第8話 怪しいメイド
私は、エルヴィー侯爵とともに屋敷にいるメイド達から話を聞いた。
メイド達は、口々に自分の予測を口にしてくれた。皆そういう噂が好きなのか、誰がリビルト様と仲が良いか、割と積極的に教えてくれたのだ。
しかし、その中に一人だけ何も答えてくれないメイドがいた。私の質問に対して、とても不快そうな態度を示してきたのだ。
「……またですか?」
「ごめんなさいね。でも、あなたからもう少し話が聞きたくてね」
私は、そのメイドを呼び出していた。
エルシーという名前であるらしい彼女は、不機嫌そうにしている。やはり彼女にとって、リビルト様に関する質問はされたくないものであるようだ。
「他のメイドさんからも聞きましたが、あなたはどうやらリビルト様と親しくされているみたいですね?」
「いえ、別にそういう訳ではありません。あくまで、主人と使用人の関係です」
「なるほど……」
エルシーだけ、こういう態度を示すということが、私はとても気になった。
他のメイドの証言的にも、彼女とリビルト様の間には何かがありそうだ。
故に私は、彼女を揺さぶることにした。エルシーが仮にリビルト様と関係があったとしたら、言われたくないであろうことを言っていくとしよう。
「リビルト様は、現在失踪しています。その件について、どこまで把握していますか?」
「……詳しく知っている訳ではありません」
「それでは私から詳細をお話ししましょう。彼は私の母親、ローライト侯爵夫人と駆け落ちしました。そのことについて、どうお考えですか?」
「……」
私の言葉に、エルシーは顔を強張らせた。
その表情からは、怒りのような感情が伺える。彼と何もないのに、こんな反応をするのだろうか。話せば話す程、怪しく思えてくる。
「まさか、彼の本命がお母様だったなんて、私は思いもしていませんでした。あなたも、きっとそうですよね、エルシーさん」
「……あの人の本命が、ローライト侯爵夫人だと?」
「あら? 違うのでしょうか?」
「ええ、違いますとも」
そこでエルシーは、初めて大きな反応を見せた。
彼女は、私の論を強く否定する。リビルト様の本命に、何かやけにこだわりがあるようだ。
「ですが、彼は現に母と行方不明になっていますよ?」
「……リビルト様は、お優しいですから。きっとローライト侯爵夫人を気遣っているのでしょう。そもそも、彼と夫人が関係を持っているということにさえ、私は懐疑的です。親子程年の差が離れている人と、そんな関係になる訳ないじゃありませんか」
エルシーは、かなり早口で持論を展開してきた。
やはり彼女は、リビルト様と何かあったと考えて間違いなさそうだ。
それなら詳しく話を聞かせてもらわなければならない。あの二人を見つけ出すために。
「エルシーさん、残念ですがリビルト様の本命は母です。事実はどうあれ、そう結論付けられてしまうのです」
「何ですって?」
私は、エルシーをとにかく揺さぶることにした。
こういう時には、理論よりも勢いが大事だ。堂々と彼女が嫌がるようなことを言うことに、私は集中する。
「リビルト様は、お母様と行方不明になっています。彼が優しくてお母様を気遣っているとしても、それは事実にはなり得ません。夫人と失踪して、何もなかったなんて信じる人はいませんよ」
「そ、それは……」
「彼は夫人と駆け落ちしたどうしようもない男として、歴史に名を残すのです。前代未聞ですからね。きっと後世にも長く語り継がれることでしょう」
「そんな……」
私の言葉に、エルシーは焦ったような顔をする。
やはり彼女は、リビルト様の体裁なども気にしているようだ。
それなら、こちらとしてもやりやすいかもしれない。彼の愛さえあればどうでもいいみたいなタイプだったら、きっともう少し難しかっただろう。
「エルシーさん、彼の名誉を守りたいと思っているなら協力していただけませんか? こちらとしても、あまり事態を大きくしたくはないのです。できることならリビルト様を早く見つけて、この件を内々に処理したいのです」
「な、内々に……?」
「ええ、どちらの家にとっても不名誉なことですからね。隠せるなら隠したいと思っています。ただ、事態が長引くとどうなるかわかりません……」
エルシーは、少しだけ前のめりになっていた。
リビルト様の名誉、私はそれを人質に取る。これを盾にすれば、彼女も落ちてくれそうだ。
しかしなんというか、エルシーはとても挙動不審である。何か知っているのではないかと思っていたが、もしかしたら彼女は予想以上の情報を持っているのかもしれない。
「ほ、本当にリビルト様の名誉を守っていただけるのですか?」
「ええ、もちろんです。もちろん、私と彼は婚約破棄しますが真実は隠します。できる限り、私達はお互いの家の名誉を守りたいと思っていますから」
「えっと、あの、私はっ……」
私に何か言おうとして、エルシーは言葉を詰まらせた。
この段階でも、彼女はまだ悩んでいるようだ。それ程、核心に迫るような情報を持っているということだろう。
私は、特に何も言わずに言葉を待つ。最早、かけるべき言葉は思いつかない。無事に落ちてくれるといいのだが。
「リ、リビルト様は今――」
しばらく待っていると、エルシーはその口をゆっくりと開き始めた。
こうして私は、リビルト様とお母様に関する重要な情報を得たのだった。




