第20話(4)母親-咲来と麗奈-
「あれ、今回はここで終わりですか?」
「そのようです。次はこれの1か月後のデータになります」
咲来の言葉に、麗奈(A-5007)がハードディスクを差し替えながら報告する。咲来はその報告を聞きながら、ぶつぶつと独り言を話していた。
「うーむ、なんか、コーキと麗奈ちゃん、いい感じですねぇ…?...なんか、コーキも、いやな奴だけど、それだけじゃないっていうか…」
「再生します」
咲来の言葉を気にせず、麗奈(A-5007)は新しい動画を再生する。
動画が始まると、さっそく、麗奈が車いすに座っている姿が映る。彼女は、膝の上で何かを縫い合わせていた。
『...お、起動してる!どれどれ。うん、いい感じだね!人工皮膚がちゃんと適応したんだ!」
麗奈は近くにあったPCを操作したあと、車いすを走らせてカメラに近寄る。そして、膝の上に載せていた何かを、カメラに見せびらかした。
『じゃーん!私が作ったネコ帽子だよ~!あとでコーキにドッキリを仕掛けてこれを被せてやるんだ~、ひひひ!それと!』
麗奈はそう言うと、近くの机からもうひとつ、タグのような、チェーンのついた革製品を持ってきた。
『はい!これはあなたにプレゼント!あなたと私の名前が書かれたネームタグだよ!』
麗奈はそう言ってカメラの画角外に手を伸ばす。そうして作業を終えると、麗奈はカメラの方をみてほほ笑んだ。
『うん!髪の毛もよし、肌もよし!体つきも...うん!私の理想のナイスバデー、だね!あとは、これがちゃんと適応するのを待って...あ』
麗奈は何かに気付くと、口の前で人差し指を立てた。
『足音...!きっとコーキだよ...!いつもみたいにわがまま言って、ネコ帽子被せよう!』
麗奈はいたずらっぽい笑いを浮かべると、カメラの画角に見えないところに手を伸ばし、作業をしているふりをする。
麗奈の背後の扉が開く。
『ねーコーキぃ、お腹すい...』
『馴れ馴れしくしゃべるな!クソガキ!』
『!?』
いつもとは違う、乱暴なだけの声。麗奈が振り向いて距離を取ると、乱暴に歩いてきたのは、いつものコーキと全く姿の違う悪魔たち4体。赤褐色の肌の悪魔、青い肌の悪魔、青白い肌の悪魔に、緑色の肌の悪魔。麗奈より遥かに大柄な4体の悪魔に囲まれ、麗奈は状況を理解しきれずに声を発した。
『な、なに、あなたたち、誰?こ、コーキじゃないの?』
『はっ!あの出来損ない野郎はクビだよ!いつまで経っても女一匹にロボットを作らせることもできねぇなんて、無能も無能だからなぁ!』
『く、クビ?...ちょ、ちょっと待って、どう...いやぁっ!!』
質問しようとした麗奈に対し、赤褐色の肌の悪魔が麗奈の頬を叩く。麗奈はパニックになりながら悪魔たちの顔を見上げた。
『な、なんなの!?どうなってるの!?』
『ここの監督はコーキから我々に変更された。貴様は有用な兵器を作っているので生かしてやる。あと1か月以内にそこにある兵器を完成させろ』
青い肌の悪魔が冷徹に言い、腰に差していた軍刀を抜き、麗奈に突き付ける。麗奈は戸惑いながら言葉を返した。
『ま、待って!無茶言わないでよ!今さっき外見が完成したばっかりなんだよ!?彼女の頭脳だってまだ完成してない!人工知能にも成熟するための時間が...』
『うるせぇ!!』
赤褐色の肌の悪魔が再び麗奈の頬を叩く。麗奈が悲鳴をあげると、白い肌の悪魔が話し始めた。
『アクラ。そんなやり方では駄目ですよ。もっと紳士的に行きましょう』
白い肌の悪魔は、赤褐色の悪魔であるアクラにそう言うと、麗奈の頭を掴んで話し始めた。
『あなたが言うことを聞かないなら、ご両親を殺します』
『けっ、偉そうなこと言っても、ラショーのやり方も、ただの脅しじゃねぇか』
ラショーのやり方に、アクラが毒づく。しかし、麗奈にそんなことを気にしている余裕はなく、奥歯を噛みしめながらうなずいた。
『...従います』
『当たり前だ。生意気に逆らったこと、反省しろ』
ラショーはそう言って麗奈の頬を引っ叩く。麗奈が痛みをこらえていると、青い肌の悪魔が場を仕切り始めた。
『ここはもういいな。マズラ、この女の見張りはお前に任せる』
『ふむ...いいだろう。人間の体について学べるいい機会だ』
『ここを出るぞ。このラウムに続け』
青い肌の悪魔、ラウムはそう言うと、アクラとラショーを率いて部屋を出る。
唯一部屋に残った緑の肌の悪魔、マズラは、興味深そうに麗奈のことを見つめていた。
『...な、なに?』
『人間の中でも貧弱な個体だな...解剖対象としてはつまらんが...まぁいいだろう。早く作業に取り掛かれ』
『...はい』
麗奈は、緊張したような表情でカメラの方を向き、作業を始める。そして、動画はそこで終了した。
「...なんか不穏な空気になってきましたよ...」
一連の動画を見ていた咲来が思わずつぶやく。それに対し、麗奈(A-5007)は、平然とハードディスクを交換し、次の動画ファイルを見つけ出した。
「先ほどの動画からさらに1か月後の動画です」
「...うう、見たくないなぁ…嫌な予感がします…もう、やめませんか?」
「情報を見落とすわけにはいきません。再生します」
「はい...」




