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第22話(5)気高き魂-水咲とキララ-

「久しいな。フェルカドと言ったか。また俺に目を潰されたいらしいな?」


 フェルカドにそう言って刀の切先を向けるのは、黒いロングコートの剣士、東雲幸紀だった。


「ええい、なんと忌々しい男だ…!」


 毒づくフェルカドに対し、幸紀は一切の迷い無く、刀による突きを放ち、フェルカドの顔面を狙う。しかし、フェルカドは地面に置いていた大剣を拾い上げ、片手でそれを弾く。

 フェルカドは大剣を振りかぶる素振りを見せる。幸紀が警戒して構えを変えると、直後、フェルカドは幸紀たちに背を向けて走り始めた。


「戦わずに逃げた…?」


 幸紀はフェルカドの行動に理解が追いつかなかったが、すぐに刀をしまうと、水咲の方へ歩き寄った。


「おい、生きてるか」


「え、えぇ…ひゃあっ!?」


 地面に倒れて動けないままの水咲を、幸紀は片手で脇に抱えると、水咲に命令した。


「キララと補給物資はどこだ。案内しろ」




 同じ頃、単身で無数の悪魔に取り囲まれていたキララは、ひと通り敵を一掃したが、多くの傷を負い、疲労の限界を迎えようとしており、その場に片膝をついていた。


「はぁ…うう…負けてたまるか…!」


「いいや、お前の負けだ」


 ポラリスはやはりバスの屋根の上に腰掛けたまま、そう宣言して指を鳴らす。

 すると、どこからか悪魔が続々と姿を現す。

 キララはそんな光景に息を呑んだが、ゆっくり立ち上がった。


「ふ、ふん…上等…ですわ…全員まとめてぶっ飛ばして差し上げ…」


 キララがそう言おうとしたその瞬間、いつの間にかキララの背後を取っていた悪魔の1体が、キララの首を背後から腕で締め上げ始めた。


「くぉっ…!」


 キララはすぐに暴れて、なんとか敵を振り解く。


 しかし、今度は逃げた先の正面に現れた悪魔が、キララの鎖骨に棍棒を振り下ろした。


「ぎゃあああっ!!」


 キララの悲痛な悲鳴があたりに響く。キララが肩を抑えて動けないでいると、悪魔たちがキララの両腕を取り押さえ、無理やり立たせる。

 動けないキララに、棍棒を持った悪魔たちが次々と入れ替わりながら全力でキララの体に棍棒を振り抜き始めた。


「ぐはっ…ああっ…!」


(…このまま…なぶり殺されるんですのね…こんな…無様に…レミ子さま…せっかく助けてくださったのに…申し訳ありませんわ…)


 口の中の切れた部分から感じる血の味に、キララは諦めを覚え始める。

 そんなことなどつゆも知らず、悪魔たちは棍棒を振るう。


「よし、お前ら、好きなだけいたぶっただろう。トドメを刺せ」


 ポラリスが指示を出す。すると、悪魔たちは棍棒を置き、軍刀へと持ち替えた。

 直後、路地裏からフェルカドが走って現れ、ポラリスに対して声を張った。


「若ぁああ!!コーキです!!コーキが出ましたぞぉおお!!」


「なんだと!?撤退だ!」


 ポラリスはフェルカドからの報告を聞くやいなや、撤退の指示を出し、廃バスの屋根の上から飛び降りる。


 そんなポラリスの眼前を強烈な斬撃が迸り、コンクリートを一直線になぞるようにして衝撃波が通る。衝撃波の進路上にいた悪魔の数体が砕け散るのを見て、ポラリスは息を呑み、衝撃波が飛んできた方向へ振り向く。


 黒いロングコートをたなびかせ、右手で刀を回しながら、東雲幸紀は悠々と歩いてきていた。


「お前は本当に…他者の足ばかり引っ張るよな、コーキよ」


「遺言はそれだけか?」


「同じ言葉をそっくり返してやろう。かかれ!」


 ポラリスがそう言ったかと思うと、廃車の陰から、幸紀の背後を襲う様に、悪魔たちが現れ、飛びかかる。

 しかし、幸紀は振り向きもせずに刀を背後に突き立て、その後、振り向きざまに刀を横に薙ぐと、5体は居た悪魔を一刀で一掃した。


「この程度か?」


 幸紀はポラリスの方へと振り向きながら尋ねる。しかし、その瞬間には、既にポラリスの姿は消えていた。


「…戦いもせずに逃げた、か…賢い奴だ」


 幸紀は1人小さく呟くと、リンチされているキララの方へと歩いていくのだった。



 キララたちをリンチしていた悪魔たちも、さすがに状況を理解していた。


「まずい、俺たちも退くぞ!」


「こいつは殺しとくか!そこに倒せ!」


 悪魔たちはやり取りをすると、ボロボロになったキララをその場に仰向けに倒す。キララは既に抵抗できず、かろうじて息だけをしている状態だった。


 そんなキララに、悪魔たちは軍刀を突き立てようと、軍刀を振り上げる。


 瞬間、悪魔たちの足元から水が吹き上がり、悪魔たちを天高く打ち上げると、悪魔たちを黒い煙に変える。

 生き延びた悪魔たちが振り向くと、地面を鞭で叩き鳴らしながら、水咲が歩いてきていた。


「なんだこのババア!?」


「命知らずがいたものね。私を本気で怒らせたいの?」


 悪魔たちはキララを放置し、全員で水咲の方へ迫ろうとする。

 しかし、水咲が鞭で地面を叩くと、人間の膝ほどの高さの水が発生し、悪魔たちの足へ波となって流れる。

 直後、姿勢が崩れた悪魔たちの頭に、水咲の鞭が鋭く飛んでいく。

 続々と悪魔の頭が飛び、黒い煙に変わっていくと、次の瞬間には悪魔たちの姿はもうそこに無く、全滅していた。


「ったく、私を誰だと思ってるの?悪魔如きが気安く触れる安い女じゃないのよ、私は」


 水咲は吐き捨てるように言うと、キララの方に目をやる。


 キララの体が上下しており、生きていることを確認すると、キララに歩き寄り、そばにしゃがみ込むと、キララの背中に手を回し、上体を起こさせた。


「み…さき…さま…?」


 キララに名前を呼ばれるのを気にせず、水咲はキララに肩を貸して立ち上がる。

 水咲は、キララの方を見ないまま話し始めた。


「…私は借りを作るのは嫌いよ。結果はどうあれ、あなたが私を逃がそうとしたのは事実。でもこれで貸し借りなしね」


「…」


 水咲の言葉に、キララは黙り込む。水咲はそんなキララの横顔を見て、鼻で笑ってから話し始めた。


「ひとつだけ、あなたを見て思ったことがあるの」


「…なんですの?」


「レミ子はクズよ。やっぱり。下らない理想であなたを縛って殺しかけたんですもの」


 水咲の言葉に、キララは怒るでもなく、首を横に振って反論した。


「…違いますわ。レミ子様の理想を信じる心が、あなたを逃がし、幸紀さまとの合流まで耐えさせてくれたんですわ」


 キララの反論を聞くと、水咲はニンマリと笑った。


「頑固な女ね」


「お互い様ですわ」


 2人が短く言葉を交わしているうちに、幸紀がひっくり返っていた車を押して元の走れる状態に戻す。


 幸紀は車のドアを開くと、2人に対して命令した。


「さぁ、戻るぞ」




隊員紹介コーナー


隊員No.11

名前:星海ほしうみ水咲みさき

年齢:23

身長:165cm

体重:50kg

スリーサイズ:B89(F)/W57/H87

武器:鞭

外見:濃紺のウェーブがかったショートヘア

能力:水に関する霊力を扱う

家族構成:なし

所属班:補給班

過去

中学生までは貴族の中でも上流に分類される良家の跡取りとして育てられてきた。

高校生に上がる頃、両親の毒殺事件に巻き込まれ、容疑者として逮捕されるも脱走。以降は闇社会の中で生きてきた。

実は細かい所作がかなり上品。



隊員No.22

名前:西谷にしたにキララ

年齢:19

身長:165cm

体重:56kg

スリーサイズ:B90(F)/W59/H89

武器:三節棍

外見:金髪縦ロールに一般的な白と黒のメイド服

能力:平均以上の霊力と素早い動きと連撃が得意

家族構成:父(誰だかわからない)母

所属班:補給班

過去

売春婦の娘として生まれ、半ば育児放棄されているような状況で育ち、それを冷泉院レミ子という貴族に拾われ、メイドとして養われ、教育を受けることになった。

後にレミ子が失脚すると、清峰侯爵のもとに仕えることになった。

基本的にはレミ子への憧れと教育の成果により、明るくて優秀なパティシエ長と認められているが、たまに粗雑な本性が垣間見える。


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