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第20話(2)A-5007-咲来と麗奈-

数分後 研究所内部

 正面から研究所に入った幸紀は、荒れた受付を一瞥いちべつすると、さっさと先に進んでいく。麗奈もそれに続いていたが、咲来は武器であるギターを逆さに持ったまま周囲を警戒しつつ、ゆっくりと歩いていた。


「ううう、怖いよぉ、やばいよぉ、なんか出ますよぉ...!なんで二人ともそんなスイスイ進んでるのぉ!?待ってくださいよぉ!!」


 咲来は置いて行かれないように麗奈の後を走ってついていく。麗奈の先を行く幸紀は、先の見えない暗い階段も慣れた足取りで下っていくのだった。


 階段を降りた先の廊下も、ほとんど暗闇だった。しかし幸紀は一切止まることなく廊下を進んでいき、その突き当たりにあった部屋の扉を、刀で滅多切りにして開けると、その部屋の中を見回した。


「どうですかぁ、幸紀さぁん?お化けとか居ました?」


「何もいないようだ」


 幸紀は咲来の質問に対して、冷静に言葉を返す。咲来は麗奈の背中に隠れながら、部屋の中を見回した。


「よかったぁ。ってなんなんですこの部屋?広いのはわかるんですけど、鳥目の私には暗くてよく見えないです。」


「児玉麗奈の実験工作室兼、私室です」


「へー...へ?」


 咲来の言葉に対して、麗奈がいつも通り平然と答える。咲来は一瞬そのまま流そうとしたが、すぐに言葉の違和感に気が付いた。


「ちょ、ちょまてよですよ麗奈さん。児玉麗奈さんってあなたのことじゃないですかぁ。ここが実家ならもっと早く言ってくださいよぉ」


「いいえ。私はA-5007です」


「またまたぁ」


「私は児玉麗奈が製作した自立型ユニット、A-5007です。悪魔軍の工作により、人間と同様の肉体を得ました。悪魔軍は私を兵器として運用していましたが、東雲幸紀らによって解放され、私は星霊隊に加入しました。あなたは一連の様子を知っていてもおかしくないと思いますが」


「いやぁ、別のところで戦ってたから知らなかったですよぉ。言われてたとしても、昨日の夕飯も覚えてないですし、はい」


 ふたりが会話をしているのをよそに、幸紀は手近な机を調べる。様々な資料をひっくり返していると、透明なケースに入ったハードディスクの束が目に入る。

 幸紀は透明なケースを手に取り、ハードディスクの横に貼られたラベルの文字を確認する。

 一度、目を閉じ、息を吐いてから、幸紀は麗奈の方に振り向いた。


「麗奈。これはお前に渡そう」


 幸紀はそう言うと、ケースを麗奈に手渡す。麗奈はそれを受け取り、咲来がそのケースの中身を横から覗き込んだ。


「なんですかぁ、これ?ハードディスク?...こんな荒れた部屋にあるって、なんかすっごく不気味じゃないですか?」


「見るか見ないかはお前の判断に任せる。再生はおそらくあそこのPCでできるだろう。俺は周囲を偵察してくる」


 咲来の言葉を無視して、幸紀はその部屋を後にする。咲来は幸紀を呼び止めようとしたが、幸紀は無視してその場を去っていった。


 その場に残された咲来と麗奈は、ハードディスクのラベルに目をやる。麗奈が適当にひとつハードディスクを取り出すと、咲来とともにラベルを確認した。


「1年前の日付に...『A-5007製造記録』...あれ、麗奈さんのことじゃないですか?」


「そのようです。どうやらこれは、私が製造されたときに関連するデータのようです」


「文字通りですね。どします?」


「データを確認します。悪魔軍を攻略する手掛かりがあるかもしれません」


 麗奈は無機質にそう言うと、ハードディスクが入っているケースを持ちながら、置かれていたデスクトップPCまで歩いていく。そしてラベルを確認して、時系列的に最も古いハードディスクをPCに差し込み、PCの電源を入れた。

 麗奈はPCを的確に、かつ素早く操作していく。咲来は次々と表示されるものが変わっていくモニターを見て、目を丸くしていた。


「操作早いですねぇ」


「当然です。ところで、このハードディスクはかなり破損しており、すべてを表示できるわけではないようです。このディスクドライブで確認できたのは、この動画ファイルひとつです」


 麗奈は咲来の言葉を無機質に流し、PCを操作する。咲来はわざとらしく驚いた。


「麗奈さん、それはダメですよぉ。気にはなりますけどプライバシーですよぉ?やっぱりほら、人には触れられたくない秘密とかが…」


「再生します」


「…はい」


 咲来の主張を聞き流し、麗奈は動画を再生した。




 モニターが暗転し、動画が始まる。




 次の瞬間、モニターに大きく映し出されたのは、黄色い髪に白い瞳の少女の顔だった。


『あれぇ?これカメラ回ってるのかな?』


 動画内の黄色い髪の少女が、そう呟いて顔を何度も動かす。少女はカメラとは違う方向に目線をやり、そこにあるキーボードをたたくと、満足そうに微笑んだ。


『お!ばっちり!じゃあこれはどう?』


 少女はそう言うと、動画では見えない画角の方向に手を伸ばし、手を動かす。少女がカメラから遠ざかったかと思うと、動画には、車椅子に座った少女の全身が映し出された。


『うん!遠くても問題ないね!じゃあ、マイク機能!「賢い可愛いレイナちゃんです!」』


『「カシコイカワイイレイナチャンデス!」』


 少女がそう言ったかと思うと、動画内から同じような言葉が聞こえてくる。少女はそれを聞き、満足げにほほ笑んだ。

 少女はそのまま再びカメラに顔を近づけ、画角に映らない部分で作業を始める。咲来はその間に、麗奈に話しかけた。


「麗奈さん、この車いすの美少女は?」


「彼女は私の製作者、本当の児玉麗奈です」


「あ、この子がですか!」


 咲来は驚きと納得で声を上げる。咲来はもう一度動画が映るモニターを見ると、何かに気付いて表情を変えた。


「い、今、奥のドア開きましたよね?やばい、この子気づいてないですよ!!」


 咲来の言う通り、動画内の麗奈の背後にある扉がゆっくりと開くが、麗奈はそれに気が付かない。

 ものの数秒も経たないうちに、漆黒の肌に、白い髪、体に輝く水色のラインが入った悪魔が、開いた扉から部屋の中に入ってきた。


「ひいいい!!ホラー映像じゃないですかこれぇ!!麗奈ちゃん!後ろ!!後ろぉ!!」


「ここで叫んでも本人には聞こえません」


 わめく咲来に対して、モニターの前の麗奈(A-5007)は冷静に状況を言い切る。

 その間にも動画は進み、悪魔が動画内の麗奈の背後に、刀を持って近寄っていく。

 咲来が震えているうちに、動画内では、悪魔が本物の麗奈の首元に、刀を突きつけた。


『なに...!?』


『動くな、小娘。俺は悪魔軍のコーキ。この研究所は俺の支配下に置く。今から貴様は俺の言うことに従え。逆らえば殺す』


 動画内の、コーキと名乗る悪魔は、本物の麗奈に対して冷徹に言う。動画内の麗奈は怯え切った表情をしながら、震える声で尋ねた。


『...お、お母さんは、無事なの?お父さんは...?』


『生きている。だが、余計な抵抗をすれば殺す』


『い、言う通りにします...だ、だから、ふたりを殺さないで...!』


 動画内の麗奈はコーキに対して懇願する。

 コーキは、不意にカメラの方を見る。

 モニター越しに自分を見られた気がした咲来は、思わずたじろいだが、そんなことを知るはずもないコーキは、言葉をつづけた。


『このロボットは、お前が作ったのか』


 コーキに尋ねられた動画内の麗奈は、何度もうなずく。

 怯え切った表情の彼女を見て、コーキは刀を下ろし、光の粒へ変えると、そのまま命令をつづけた。


『お前は知能が高いようだな。よし。生かしておいてやる。このロボットを完成させろ。悪魔軍の兵器に使ってやる』


『で、でも、このロボットは、そんなことのために作ったんじゃ...』


『ひとつ教えておいてやる。俺が人間を殺すのには指が1本あればいい。貴様の両親でそれを証明してやろうか?』


 コーキは背中を向けたまま動画内の麗奈を脅す。彼女はそれを聞くと、固唾を飲みながら首を横に振った。


『ごめんなさい...言う通りにします...』


 動画内の麗奈がそう言うと、コーキは鼻で笑い飛ばして部屋を後にする。

 そうして彼女がカメラの方に手を伸ばすと、動画の再生が終了した。



「あ、よかった~。殺されなくてよかった~」


 動画の結末に安堵した咲来は息を吐きながらつぶやく。しかし次の瞬間には表情を真反対に変えて声を荒げ始めた。


「てかなんなんですかこのコーキとかいう悪魔!!偉そうに女の子を脅して!ぶん殴ってやりたいです!!」


「そういった思考は私にはプログラムされていません。次の動画データがありますので、それを再生します」


 咲来の言葉を全く気にせず、麗奈(A-5007)はハードディスクを差し替える。モニターに表示されたデータは、やはりひとつだけの動画ファイルだった。


「日付は先ほどの動画の1週間後になっています」


「再生しましょ!きっとコーキなんてボッコボコになってるはず!」


 咲来は勢いよく腕を振って応援する。麗奈(A-5007)は無表情でそれを無視し、収録されていた動画ファイルを再生した。

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