第20話(5)気持ち-咲来と麗奈-
気おくれする咲来に対し、麗奈(A-5007)は冷静な手つきで動画を再生する。
咲来が目を閉じて息を吐いているうちに、動画が始まった。
動画が始まってすぐ、麗奈の顔が映る。明るかった彼女の表情はもう面影もなく、憔悴し、絶望しきった表情が、今までの彼女と悪魔たちのやり取りを物語っていた。
『...でき...た...?』
麗奈はそう呟くと、PCのキーボードをたたく。すると、カメラの画角が変わり、天井を映したかと思うと、次の瞬間には、麗奈の全身を見下ろすように映した。
『あぁっ...!やった...!ねぇ、名前、言ってみて?』
麗奈がカメラに向けてそう言うと、カメラに映らない方向から声がした。
『私の名前はA-5007です』
『...!やった...!』
麗奈は目の前にある完成品、A-5007の姿を見て、思わず頬を緩ませる。そんな麗奈に、A-5007は問いかけた。
『あなたは何者ですか』
その問いに、麗奈は微笑みながら答えた。
『私は、児玉麗奈...!あなたの...お母さんだよ...!』
『お母さん』
『そう、お母さん...!あなたに会いたくて、ずっと頑張ってきたの...!』
麗奈はそう言って、A-5007の肩に手を置き、そして抱きしめる。A-5007は、無機質に言葉を発した。
『児玉麗奈に関する複数の情報をメモリ内に確認。身長、体重、持病、思想、信条など、多くのデータがマスターデータ内に存在。他にも、A-5007の人工知能用に多くの学習データを確認』
『そうだよ。あなたとお話しできるように、今日までいっぱいいろんなことを...』
麗奈が穏やかに話そうとしたその瞬間、麗奈の部屋の扉が開き、アクラ、ラウム、ラショー、マズラの4体がぞろぞろと入ってくる。彼らは、A-5007の方を見ると、声を上げた。
『ほう。ついに完成したか』
『あとは人間の霊力と我らの魔力を流し込み、人間の体と同等にすれば、潜入工作用の殺戮兵器の出来上がりだ』
『楽に勝てるな』
悪魔たちは口々に好き勝手にものを言う。麗奈はそんな悪魔たちを睨んだ。
『...約束は守ったよ...もう、解放して...パパとママも返してよ...!』
麗奈の言葉に対し、ラウムは驚いたようにマズラを見た。
『言ってなかったのか?』
『ふん、伝える必要もないからな』
『...なんの話?』
ラウムとマズラのやり取りが理解できず、麗奈は思わず尋ねる。
そんな麗奈に、ラショーが穏やかに言い放った。
『とっくに死んでますよ』
『...え...?』
『だって当たり前でしょう?何の役にも立たない連中は死んで当然!我々が来てすぐ、他の研究員もろとも殺しましたよ』
ラショーは麗奈に対して平然と言い放つ。麗奈は、状況が呑み込めず、言葉を発した。
『そ、そんな!?嘘だ!!命は助けてくれるって、コーキは...!』
『そいつの名前を出すな』
『悪魔が約束なんて守るわけがないでしょう?』
『おめえの親は死んだんだよ!!こうやって殺してやったんだ!!』
悪魔たちが口々に言い、アクラが麗奈の胸倉をつかみ、車椅子から引きずり下ろす。
カメラに映るのは、アクラの背中と、彼が腕を振り回す後ろ姿。
同時に聞こえてくるのは、人を殴る音と、徐々に聞こえなくなっていく、麗奈の悲鳴だった。
突如、カメラの位置が変わり、動画の画角が動き始め、カメラがアクラの方へと近づき始めた。
『おい、こいつ!』
ラウムが叫んだかと思うと、A-5007は麗奈を殴り続けるアクラの首を後ろから締める。
『な、なんだ!?』
『このロボット、暴走していますよ!マズラ!』
『押さえろ。メモリーを初期化する。感情などの学習に使われたデータも全て消せば安定するはずだ』
次の瞬間、カメラの画角が、まるで倒れたかのように、床を映して横向きになる。
カメラの画角が上がり、動画は、血だらけになった麗奈の顔を映し出す。
麗奈は、弱弱しく、カメラの方へ手を伸ばした。
『幸せに...生き...て...』
麗奈の小さな声が聞こえる。
次の瞬間、画面が暗転する。
そして、動画は終わった。
「...こんなの...ひどすぎます!!なんで、なんでこの子がこんな目に遭わなきゃいけないんですか!!?」
一通りの動画を見た咲来が叫ぶ。涙を流し、顔を真っ赤にしながら、咲来は言葉をつづけた。
「この子はただ...ただ友達が欲しかっただけなのに!!お母さんやお父さんを守りたかったのに!!そのために作ったものが、こんなことになって...ご両親も本人も殺されて...悪魔どもは最低です!!」
咲来は怒りと悲しみが入り混じった感情を叩きつけるように、言葉を発する。
しかし、咲来の隣にいる麗奈は、眉ひとつ動かさず、立ち尽くすだけ。
咲来はそんな彼女に向けて叫んだ。
「麗奈さんは!!悲しくないんですか!!あなたのお母さんは、こんな...こんな無残に殺されてしまったんですよ...!悲しくないんですか!?」
麗奈は、咲来の言葉を受け止めながら、何も映っていないモニターを見つめながら言葉を発した。
「わからないです」
「...え...?」
咲来は思わず言葉を失う。麗奈はそのまま言葉をつづけた。
「おそらく…これは…悲しい出来事なのだと思います...ですが...ですが、私は…この目の前の出来事に...私を生み出してくれた人が直面した悲劇に...悲しいと思うことができない...私にはそのことがとても悲しいです」
麗奈はなにも映っていないモニターを見つめ続けながら、無表情で言葉を紡ぐ。
咲来はそのとき、麗奈の横顔が、誰よりも悲しみに満ちていることに気が付いた。
「麗奈さん...」
「だから、お願いです」
麗奈は咲来の方に向きなおる。
「本来であれば私が悲しむべき分まで...悲しんでいただけませんか。いつか...本当に...悲しみという感情を理解できるまで」
麗奈は無表情でそう言葉を発する。
咲来は涙を流しながら、麗奈を抱きしめて頷いた。
「いくらでも泣きます...!きっと、あなたのお母さんの望みが叶う...それまで...!」
咲来の泣く声だけが暗い部屋の中に響くのだった。
隊員紹介コーナー
隊員No.8
名前:風音咲来
年齢:17
身長:154cm
体重:44kg
スリーサイズ:B85(C)/W58/H83
武器:ギター
外見:暗い赤紫色のミドルヘア
家族構成:不明
所属班:偵察班
過去
父が悪魔、母が人間であるハーフだが、両親は咲来を捨てて失踪。咲来は冥綺財閥の孤児院に入り、霊力と魔力の研究対象として、明宵と仲良くなった。
なので、彼女は自分にどんな兄弟がいるのか、そして自分の両親の顔もしらない。
彼女の異様に低い自己肯定感は、そんな生い立ちの影響がある。
隊員No.10
名前:児玉麗奈
年齢:17
身長:160cm
体重:50kg
スリーサイズ:B88(E)/W55/H88
武器:ビームツインソード
外見:黄色い髪に猫を模したフードを着用
家族構成:なし
所属班:作戦班
過去
本来は「限りなく人間に近い、親友になれるアンドロイド」という設計思想のもと生み出された。そのため、彼女の知能には「感情」が搭載されるはずだったが、悪魔軍の介入により、その機能は削除され、代わりに一部を機械化した生身の体と、悪魔軍の電波を受信する機能が搭載された。
この生身の体も、悪魔軍の実験により多くの人間の命が奪われて出来上がったものである。




