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第23話(4)悪魔の心 -望と朋夜-

「望さん、危ない!」


 危険を察知した朋夜は、望に追いつくや否や、望を庇うように覆い被さり、大剣から距離を取ろうとする。

 

 瞬間、大剣が爆発し、辺り一帯に爆風が吹き荒れる。


 その爆風に吹き飛ばされ、朋夜と望は、真下に暗闇しか見えない空中へと放り出されるのだった。


「!!」


 望を抱えていた朋夜は、自分たちの置かれた状況を瞬時に理解すると、右手に霊力を集中し、刀を発現させる。


 2人の体が自由落下していく中、発現させた刀を真横に見える岩肌に突き立てる。


 刀が火花を散らしながら、2人の体をいくらか減速させていく。


 朋夜は望を抱えながら、刀をさらに強く握る。


 だが、片手から伝わる凄まじい振動にいよいよ耐えきれなくなると、朋夜の手が刀から離れた。


「!」


 2人の体が暗闇に投げ込まれ、地面に体が叩きつけられ、痛みが走る。


 刀を突き立てたことにより、落下しても問題ない高さまでは下ることができていたが、それでも2人の体には少なくないダメージが来ていた。


「くっ…大丈夫ですか…望さん…」


 谷底の河原で、朋夜は背中を押さえながら、自分の腕の中に倒れる望に尋ねる。望は苦しみながら瞼を開けると、ゆっくりと上体を起こした。


「…死んではいないみたい…うっ…!」


 望はそう呟くと、棍を発現させ、立ちあがろうとする。しかし、望が足に力を入れようとしたその瞬間、彼女は大きく体勢を崩した。


「望さん!」


「…ここで霊力切れか」


「お待ちください、今、霊力を…」


 朋夜がそう言って望に手を伸ばそうとした瞬間、河原の石を踏み締める無数の足音が、周囲から聞こえてくる。

 朋夜は望への霊力の供給をやめ、即座に立ち上がると、武器である日本刀を腰の高さに構え、足音のする方へと身構えた。


「やはり、『月暈の巫女』だったか」


 朋夜の正面から聞こえてくる若い男の声。朋夜は刀の鯉口を切り、右手を刀の柄にかけた。


「何奴…!」


 朋夜が低い声で尋ねると、彼女の正面にいたその男は手元のランタンに火をつける。

 炎でぼんやりと照らし出されたのは、幾度となく星霊隊の前に立ちはだかってきた悪魔、ポラリスだった。


「俺の名はポラリス。会えて光栄だぞ、『月暈の巫女』。多くの同胞を屠ってきた貴様を、俺の手で討ち取れるのだからな」


 ポラリスが鋭い表情でそう言うと、ポラリスの背後の暗闇から、点々と炎が灯り始める。無数にも思える炎の数だけ、敵がいるというのが嫌でも朋夜と望にも伝わってきた。


「…巫女さん、逃げなよ。この数でも、今なら逃げ切れるかもよ...私なら…もう、これでいいから」


 望は俯きながら弱々しく言葉を発する。そんな望に見向きもせず、朋夜は望の前に立ち、ポラリスたちの前に立ちはだかると、大きく息を吸ってから声を張った。


「悪魔どもよ!この『月暈の巫女』が相手となろう!死を恐れぬのならば、かかって参れ!」


 朋夜の名乗りに、ポラリスの隣にいたフェルカドが嬉々として反応した。


「おう!若、拙者が行ってよろしいですな?」


「ダメだ。手筈通り、数で押しつぶす!1番隊!かかれ!」


 フェルカドの言葉に対して、ポラリスは冷静に答え、号令をかける。指示を受けた悪魔たちは、ポラリスとフェルカドの背後から、朋夜に対して駆け出した。


「シネエェエエアアア!!」


 無数の悪魔たちの金切り声にも似た声と共に、棍棒や、軍刀といった武器が、朋夜に振り下ろされる。

 しかし、その直後、攻撃したはずの悪魔たちは、胴体から真っ二つにされ、黒い煙へと変わっていく。

 朋夜はわずかな動きを何度か繰り返しているだけだが、そのたびに悪魔たちは煙に変わっていた。


「ど、どうなって…ギャアア!!」


 悪魔たちは困惑するが、朋夜の攻撃の正体も掴めずに黒い煙へと変わっていく。

 瞬く間に、ポラリスの指示を受けた1番隊は全滅していた。

 だが、ポラリスたちの目に映る朋夜は、刀すら抜いておらず、鞘に刀を納めたまま腰に構えているだけだった。


「何が起きている…?」


 ポラリスは思わず呟く。そんなポラリスの横で、フェルカドが声を弾ませながら話し始めた。


「あれは別世界で『居合』と呼ばれている技に似ていますな!目にも止まらぬ速さで刀を抜き放つ技術です。我らの同胞が理由もわからずに殺された原理がようやくわかりましたぞ!それにしても、これほど珍しい技術を間近で見られるとは、長生きするものですな!」


「感心している場合か!対処法はないのか!」


「拙者にお任せあれ!」


 やや苛立つポラリスに対し、フェルカドは喜び勇んで前に出ると、背中に背負っていた大剣を抜き、正面に構えた。


「『月暈の巫女』よ!我が名はフェルカド!貴様の血と首を悪魔神王に捧げん!いざ!」


 フェルカドが名乗る間に、朋夜は自分の正面で一瞬、刀を抜き、刃の状態を確かめると、怯むことなく、刀を鞘に納めたまま、腰を大きく落とし、右手を刀の柄にかけた。


「巫女さん、気をつけて、そいつ、絶対に強い…!」


「ええ、わかっております。ですが、私は負けませぬ」


 朋夜を心配する望の声に、朋夜は低く、短く答える。望は、そんな朋夜の背中を見上げていた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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