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第20話(3)少女とコーキ-咲来と麗奈-

 麗奈(A-5007)はハードディスクを差し替える。モニターに表示されたデータは、やはりひとつだけの動画ファイルだった。


「日付は先ほどの動画の1週間後になっています」


「再生しましょ!きっとコーキなんてボッコボコになってるはず!」


 咲来は勢いよく腕を振って応援する。麗奈(A-5007)は無表情でそれを無視し、収録されていた動画ファイルを再生した。




 動画に早速、本物の麗奈が映る。同時に、その横には、悪魔であるコーキがしゃがみ込み、彼女とともに映り込んでいた。


『おい、小娘。髪の毛にこだわるな。そのロボットは兵器なうえ、まだ武装部分も未完成だ。それにまだ骨格だけだろうが。髪の毛より先に肉と武装を用意しろ』


『うるさいなぁ。コーキは何にもわかってないよ。この子は女の子なんだよ?髪の毛はちゃんと作ってあげないと』


『くだらん。御託はいいから早く作れ、小娘』


『くだらなくないよ。それにさ、いい加減名前覚えてよ。私の名前は麗奈!小娘じゃない!』


『くだらん』


『あーあー!そういう風に言うんだったらもう作らないよ!?これ!困るのあんたでしょ!?あ、どうせまた「ほかの奴隷を」とか言うんでしょ?無理だからね!霊力と魔力の両方が使える人型自律式ロボットなんて、世界中で私しか研究してないんだから!』


『...さっさと作れ』


『やる気なくなった!ケーキ買ってきて!出来立てのやつ!ジュースも!ついでにパパとママも呼んできて!じゃないと私作ってあげないから!あーあ!お腹すいた!!』


 動画内の麗奈は、車椅子の上でぴょこぴょこしながら、コーキに言う。一方のコーキは、麗奈の言葉を黙って受け止めると、ドアまで歩き始めた。


『...貴様の両親を連れてくる。逃げようなどと考えるなよ』


『どーせ出られないもん。ねー?』


 動画内の麗奈はそう言うと、カメラに向けて笑いかける。その間に、コーキは部屋を出るのだった。


 一方、動画の一連の様子を見ていた咲来は、何度も瞬きをして、モニターの前の麗奈(A-5007)に話しかけた。


「あのー。なんでか知らないんですけど、コーキと麗奈ちゃん、仲良くなってません?」


「この動画を見る限り、その可能性は高いです」


「そうですよね…え、なんで?」


 咲来が話していると、動画が進み、動画内の麗奈のいる部屋の扉が開く。すると、コーキが麗奈の両親と思われる男女を連れて現れた。


『俺はしばらく外出する。わかっているとは思うが、この建物には結界を張った。逃げようなどとは思うなよ。俺が戻ったときにこの部屋に3人がいなければ...覚悟することだ』


 コーキはそう言って3人を脅しつけると、部屋を後にし、扉を閉める。

 動画には、車いすに座った麗奈と、その両親が映っていた。


『麗奈、大丈夫かい?あの悪魔にひどいことをされていないか?』


『うん!大丈夫だよ、パパ!』


『薬もちゃんと飲めてる?』


『それも大丈夫だよ、ママ!コーキのやつ、意外に話が通じるんだよね、だから結構わがまま言っても...げふっ、げふっ...』


 動画内の麗奈は、せき込み始める。すぐに両親が麗奈の背中をさすると、麗奈は明るい表情を見せた。


『...大丈夫!』


 動画の中では、そのまま麗奈と彼女の両親が談笑する。咲来は、そんな光景を見ながら、モニターの前にいる麗奈(A-5007)に尋ねた。


「麗奈さん。この、動画の中の本当の麗奈ちゃんは、何か病気だったんですか?」


「私の記憶データによれば、先天性の免疫不全だったようです。頻繁に病気に感染してはそれが長引き、そのせいで筋力が低下して、車椅子生活を強いられていたようです。外出すると彼女は病気になるため、17歳ごろのこの時期でも、基本的に動画内の部屋から出ることができなかったようです」


「そんな...じゃあ、ここにいないっていうことはまさか、病気で死んじゃったんですか!?」


「不明です。私の記憶データには、児玉麗奈の生死に関する情報はありません」


「え?じゃあなんで本人に関する情報はあるんですか?」


「不明です。私の記憶データには、彼女の個人情報と、悪魔軍に人間化されてからの情報はありますが、それ以外のデータ、つまり児玉麗奈の行動に関する情報はありません」


「むむむ、変ですねぇ。この動画データに答えがあるんでしょうか?だったらちゃんと見なきゃいけませんね、これ!」


 咲来と麗奈(A-5007)がモニターの前で話していると、動画が進む。

 動画内では、本物の麗奈と両親が話していたところで、彼女たちのいる部屋の扉が開いた。

 コーキが現れる。

 そのコーキの手には、かわいらしい装飾の入った紙袋と、ビニール袋が握られていた。


『...どうやら逃げなかったようだな』


『あ!その袋!コーネリアのケーキ!?なんで私の好きなのがわかったの!?』


 コーキの言葉を気にせず、麗奈は声を上げる。コーキは部屋の中に入ると麗奈の母親にケーキの入った紙袋と、ジュースの入ったビニール袋を押し付けた。


『上等なものを用意してやらなければ文句を言うのだろう?最上級のものは用意してやった。これで文句は言わせん。食ったら働け。さもなくば...』


『いただきまーす!』


 麗奈はコーキの言葉を気にせず、ケーキを食べ始める。コーキはそんな麗奈を睨みつけた。


『おい』


『わかってるよ!半年以内に完成させろ、さもなくば殺す、でしょ?ちゃんと作る!だから、コーキも、ほら、一緒に食べよう!』


『...?』


『美味しいものは一緒に食べたほうがもっと美味しいよ!ね、パパ、ママ!いいでしょ?』


『まぁ、麗奈がいいなら...』


『ほら、座って!コーキ!この子の設計について考えようよ!』


『...仕方がないな』


 麗奈の説得に折れて、コーキは麗奈の向かいに座る。そうして麗奈の母親からケーキを一切れ受け取ると、麗奈は嬉々として話し始めた。


『元々ね、この子は、私の友達として作るつもりだったんだ。ほら、私、部屋から出られないからさ。お話相手とかになってもらおうと思ってたんだよ。それなのに、なんで悪魔はこの子を兵器にしようとするの?』


『すべてを力で支配する。それが悪魔の流儀だ。使えるものは使うだけのこと』


『こんなに可愛いロボットを?』


『ただの鉄の塊だろう』


『違うよ!A-5007は私の大事な友達だよ!いずれは人間みたいに生きて、幸せになってくれるようにするんだから』


 麗奈はそう言うと、カメラの方を見る。そうして、コーキ達には見えないように、寂しそうな顔をして呟いた。


『...きっと...私は...この体じゃ...そういう風には生きられないから...友達も恋人もできないまま、この部屋の中で死んじゃうだろうし』


 麗奈の呟きを聞くと、コーキはそれを鼻で笑い飛ばした。


『そんな自己憐憫に浸る暇があるなら、早く、その「友達」とやらを完成させろ。それまで、利用できるものは利用しろ』


『...え?...その言い方、コーキを友達として利用していいってこと?』


『悪魔に友はいない。自分の思考の捌け口に利用しているだけだ。貴様も俺をそう利用すればいい。出来のいい考えなら使ってやる』


 コーキは一方的にそう言うと、自分が食べていたケーキの皿をきれいに平らげ、フォークも丁寧に置くと、ゆっくりと立ち上がった。


『ふん。人間にしてはそれなりの食い物だ。お前もさっさと食って、そのロボットを完成させろ。そうしたら、命は助けてやる』


 コーキはそれだけ言うと、部屋を後にする。

 一瞬静まり返った麗奈の両親だったが、麗奈は笑って両親に言った。


『ふふ、素直じゃないけど、おもしろいやつでしょ、コーキって』


『麗奈、あまり信用しすぎるなよ?研究所の他の人たちも、みんな奴に脅されてる。いつ奴の気が変わって殺されるかわからないからな?』


『...うん』


 麗奈は、父に言われると、静かに頷く。



 直後、動画の再生がそこで止まった。


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