7 不可解な対戦相手
——最後まできちんとやり遂げる、きちんと区切りをつける——
ただの茶道家の気持ちだ。そう思えば、それで済む話だった。しかし、アリシアの中で、今、目の前に座っている美和が発したこれらの言葉と、昨日、マネージャーが語っていた話とが、妙にぐるぐると入り混じっている。
桜井美和がベルト王者に勝ったというのは本当だろう。そのことは、美和の手を見れば確信できる。普通の人は気づかないが、数多くの対戦を積んできた自分なら分かる。美和はかなりの実力者といっていい。
だからこそ、昨日のマネージャーの話がどうしても気になる。フリー選手で、ベルト王者に勝つほどの強さでありながら、周囲の証言がここまで曖昧になるものだろうか。試合数は少ないというのも不自然だ。さらに、対戦相手の中には、引退したり、行方不明になっている者も多いと言っていた。一体、桜井美和と言う選手は、何者なのか。
今、その張本人が、自分の目の前にいる。背筋を伸ばして座る姿は、まさに茶道の師範そのものだ。茶碗を持つ手も、視線の運び方も、無駄がない。
(……茶道!)
そうだ、日本人は格闘技に「―道」とつけたがる。柔道、剣道、弓道……。この前「横綱」という最強の称号をもらった力士も「これからも相撲道に精進してまいります」と言っていた。となると、「茶道」も、日本人の中では格闘技の一つなのではないか。
日本人の茶道は、今では我々の国の「ティー・パーティ」と同様に、今は洗練された女性たちの趣味のようになっているが、元来は、「サムライ」たちのものなのだ。彼らは戦場に向かう前、あるいは戦って敵将の首を狩った後に、こうしてお茶を飲んでいたようだ。そもそも茶道の創始者が、最期は「ハラキリ」の前に茶をたてていたとのではなかったか。
(………!)
ずっと頭の中で散らかっていたいろいろな疑問が、やっと一つの形になった。
——最後まできちんとやり遂げる、きちんと区切りをつける——
もしかすると、美和は試合で相手を完全に打ち負かすという信念の持ち主なのかもしれない。それなら、試合後のコメントが極端に少なく、残っていても内容が薄いのも説明がつく。美和と闘った相手は、それしか言えない状態にまで追い込まれたのだ。
引退や行方不明になっている選手が多い、それも筋が通る。特に行方不明と言うのは……。
観客のコメントが、『震えるような試合』とか『二度と見たくない』と言ったものしかないのも、それはそうだろう。対戦相手が引退や行方不明になるような試合なんて、見れば震えるし、二度と見たくないと思っても当然だ。対戦が組まれることが少なくなるのも、筋が通る。そんなの、見せられるものではない。
よく試合を「デスマッチ」だとか、「サバイバルゲーム」と呼ぶことがあるが、あれは本気でそう思っているわけではない。むしろ、本当は安全だとみんな確信しているから言っているのだ。レスラーが対戦相手に「ぶっ潰してやる」とか「マットに沈めてやる」とののしるのも同様だ。
桜井美和については語ってはならぬとでもいう掟でもあるのか、とマネージャーは話していた。本当に危険なものや恐ろしいものに対しては、誰もが口を閉ざしがちになるものだ。




