第7話 文句があるなら
「こちらが、リビルトの部屋です。私も入るのは久し振りですが……」
「……整理されていますね」
「息子は、几帳面な性格をしていますからね……」
エルヴィー侯爵に連れて来られたリビルト様の部屋は、非常に綺麗な部屋だった。
確かに、彼は真面目な性格をしていた。そんな彼なら、このように部屋を整理整頓していてもおかしくはないような気がする。
もっとも、彼の本質は人妻と浮気するような人だ。この部屋の中にも、何かとんでもない裏が隠されているかもしれない。
「さて、それでは調べてみるとしましょうか……」
「えっと、私達も探していいんですか?」
「ええ、どうぞご自由に。それで文句を言いに帰ってくるなら安いものです」
「なるほど、それは確かに道理ですね」
エルヴィー侯爵の言葉に、私はひどく納得した。
他人のプライバシーを探るのはどうかとお母様の時も多少は思ったりしたが、あの二人に関してはそんな風に気を遣う必要がないのである。
なんだか、とてもやる気が湧いてきた。後ろめたさもなくなったし、存分にリビルト様の秘密を探るとしよう。
「イルルド、私はこっちの方を探すわ。侯爵は、タンスなどを見てもらっていいですか?」
「ええ、確かにあそこは何かしらが隠してありそうですな……」
私達は、それぞれ分かれてリビルト様の部屋を物色し始めた。
とりあえず私は、棚の扉を片っ端から開けてみる。そこには色々なものが入っているが、特に手がかりになりそうなものはない。
「まあそもそも、手がかりなんてものがあるのかどうかさえ定かではないけれど……」
「なっ……!」
「え? 侯爵、どうかされましたか?」
そこで私とイルルドは、身を翻して侯爵の元に駆け付けた。明らかに、侯爵が驚愕していたからである。
その理由は、すぐにわかった。なぜならタンスの中には、リビルト様からはあまり想像できない衣装が入っていたからだ。
「これは……ドレス?」
「ああ、そうみたいだね……」
私は、タンスの中から一着のドレスを取り出した。
それは明らかに、女性用である。それが息子のタンスから出てきたため、侯爵はひどく動揺したということだろう。
「いやはや、驚いています。まさか、リビルトがそんなものを持っているとは……」
「リビルト様には、そういう趣味があったのでしょうか?」
「さて、それは……」
「ああいえ、誰かのものという可能性もありますね。例えば、母のもの……?」
私は、ドレスを広げて部屋の中にあった鏡を見てみた。
大きさからして、これはリビルト様には合わない。そのため、自分が着るためのものでは恐らくないだろう。
しかし、これはお母様ともサイズが合っていないような気がする。一体、これは誰のドレスなのだろうか。
「まあ、ドレスは不思議なものですが、これは特に手がかりにはなりませんね……」
「ええ、すみません。お二人の手を煩わせてしまって……」
「ああ、いえ、問題ありません。これは確かに、特別なものです。そういうものを見つけたら、お互いに報告しておきましょう」
エルヴィー侯爵も落ち着いたようなので、私達は自らの持ち場に戻った。
私は、棚の物色を再開する。今までは特に何もなかったが、何かしらの手がかりがあるといいのだが。
「あら?」
「うん? 姉さん、どうかしたの?」
「……ええ、ちょっとあるものを見つけて」
そうして開けた棚の中には、化粧のための道具があった。
それはもちろん、意外な発見である。しかしながら、既にエルヴィー侯爵がドレスを見つけているため、そこまで大きな驚きはない。
「化粧道具? リビルト様が使っているもの……ではないよね?」
「ええ、さっきのドレスと合わせると、これは誰か他の人のものだと思うわ……」
「……せがれが、誰かをここに連れ込んでいたということでしょうか?」
「あまり言いたくありませんが、そうなのではないでしょうか? リビルト様は、この部屋に女性を招いていたのではありませんか?」
「私の知っている限り、そのようなことはないと思いますが……」
私の予測に、エルヴィー侯爵は少し困ったような顔をした。
この屋敷の主である彼がそう言うなら、その可能性は低そうだ。
目を盗むということも不可能ではないが、流石に使用人の誰かから侯爵に話が伝わるだろう。
「使用人?」
「え?」
「使用人ならどうですか? リビルト様と特別親しくしているメイドなどいないでしょうか? メイドであれば、部屋に入ってもおかしくはないでしょうし、ここに服や化粧道具を置いていることにも辻褄が合うはずです」
「なるほど……」
エルヴィー侯爵は、感心したような顔をして再度考えるような仕草を見せた。
そこで私の目に入ったのは、化粧道具の中に紛れていた香水らしきものだ。それはもしかしたら、手がかかりになるになるかもしれない。
「侯爵、この香水の匂いを知りませんか?」
「香水? 匂いですか……確かに、嗅いだことがあるような気はしますが」
「わかりませんか? まあ、一々覚えていられませんよね……」
香水の匂いを嗅いだ侯爵は、ただ困惑するだけだった。
流石にこれから個人を特定するのは、無理だったようである
しかし侯爵は、この匂いを知っているらしい。それならやはり、ここに出入りしていたのはメイドの誰かということになるのではないだろうか。
「侯爵、メイドに話を聞いてよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「イルルド、あなたは引き続きこの部屋の捜査をお願いできる?」
「ああ、僕は構わないよ」
私の提案に、エルヴィー侯爵もイルルドも力強く頷いてくれた。
こうして私は、次なる行動を開始するのだった。




