第22話(4)奇襲-水咲とキララ-
キララと水咲の乗る車の数百メートル先の道路で、突如爆発が起きる。
キララはすぐに水咲から手を離すと、ハンドルを握り直し、爆発を回避して回り込む。
「なにごと?」
「知るか!」
水咲の呟きに、キララは吐き捨てるように言うと、ハンドルを切って本来走っていたコースに持ち直す。
黒煙を抜け、視界が晴れた瞬間、彼女たちの正面に、大柄な悪魔が1体、道路の真ん中に立ち塞がっていた。
「あの悪魔…フェルカドとか言ったかしら」
「興味ねぇですわ、自殺志願ならお望み通りにしてやらぁ!!」
キララは荒れた口調で言うと、アクセルをさらに強く踏む。
一方、キララたちの乗る車の正面に立つフェルカドは、軽く肩を回すと、加速してくる車を見てニヤリと笑った。
「このフェルカドに機械の力如きで勝てると思うてか!」
最高スピードになった車がフェルカドにぶつかる。
しかし、フェルカドはその場に踏ん張ると、車を受け止める。
「むううん!!」
フェルカドは車に押されて後退していくが、徐々に車の方が減速していく。
そうしているうちに、フェルカドは車の底部に手を入れた。
「そおおりゃぁああ!!」
フェルカドの裂帛の気合いと共に、キララたちの乗っていた車がひっくり返る。
車内ではキララと水咲の悲鳴が響き、天地がひっくり返っていた。
「くっ…なんて馬鹿力なの…!」
「さっさと出ますわよ!」
「言われなくたって…!」
キララと水咲は口々に言いながらそれぞれ近いドアから車を脱出する。
しかし、車から這い出た2人が目にしたのは、2人を取り囲む無数の悪魔と、その背後で廃バスの上に立ち、周囲を見下ろしているポラリスとフェルカドだった。
「別行動した奴がいると思い、網を張っていれば…面白いものが釣れたものだ」
ポラリスはそう呟くと、右手を挙げる。直後、悪魔たちのうち、ポラリスから見て右側にいる部隊が、キララと水咲の方へ走り出した。
キララはすぐに一歩前に出ると、武器である三節棍を発現させた。
「ここはわたくしが引き受けますわ、水咲さま、皆さまを…」
キララが話しているその途中で、水咲は悪魔たちに背を向けて走り出した。
「ちょっと!水咲さま!!どこへ行くんですの!?星霊隊はそっちにいませんわ!」
「あなたこそなにやってるの、早く逃げるわよ!こんなところで死ねないわ!」
「物資を守らないと!わたくしがやりますから皆様を呼んでくださいまし!」
「冗談じゃないわ!命有っての物種よ!そんなもの捨てて逃げるわよ!」
「わたくしは逃げませんわ!命よりも大事な任務がありましてよ!」
「ああもう、知らないわ!好きにしなさい!私は降りる!」
水咲は言うが早いか、近くにあった路地裏へと駆け込んでいく。一瞬後を追おうとしたキララだったが、すぐに悪魔たちがキララに襲いかかってくる。
キララは三節棍で悪魔たちの攻撃を受け止めると、素早く悪魔の脚を蹴り、怯ませてから、三節棍で連撃を叩き込み、黒い煙に変える。
しかし、キララ1人に対する悪魔たちの数は変わらず多く、逃げ道キララの逃げ道はすぐに塞がれた。
「お友達に見捨てられて可哀想にな」
ポラリスは退屈そうに廃バスの屋根の上に腰掛け、キララに憐れみの言葉をかける。しかし、キララは鼻で笑い飛ばした。
「ふん!仲間のために命を懸けることこそ、気高い人間の魂の為せる業ですわ!あぁ、下等な悪魔の知能じゃ分からなくて当然でしてよ!」
「お前はその下等な悪魔の知能にすら勝てんのさ。お友達共々、地獄に送ってやろう」
ポラリスは短く言うと、左手を正面に伸ばす。キララの背後を取っていた悪魔がキララに襲いかかると、キララは振り向きざまに攻撃を受け止める。
直後、キララの背後から2体の悪魔が駆け寄った。
(!)
キララは敵を追い払うために蹴りを放つ。
1体は追い払えたものの、もう1体の悪魔がキララの片足を狙って棍棒を振るう。避けようがない攻撃に、キララは脚を払われてその場に倒れ込んだ。
「痛てっ…!クッソ…!」
キララが悪態を吐く。
倒れ込んだキララを取り囲むように、悪魔たちが集まり、一斉に棍棒を振り下ろす。
キララは間一髪で三節棍で迫る全ての棍棒を受け止めたが、悪魔たちの力は強く、あと少しで押し負けそうになっていた。
「くっ…おりゃあ!」
キララは一瞬だけ霊力を強め、棍棒を弾き返し、立ち上がりながら周囲に三節棍を振るう。しかし、攻撃は悪魔に一切当たらず、囲まれている状況へ仕切り直しになっただけだった。
キララの息が荒れ、汗が浮かぶ。それでもキララは武器を構えた。
(…諦めませんわ…最期の瞬間まで、わたくしは気高くあり続ける!それがレミ子さまとの約束だから…!)
その頃、ポラリスたちから単身逃走し、路地裏を走っていた水咲は、もうすぐ路地裏を抜けようとしていた。
(元々星霊隊なんて私には縁もゆかりもないのよ…!命まで懸けてやる必要なんてない!私は好き勝手生きる…!もう誰にも私の人生を狂わせない…!警察も機能しない今こそ、私は欲した全てを手に入れて生きる…父さまと母さまのためにも…!)
「そこだぁあ!!」
路地裏を抜けようとした水咲の頭上から、声が聞こえてくる。水咲が顔を上げたその瞬間、真っ黒な影が水咲の正面に降り立ち、コンクリートが砕け、飛び散る。
煙が吹き抜けた直後、水咲の目に映ったのは、道を塞ぐように、大剣を片手に立つフェルカドの姿だった。
「…!」
「このフェルカドから逃げられると思うてか、小娘!」
「情熱的なラブコールね。けど顔がタイプじゃないの、死ね!」
水咲は言うが早いか、自分の武器である鞭を発現させ、そのままフェルカドの顔面を目掛けて振り抜く。
常人なら反応もできない鋭い一撃。しかし、フェルカドは身じろぎひとつせず、片手で鞭の先端を掴みあげた。
「!?」
水咲は驚き、すぐにフェルカドから鞭を引き抜こうと引っ張る。しかし、フェルカドの力は強く、全く抜けなかった。
「ふははは!強いのは言葉だけのようだな!」
フェルカドはそう言うと、一気に鞭を引っ張る。
「っ!」
水咲の姿勢が崩れ、鞭を奪われる。
勢い余って、水咲はその場に倒れ込んだ。
「しまっ…」
水咲が立ち上がって逃げようとしたその瞬間、彼女の背中が凄まじい力で踏みつけられる。
抵抗できなくなった彼女の首に、フェルカドに奪われた鞭が巻きつき始めた。
「ひ…っ…助け…!!」
命乞いをしようとした水咲の思いも虚しく、鞭は水咲の首を絞め始める。
水咲が必死にもがくが、フェルカドに踏みつけられ、その上で首を絞められては、水咲になす術はなかった。
「潔く死ねぃ、女!」」
フェルカドがそう言って力を強める。
水咲の表情が歪み、力が抜けていく。
彼女が全てを諦めたその瞬間だった。
刀が空を切る音と同時に、水咲の背中を抑える力と、首を絞めていた鞭が、水咲から離れた。
「ゲッホ、ゲホ…はぁ…はぁ…何…?」
水咲が状況を理解しきれずに振り向く。
朦朧とした意識の彼女の目の前には、黒いロングコートの背中がたなびいていた。
「まさか…!」
「貴様…!」
「久しいな。フェルカドと言ったか。また俺に目を潰されたいらしいな?」
フェルカドにそう言って刀の切先を向けるのは、黒いロングコートの剣士、東雲幸紀だった。




