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吾輩は悪女の愛猫である  作者: 黑野羊
4)猫は膝より日向が好き
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4-2

 話が元に戻るようなので、吾輩もユーリに向けていた視線を、窓の外に向ける。

「それで? 男は部屋の鍵を『リズからもらった』と言っていたのだな?」

「はい。リズ本人に確認しましたが、渡した覚えもなければ、複製もしていないそうです」

「複製禁止魔法はかけてたんだよね?」

「もちろんです」

 この世界の人間用に作られた道具は、あらゆるところに魔力が使われている。

 特に人間は誰もが魔力を持っており、それは人によって微妙に違うそうで、全く同じ魔力の人間はいないと言われているらしい。だから部屋の鍵などの大事なものの場合、持ち主の魔力を混ぜないと複製が出来ないようにする『複製禁止魔法』がかけられてることが殆どだ。

 だからつまり。本来ならあり得ない話だが、リズに許可なく複製された鍵を侵入した男が持っていた、ということになる。

 ――そうか。前回の時、犯人は窓から侵入したから使わなかったけど、部屋の鍵も持っていたに違いない。だからみんな『リズが男を招き入れた』なんて嘘を信じたんだ。

 だって、あり得ないものが存在したのだから、リズの真実が嘘になっても仕方がない。

「その鍵はどうやって入手したんだろう?」

「犯人の男は屋敷のメイドから『リズからの贈り物』だと言って渡されたと答えています」

「ふむ……。鍵を渡したメイドは?」

「犯人に渡したメイドは屋敷の使用人から頼まれたと言っており、辿ってみると複数の人間を介していたようです。最初に誰が鍵を用意したのかまでは、まだ辿り着けていません」

「そうか……」

 何人も辿らないといけないなんて、鍵を用意したやつは随分前から準備していたようだな。

「とにかく一番の問題は、どうやって鍵を複製したか、ですね……。リズは自分の鍵をちゃんと持っていましたし、誰かに鍵の複製を許可したりもしてないそうなので」

「となると、誰かが鍵の詳細な形状とリズの魔力を違法に入手して、リズを嵌めるために複製したことになるな」

「そうですね。普通に我が家への窃盗が目的で、特定の鍵の形状と誰かの魔力を盗めるのなら、親鍵のほうを複製するでしょうし」

 おそらく、確実にリズを『部屋に男を招き入れる悪女』にするために用意したんだろう。

 しかしこれで、公爵家にリズを狙う”ネズミ”が潜んでいることが確定した。

 この家で世話になる猫としては、一応気にしておいた方が良さそうだな。

 窓の外にある大きな木の枝に、小鳥が数羽遊んでいるのを見つけて、吾輩はそちらを目でしばらく追いかける。

「使用人たちの中で気になる動きは?」

「数日前にアイネの専属侍女が一人、実家の都合で退職したことくらいですかね」

 視線を二人に戻すと、ユーリが王太子にまた違う書類を手渡すところだった。あの紙には侍女の情報が書かれているのだろう。

「実家が遠方らしく、まだそちらとは連絡が取れていない状態ですが、確認が出来しだい、殿下にもご連絡します」

「……アイネ嬢、か」

 書類をテーブルに放った王太子が、何かを考えているような顔をする。

「何かありましたか?」

「うん。たしか先月くらい、だったかな。妹が呼ばれて行ったエルレイン侯爵家のお茶会で、リズの悪口を楽しそうに語るアイネ嬢を見たと言っていてね」

 王太子の妹ってことは、王女のメリル・ローズ・マルクトゥーラか。

 リズが王太子妃教育で城に行くと、時々一緒にお茶をしてるって言っていた。リズより三歳年下で、自分を本当のお姉さんのように慕ってくれるのだと、リズが嬉しそうに話してたっけ。

「……それは、お見苦しいところを」

 ユーリが頭が痛いと言わんばかりの顔をした。公爵家にとって恥ずかしい行動を、よりによってリズと仲のいい王女に見られたんだから、そりゃバツが悪いよな。

「メリルはリズにとても懐いているから、随分と嫌な気持ちになったそうだよ」

「王女殿下が今の学園に行ったら、大変なことになりそうですね」

「ふふ。アイネ嬢は王女がまだ学園に通える年齢じゃなくて、ラッキーだったと思うべきだな」

 この口振りから察するに、アイネの学園での所業は、ユーリから王太子に伝わっているようである。

 ――今世のユーリはよく働くな。

 吾輩は耳をパタパタ動かし、大きくあくびをした。前回の時とは大違いすぎて、まったく頼もしい限りである。

「アイネの動きには、一応こちらも注意を向けています」

「……何かあるのか?」

「はい。先月の、母上を狙った事件にも関与している疑いがありまして。それに……」

「それに?」

「先ほどの、件なんですが……」

 ユーリが言い淀むので、吾輩も気になってそちらに視線を戻す。王太子はしばらく考えた顔をしていたが、すぐに何かに思い至った表情になった。

「ああもしかして、ユーリの心境の変化について?」

「……はい。実はアイネが『魅了』の魔法を使っていることが分かりまして」

「なに?」

「少し前、アイネに請われて魔力操作の練習に付き合ったんですが、その時に魅了効果のある魔導具を身につけていることに気付いたんです」

『魅了』魔法はたしか、男女問わず発動者を無条件で好きになったり、支持したりするようになる、精神操作系の魔法の一つだ。

 ――そうか。その魔法のせいでユーリは、これまでアイネの肩を持っていたのか。

 屋敷の使用人の一部が妙にアイネに好意的なのも、そのせいだろう。

「なるほどな。でも術に気付いて解けたってことは、そこまで強い魔導具じゃなかったようだね」

「はい」

 精神を操る魔法は難しいらしく、魅了の魔法も対象者が魔法を使われていることに気付くと解けるらしい。そもそもは対象者が持つ小さな好意を、何倍にも増幅させてしまうようなものだと、リズが言っていたな。

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