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第23話(3)少女の心 -望と朋夜-

 幸紀と朋夜が言葉を交わしている間、望は目を閉じていたが、眠るに眠れないでいた。

 彼女の瞼の裏に映るのは、怪我をするより前の自分の姿だった。


(望すっごい!今年も県のダンスコンクールの賞、総ナメじゃん!)


(『白鷺女子』の推薦も貰ったんだって!?あの市子心愛ちゃんと同じ高校なんでしょ!?あそこ入るの難しいんだってね?すごくない?)


『まぁ、私なら県大会くらいラクショーなんで。高校入ったら、次は全国取って心愛より有名になるし。ほら、未来のスターのサインがほしいなら今のうちだよ?』


(ちょーだいちょーだい!)


 クラスメイトたちに褒められ、尊敬を集めていた日々。望も屈託のない笑顔で夢を語っていた日々。しかし、そんな日々は、ある日突然崩れ去った。


『シネェエエエヤァ!!』


『な、何、なんなのこいつら…!?』


 ある日の帰り道、1人で歩いていた望を、大勢の悪魔が取り囲み、抵抗する術を持たない望に、悪魔たちは力任せに襲いかかるのだった。


『やめてぇええ!!!』




「…望さん?」


「…!!」


 今まさに、夢の中で悪魔たちに押しつぶされそうになった望を、現実に引き戻したのは朋夜だった。

 望は周囲を見回し、自分が今いる場所がバスの車内であることを確かめると、油汗を拭って朋夜と話し始めた。


「…なんです?」


「起こしてしまい申し訳ありません。また、道を作っていただきたく」


「…わかりました」


 望は朋夜と目を合わせないまま、霊力で棍を発現させ、それを杖代わりにして歩いていく。朋夜は、痛々しく脚を引きずる望に、思わず声をかけてしまいそうになるのを堪えて、望の後ろを歩き始めた。



 数分後、朋夜と望はバスの正面にある、橋の残骸の近くにやってくる。先ほど道を作ったのとは別の橋であったが、この橋もやはり悪魔軍によって破壊されていた。


「お願いいたします」


「…はい」


 朋夜に頼まれ、望は壊れた橋を棍で突く。そして、目を閉じて霊力を集中させると、谷間の川底から、岩石をせり上げ始めるのだった。


「望さん、手をお貸しします」


 朋夜は再び望の背中に手を置き、望に霊力を送る。

 ふたりの間に沈黙が流れると、朋夜は息を吸ってから話し始めた。


「望さん」


「なんです」


「話を…したいです」


「さっき、嫌だって、言いませんでしたっけ」


「それは存じております」


「なら、終わりです」


 望は朋夜に背中を向けながら冷たく言う。言葉に詰まった朋夜だが、すぐに思い出したように言葉を返した。


「しかし、幸紀さまから『命令』を受けております。望さんが、私を憎んでいる理由を聞き出し、和解しろと」


「別に憎んでるわけじゃ…」


「では、なぜ…」


 望も朋夜も、言葉の勢いが弱まる。

 望は、少し弱気になった朋夜を見て、顔を少し朋夜の方に向けた。


「…しょうがないか、『命令』ですもんね。正直に話します」


 望の言葉に、朋夜は固唾を飲む。望は、夜空を見上げた。


「…私は、ダンサーだった。小学校の頃から、地方大会の常連で、県大会はいつもトップ、芸能界へのデビューだって夢じゃなかった」


「…」


「あなたに会った時は、もう完全に浮かれ切ってる時だった。『白鷺女子』への進学も決まり、中学生のうちで取れるトロフィーは全部取って、あとは全国デビューするだけ。みんなが私の踊りを褒めてくれて、私もみんなのために踊ってた。1番楽しかった頃だった」


 望はそう話すと、俯いた。


「ダンスは私の生き甲斐だった…でも…あの日…もう私は踊れなくなった。その瞬間、仲良くしてきた友達は離れて、スカウトの人たちも、先生たちも、私をいなかったものとして扱った。本来の翡翠望は、あの時死んだの」


「…」


「巫女さん。あなたを見てると思うの。あなたがもう少し早く来てくれたらって。私の脚が壊される前に来てくれてたらって。でも実際、命は助けてもらった。だから、私はあなたを恨むに恨みきれない。本来の翡翠望を助けてくれなかったけど、私が今、ここにいるのはあなたのおかげでもあるから」


「…左様、ですか…」


「だから私は死にに来た」


「…え…?」


 驚く朋夜をよそに、望の前に道が出来上がる。望は暗闇へ伸びるその道の先を見つめながら、言葉を続けた。


「いつまでも、楽しかった時の思い出に縛られて、生き甲斐のない人生をただ茫然と過ごすだけの日々…恨みたい相手に感謝を続けなきゃいけない人生…そういうの、嫌になったんだ、私」


「そんなこと…!」


「皮肉だよね。襲われて、死にかけて、脚が動かなくなって初めて、霊力に目覚めて。一時的には普通に動けるようになったのに、やりたいことが自殺なんてね。でも何もかも遅すぎたんだ。あなたが助けに来るのも、私が霊力に目覚めたのも。だけど誰も悪くない。私が全部悪いだけ。だから私ひとりで死ぬって決めた」


 望は自分の言いたいことを好きなだけ言うと、暗闇へ伸びる道を進んでいく。朋夜はそんな望の背中に声をかけた。


「望さん!どこへ行くのです、単独行動は危険です!」


「また道が無くなってるかもしれないですからね。先に行ってみるだけです」


「あれだけのことを言われて、おいそれとそんなことを信じられません…!お待ちください!」


 朋夜は声を張って望の後を追いかける。脚を引き摺る望に追いつくのは容易で、朋夜はすぐに望の隣にやってくるが、望は構わず、自分で作った橋を歩き、川を越える。


「望さん!ここから先は指示を受けていません!止まってください!」


 橋の中央で、朋夜は望を追い抜き、望の前で両手を広げて望を止める。

 望は前髪で隠れていない方の目で朋夜を見つめた。


「どいてくださいよ。いい加減、こんな人生、終わりにさせてください」


「そんなこと…させません!」


「これ以上私を苦しめてあなたは何がしたいんです…!」


「望さんを苦しめたいわけではありません。ですが、『月暈の巫女』として、苦しみ傷ついた人を見過ごすわけにはいかないのです!」


「あんたのエゴを押し付けないでよ!!私のことも救えなかったくせに!」


 望は声を荒げると、朋夜を突き飛ばす。朋夜がよろめき、道を開けると、望は橋を渡り切る。


「待ってください!」


 朋夜はすぐに体勢を立て直すと、望を追って橋を渡る。

 二人が向こう岸についた直後だった。


 先に進もうとする望の目の前に、望の身長と同じほどの黒い大剣が、どこからか飛来して地面に突き刺さる。

 望の足が止まったその瞬間、目の前のその大剣は徐々に赤く、発光し始めた。


「…何?」


「望さん、危ない!」


 危険を察知した朋夜は、望に追いつくや否や、望を庇うように覆い被さり、大剣から距離を取ろうとする。

 

 瞬間、大剣が爆発し、辺り一帯に爆風が吹き荒れる。


 その爆風に吹き飛ばされ、朋夜と望は、真下に暗闇しか見えない空中へと放り出されるのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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