第12話 私達のこれから
「まあ、お前が何を思っていたかに関わらず、お前にはローライト侯爵家を出て行ってもらう。二度と我々の前に姿を現すな」
「もちろん、侯爵家からは出て行くわ。でも……」
お父様の言葉に、お母様は言葉を詰まらせた。
離婚についてはすんなりと受け入れたはずなのだが、何かあるらしい。
私がそう思っていると、お母様の視線がこちらに向いてきた。その目はなんというか、縋るような視線である。
「その前に言っておかなければならないことがあるわ。アルメアのことよ」
「……アルメアが、どうしたというのだ?」
「その子は……あなたの子供ではないわ」
「ほう……」
お母様は、意を決したかのように目を見開いていた。
しかし、お父様は特に驚いていない。それは当然だ。その事実を、私達は既に知っている。
だが、お母様はそんな私達の様子を気にしていなかった。彼女は、口の端を歪めながら言葉を続けていく。
「鑑定もしたから、これは確実な情報よ! その子は私の娘であるけれど、あなたの娘ではないの! ローライト侯爵家の一員ではないのよ!」
「……」
「わかっているでしょう? 貴族にとって、血の繋がりがどれだけ重要なのかを……その子は、私のものよ!」
お母様は、お父様に対して大声で主張した。
事実を知っているからまだいいものの、それはあまりに非道な行いだ。
ただお父様は、特に怯んでいない。お母様の主張を堂々と受け止めている。
「アルメアは、私の娘だ。お前などに渡すつもりはない」
「話を聞いていなかったの? その子は――」
「お前は何もわかっていないようだな? 血の繋がりなど些細なことだ。我々は、そんなものよりもっと強固な絆で結ばれている」
「ア、アルメア……」
お父様がまったく動揺していないからか、お母様は私に呼びかけてきた。
しかしながら、私は首を振る。当然、彼女について行くつもりなんてないからだ。
「お母様、私を裏切っておいて私に縋ろうなんて虫が良すぎるとは思いませんか?」
「そ、それは……」
「……どうやらあなたは、孤独が怖いようですね。でも、私はあなたに手を差し伸べません。また若い燕でもなんでも見つければいいではありませんか」
「イ、イルルド……」
「母様、僕も姉さんと意見は同じです。僕をここまで育ててくれたこと、愛してくれたことには感謝しています。ですが、あなたがやったことは最低です。これから、存分に孤独という罰を受けてください」
私とイルルドは、縋ってくるお母様を拒絶した。
それに対して、彼女は絶望的な表情を見せる。こんな人ではあるが、私達のことは真っ当に愛していたということなのだろう。
だが、それでも私達は手を差し伸べない。結局の所、これはお母様の自業自得だ。彼女はその報いを、受けなければならないのだ。
◇◇◇
「これで、全部終わりってことか……」
「ええ、そういうことになるのかしらね……」
私は、イルルドとともに隠れ家の外に出てきていた。
お母様とリビルト様は、身支度を整えている。当然のことながら、裸のまま動くことはできないからだ。
それに、心を落ち着ける時間が必要だった。私達にとっても、お母様達にとっても。
「イルルド、あなたは大丈夫かしら?」
「えっと、それはどういう意味かな?」
「その……ほら、あなたはお母様から直接的な被害を受けた訳ではないでしょう? だから、この結果にもすっきりしていないんじゃないかって……」
私は、少しイルルドのことが心配だった。
婚約者を取られるというひどい扱いを受けた私や、夫であるお父様と違って、イルルドはお母様に何かをされたという訳ではない。
そんな彼は、今回のことで心を痛めているのではないか。そんな考えが、頭を過ったのだ。
「……まあ、やっぱり気持ちがいいものではなかったかな? 今まで受けてきた愛は、偽りではなかった訳だからね」
「そうね……」
「でも、それでも母様を許す気にはならないよ。母様は、僕の大切な人を二人も傷つけた。それを反省したり、謝罪したりすることもなかった。だから僕も、母様の手を取ってあげようとは思えなかった。それが僕の答えなんだ」
イルルドは、ゆっくりと隠れ家の方に目を向けた。
きっとお母様に、思いを馳せているのだろう。この弟は、本当にどこまでも優しい。私は、それを改めて理解する。
「姉さんの方こそ、大丈夫なのかい? 色々とあった訳だけど……」
「私は大丈夫よ。心の整理はもうついているわ……そんなことより、お父様のことが心配ね」
「父様か。それは確かにそうだよね……」
そこで私は、お父様のことを少し考えた。
彼は結果として、妻を失い、娘と血が繋がっていないことを知った。お母様の前では堂々としていたが、そのショックは大きいはずだ。もちろん私達もフォローするつもりだが、これからがとても心配である。
「……誰かいい人でもいればいいのだけれどね」
「再婚ということかい?」
「ええ、そういう道もあると思うのよ」
私としては、お父様にはできることなら、誰かいい人でも見つけて再婚してもらいたいと思っている。お父様には、傍で支えてくれる人がいた方が、きっといいはずだ。
もっとも、今回のことでお父様が結婚というものを忌避する可能性もある。結局の所、お父様のこれからを決めるのはお父様だ。私達は、それを尊重して支えていくしかないのだろう。




