第10話 意を決して
「……失礼します!」
「え?」
「なっ……」
意を決した私は、勢いよく扉を開け放った。
するとそこには確かに私達のお母様とリビルト様がいた。
問題なのは、二人の姿であるだろう。ある程度予想はしていたが、ベッドの上にいる一糸纏わぬ姿をした二人を実際に見ると中々心にくるものがある。
だが、この状況は私達にとってはありがたいものだ。
一糸纏わぬ姿で逃げるのは流石に難しいだろう。今だって二人とも体を隠して動かないし、こちらにとっても好都合だ。
「……お二人とも、お久し振りですね。お元気そうで何よりです」
「アメリア……これは、違うんだ」
「リビルト様、違うということはないでしょう。この状況で、一体何が違うというのでしょうか?」
「君は誤解をしているんだ。そう、少し話し合うとしよう。それできっと、誤解は解ける」
私の言葉にまず答えたのは、リビルト様の方だった。
彼は、いつも通りの優しく紳士的な口調で私に語りかけてくる。
しかし私は、それが偽りだらけのものだということをもう知っている。いや例え知らなかったとしても、この状況で言い逃れなんてさせないが。
「往生際が悪いですね、リビルト様。お母様も、同じ意見なのでしょうか?」
「アメリア……無礼よ?」
「無礼?」
「このように大勢で急に押しかけて、無礼としか言いようがないわ」
お母様は、少しヒステリック気味にそんなことを言ってきた。
散々な仕打ちをしておいて、この態度とは呆れてしまう。いや、最早そうすることくらいしかお母様にはできないのだろうか。
「無礼であるというなら、あなたが私にしてきた仕打ちの方が無礼であると思いますが……あなたも認めないということですか? リビルト様とそういう関係ではないと」
「……」
「ちなみに、ここのことはとあるメイドが教えてくれました。彼女は、自分こそがリビルト様の本命であると……恋人であると思っているようですが」
「……それは違うわね」
私の言葉に、お母様は鼻を鳴らした。
それはまるで、エルシーのことを嘲笑っているかのようだ。いや、実際にそうなのだろう。
「あの小娘は、利用されているだけだということに気付いていない哀れな娘よ。リビルトが本当に愛しているのは、この私なのだから」
「なるほど、本当にどうしようもない程に愚かですね、お母様は……」
お母様もエルシーも、リビルト様の本命が自分だと信じ込んでいる。それが私は、とても滑稽に思ってしまった。どうして二人とも、自分が利用されているだけだとわからないのだろうか。
恋は盲目、二人の様子に私はそんな言葉を思い出した。二人がそんな風になる程に、このリビルト様は口が上手いとでもいうのだろうか。
「リビルト様、あなたの本命は一体誰なのでしょうね?」
「本命って、何を言ってるんだ、アルメア。これは、誤解だと言っているじゃないか」
私は、質問の対象をリビルト様に移した。
しかし彼は、まだ自分の罪を認めていないようだ。
ここから誤魔化せると、本当に思っているのだろうか。その根性だけは、見事であるといえるかもしれない。
「イルルド、例のものを出してもらえるかしら?」
「ああ……リビルト様、こちらをご覧ください」
「何?」
そこでイルルドは、懐から手紙の束を取り出した。
それを見て、リビルト様は表情を変える。それは当然のことだろう。ここには、彼にとって他者に知られたくない秘密が記されている。
「随分と色々な人に手を出していたみたいですね……」
「ど、どうしてそれを……」
「イルルドが頑張って見つけてくれたんです。すごい所に隠していたみたいですね?」
「バラバラに隠していましたから、苦労しましたよ」
「ぼ、僕の部屋を調べたのか……」
リビルト様の顔が、少しずつ歪んでいく。流石に自分の部屋が荒らされたという事実には、イライラしているらしい。その表情から怒りが読み取れる。
だが、それでも彼は激昂しなかった。そういう風に感情を抑えられるのは流石だ。そうやって感情を上手くコントロールして、様々な女性を騙してきたといった所だろうか。
「まあ、お母様に言わせれば、この方々も利用されているだけに過ぎないのでしょうか? ちょっと数が多過ぎると思ってしまいますが……」
「リ、リビルト、あれはどういうことなの……?」
「アメルタさん、違うんです。あれはただ、僕に勝手に向けられた恋文で……僕の本命は、当然あなたですよ」
リビルト様は、お母様が本命であることをはっきりと認めた。
それはもちろん、嘘ではあるだろうが、ここで重要なのは彼が浮気の事実を認めたということである。
「やっと認めていただけましたね?」
「あ、いや、それは……」
「お母様と浮気ですか。本当に、とんでもない人と関係を持ちましたね……まあ、それはお母様にもいえることですが」
お母様とリビルト様の浮気は、私にとっては二重の裏切りだった。
浮気がそもそも駄目なことではあるが、二人はその相手まで最悪だったといえるだろう。
「さて、そんな二人にお客人です」
「客人……」
「あ、あなたは……」
そこで私は、部屋に二人の人間を招いた。
その二人を見て、お母様とリビルト様は目を丸めている。
それは当然だ。お父様とエルヴィー侯爵、この二人はあちらの二人にとって、今最も会いたくない人達であるだろう。




