だった。


驚き、体が縮こまる。

動けない。


体を好き勝手に撫でるように触られた。


『おい!勝手にさわんな!』


春輝の訴えは虚しくも届かない。


「お名前は決めたの?」


頭上から低い大きな声。


『うるさいな、音量落とせ!』



「えっとね、ハルちゃん!」




その瞬間、

ぞくりと背筋が冷えた。



俺の名前。

生きてた時の愛称。


『は?』


春輝はハッと女の子を見つめた。


「ハルちゃんもお名前気に入ったってぇ!」


この子。

最期に病院で出会った帽子の……


グッと頭を押し込まれるような痛み。

何かを忘れているような。

気持ち悪い感覚。



カシャカシャカシャ。

連写するようなシャッター音。


ビクッと体が動いた。


「ハルちゃん!可愛く撮れたよ」


巨人の女の子がデカいスマホを見せる。

そこに写っていたのは……可愛いワンちゃんだった。


俺……子犬に転生してんじゃん。

人間ですらなかった。


春輝は天井を見上げて目を細めた。

目はウルウルと涙ぐんだ。


「ママ〜ハルちゃんのお写真みてぇ」


パタパタと走り回る音が広すぎる部屋に響いていた。


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