@ニッポンの地へ
長いフライトの末にたどり着いた日本は、オーナーの言ったとおり刺激に満ちていた。浅草寺、スカイツリー、豊洲市場、歌舞伎座――見慣れないものばかりで退屈する暇もない。
だが、彼女の専門であるリングの上は、そうではなかった。
日本人選手は今まで対戦してきた相手たちのように力で押し潰そうとはしない。代わりに、巧みな技術と素早い動きを駆使してくる。果敢に挑んでくる。会場は白熱する。
―—でも、物足りない。
彼女たちはアリシアを倒そうとはする。試合は白熱する。勝負を決める最後の踏み込みが今一つなのだ。
やがてアリシアは気づいた。
海外から来た「王者」への歓迎――どうやらこれは、日本人特有の「おもてなし」というやつらしい。
「あー! 『王者』ってそういう意味じゃないのにー」
そんな日々が続く中で、一つだけ、日本に来て、よかったと思えることがあった。大相撲を見たことだ。
闘うことに特化した肉体を持った力士たち。土俵にしっかりと立つ両者。行司の掛け声とともに、真正面から組み合う。押し出すか、引き落とすか——。勝負は一瞬のうちに決まる。
(——いいわねぇ)
試合を終え、降りていく力士たちの背中を眺めながら、アリシアは満足そうにうなずく。
双方が決着をつけるために、全力でぶつかる。プロレスのようにフォールまで時間をかける必要もない。以前、試しに本気で闘ってみたら、一分で終わったことを思い出した。あの時は、後で大会の主催者からひどく怒られたものだ。力士たちはそういう心配はない。しかも外国人でも力士になっている者がいるそうだ。彼らも自分のような息苦しさで力士になったのだろうか。
(……ただ、土俵には男性しか上がれないのよね)
アリシアは小さく息をついた。あれだけ真っ直ぐな勝負ができる場所だというのに。もっとも、力士になるためには身長も必要だという点を、彼女はまだ知らないのだが。
せっかくの来日も、今では休日になるとホテルに籠もってばかりの日々になってきた。




