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第21話(1)治療 -璃子と心愛-

前回までのあらすじ

 悪魔軍が占拠していた研究所を制圧した幸紀と星霊隊。そこに置かれていたデータから、麗奈は自分の出生の秘密と、自分を作った少女の最期を知り、改めて戦う意思を固める。

 悪魔軍の本拠点を目指す星霊隊の進撃はまだまだ続く。



6月25日 朝11:00  冬城ふゆしろ県 冬城市 悪魔軍診療所


「...ふう、ようやく治ったか」


 ポラリスは自分の左手を眺めながら、何度も手を開いて握り、感覚を確かめる。そんなポラリスの正面で、フェルカドは膝を折って頭を下げていた。


「申し訳ありませぬ、若。このフェルカドがコーキめに目をやられていなければ...若にかような傷は負わせなかったものを...」


「切った切られたは戦の常だ。殺されていないだけ運は良い。だが、コーキは強い。とても運だけで倒せる相手ではない...どうしたものか」


 ポラリスは腕を組みながら周囲に目をやる。ポラリスたちの他にも治療を受ける悪魔たちの姿が目に入り、その次にふと映ったのは、床に転がっている人間の死体だった。


「おい、そこの」


 ポラリスは近くにいた治療役の悪魔を呼び止める。そして人間の死体を指さしながら尋ねた。


「あれは人間の死体だろう。なぜここに転がっている?」


「あぁ、殺した後に蘇生して、奴隷化できないか実験してるんですって」


「ほう?して、結果は?」


「蘇生はできても1日持たず死ぬそうです。奴隷には不向きですなぁ」


 治療役の悪魔はそう言ってその場を去っていく。しかし、ポラリスは満足そうに、何かを思いついたように微笑んだ。


「若、何か妙案が?」


 フェルカドが尋ねると、ポラリスは頷いた。


「あぁ。行くぞ。今度こそ奴らを葬る」


 ポラリスは勢いよくベッドから飛び降り、歩いていく。フェルカドもそんなポラリスの後ろからゆっくりとついていくのだった。




同じ頃 愛森あいもり県 黄瀬木きせき


 北上を続ける星霊隊は、バスに乗りながらこの町にやってきた。


「...さすがに戦って、移動しての繰り返しを続けていると、みんな疲労してますね...」


 幸紀が運転するバスの中、四葉は後ろに振り向き、疲弊した表情の仲間たちを見る。日菜子も同じように確認すると、幸紀に声をかけた。


「幸紀さん、みんな疲れています、そろそろ、休憩とかを...」


「ダメだ。俺たちの目的は悪魔の殲滅だ。休んでいる暇などない」


「...そうですけど...みんな疲れているのに戦ったら、負けちゃうかもしれませんよ?」


「ならば俺一人で戦う」


「そんなぁ...うーん...」


 メンバーのことを気にかける日菜子に対し、幸紀は取り合わない。日菜子はそんな幸紀をなんとか説得しようとしたが、いいアイディアは出てこない。仕方なく日菜子が窓の外を見ると、田んぼが広がっている。その奥に点在する民家の近くに、人々が集まっているのが見えた。


「あ、幸紀さん!人ですよ!」


「それがどうした」


「きっと、悪魔に襲われた人たちですよ!悪魔が近くにいるかもしれませんよ!」


「…なくはないか…行くぞ」


 幸紀は短く答えると、バスのハンドルを切る。日菜子は立ち上がって後部座席に座るメンバーたちに声をかけた。


「これから避難民と思われる人たちの救助にいきます!みんな、準備して!」


 日菜子が声をかけると、すぐに四葉がより具体的に指示を出した。


「緒方さん、心愛!負傷者がいた場合の対応をお願いします!準備しておいてください!」


 名前を呼ばれたふたり、緒方おがた璃子りこ市子いちご心愛ここあは、それぞれ医療用のカバンと、自分の武器であるスタンド付きのマイクを握った。


「了解」


「おっけー!」


 ふたりの女性の返事がバスの中に響く。バスは、民家の方へとカーブして進んでいくのだった。



数分後


 バスは田んぼの間を進み、避難民たちが集まる場所の近くにやってきて止まる。彼らは、公民館の前に集まり、民衆同士で炊き出した食糧を配給しあっていた。

 日菜子は早速バスから降りると、そこにいた避難民たちに対して声を張った。


「こんにちは!『星霊隊』です!清峰侯爵の指揮下で、悪魔たちと戦っています!なにか困り事はありませんか!」


 日菜子が名乗ると、避難民たちが振り向く。続いて降りてきた四葉がさらに言葉を続けた。


「負傷している方がいましたら、教えてください!こちらで治療します!」


 四葉が言葉を発しているうちに、璃子と心愛もバスから降りてくる。避難民たちの間で少しざわつきが起きると、避難民の代表者と思わしき、中年の男性が日菜子たちの前に立った。


「わざわざありがとうございます。悪魔軍から逃げてきたところだったので、怪我人ばっかりだったんです。診療にはそこの公民館を使ってください」


「わかりました。お借りします」


「みんな!こっちこっち!」


 中年男性の言葉に、璃子は短く頭を下げ、医療器具の入った鞄を持って避難民たちの背後にあった公民館の中に入っていく。同時に心愛が手を振りながら負傷者たちを誘導していくのだった。

 それをよそに、バスから降りてきた幸紀は、中年男性に詰め寄った。


「おい。悪魔から逃げてきたと言ったな?奴らはまだいるのか」


「え、その、わからないです。逃げるのに必死で…」


「どこから逃げて来た」


「あ、あっち側の…」


 中年男性が指を差すと、幸紀はひとりその方向へ歩き始める。


「幸紀さん!」


「まだ悪魔どもがいるかもしれん。偵察に行く。ここの守りはお前たちに任せるぞ」


 日菜子に呼び止められた幸紀だが、一方的に言葉を発すると、背を向けて歩き出すのだった。



そのころ 公民館(仮設診療所)

 璃子と心愛は、避難民たちが身を寄せていた公民館の中にやってくる。

 荒れた建物内にある瓦礫を押しのけ、患者と自分の分の椅子を確保すると、璃子は声を上げた。


「順番に並んでください。診察します」


 璃子が言うと、負傷した人々が璃子の前に順番に並ぶ。早速、璃子は目の前に座った人間の診察を始めた。

 一方、心愛は並んでいる他の負傷者の列を整理していた。


「みんな!一列に並んでね!」


「市子さん、この人に歌ってあげて」


「はーい!」


 璃子は診察を終えた相手に包帯を巻くと、心愛に指示を出す。心愛がスタンド付きマイクを発現させると同時に、並んでいた一般人の何人かが、心愛に声をかけた。


「ね、ねぇ?やっぱり、あなた、『シュガーハート・アタック』の市子心愛ちゃんだよね?」


「うん!そうだよ!」


「わぁあ!!すごい!ホンモノだ!!え、どうしてここにいるの!?」


「心愛は『星霊隊』に助けられたんだ〜。霊力でみんなを癒す力もあるから、それを使って頑張ってるんだよ!今からみんなの傷も治すからね!」


 心愛はそう言うと、璃子の診察を終えた人に近づき、その人間の腕に巻かれた包帯を眺めながら歌い始めた。


「らーらーらー…はい!包帯、取ってみて!」


 心愛に言われ、包帯を巻かれていた人間は包帯を取る。すると、大きく腫れ上がっていたはずの腕が、何事もなかったかのように元通りになっていた。


「すごい…!傷が消えた!」


「心愛ちゃんってそんな能力が使えるんだ!じゃあ、診察してもらわなくても、ライブやってもらえば、傷が治るんじゃない!?」


「あー、実はね、心愛の能力って、どこに傷があるのかっていうのを知らないと、効果がないんだ。だから、ちゃんと璃子先生の診察を受けてね!」


 一般市民の言葉に対して、心愛は残念そうにしながら言う。しかし、直後、心愛は思いついたように声を上げた。


「あ!でもライブはいいかも!心愛の歌で、疲れ切ったみんなの心を癒してみせるよ〜!」


「いいねぇ!」


「やったー!」


「失礼、ちょっと静かにしてもらえますか?」


 盛り上がる心愛とそのファンたちに対し、璃子が冷静に言葉を投げかける。少し静かになった心愛たちに対し、璃子は言葉を続けた。


「市子さん。私たちは任務で来ているのよ。ライブなどよりも大事なことがあるでしょう?」


「で、でも、心愛が歌えば、それでみんなの気持ちが明るくなるって」


「傷の治療が最優先よ。精神面も当然大切だけど、今は目の前の負傷者の治療に専念して」


「…はい」


 璃子の冷静な言葉に、心愛は小さく頷いて返事をする。同時に、璃子は小さくため息を吐き、下を向いて独り言を呟いた。


「…歌ってるだけで人を救えるわけがないでしょうが」


「全く、璃子ってば、相変わらず夢が無いなぁ」


「夢で人を救えるほど世の中甘くないのよ…って、誰よ、そんなに馴れ馴れしく…」


 璃子が顔を上げると、目の前に、璃子と同い年くらいの若い女性が立っていることに気づく。

 瞬間、目の前のその女性の顔を見て、璃子の手が止まった。


「…う、嘘…」


 手が止まった璃子を心配し、心愛が璃子の方へと歩き寄った。


「どうしたの、璃子先生?」


 心愛が尋ねると、璃子は信じられないようなものを見る目で、確かめるように、言葉を発した。


「…初音はつね...?」


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