CHAPTER4 野球練習
小林達也はあっさりと、クラスマッチの男子リーダーになった。
早速、野球チームのスタメンを決めるのに、放課後20分でいいから残るよう指示した。
男子は意外な事に聞き分けがよく、承諾したので、全員がそろっていた。
「じゃ、まず出たい人挙手!!ホラホラ!!」小林は無意味な手の動作をしながら煽り立てた。
が、手を挙げたのは小林を含む4人。
サッカー部の館と軟式野球部の小橋と鈴木。
しかし、小林はある程度は予測していたらしい。淡々と他の3人に、聞いた。
「ようし、隆徳。軟式野球部ではどこのポジションだ?」
「俺はセカンド。小橋はサード。」鈴木が淡々と答える。
「じゃ、決まり。館はどこのポジション?」
「そうだなあ。隆徳。俺はどこ守るのが良い?」館は鈴木を見て言った。
「館は肩ある?」鈴木が館のでかい体を見ながら言った。
「あると思う。」
「そうだな、サッカー部で足が早いなら外野だな。肩強いならライトかな。」鈴木がそう言うと小林が首を振る。
「ライトは俺がやる。肩も足も俺が上だから。」小林が言うと、館は頷く。酷く傲慢に聞こえるが、事実を第三者の立場から言ってはいる。
「うん、じゃあ…………どっちだと思う?」鈴木はそう言いながら小橋を見た。
「センターかね?レフトはある程度打球予測できっからな。」小橋が言うと、鈴木は頷いた。
「じゃ、決まりだ。館はセンター。あと5人誰かいないの?」小林が黒板の前に立ち、チョークを弄びながら言う。
すると、合唱部の堀江が手を挙げた。
「あのさ、俺中学のとき、レフトやってたんだけど、誰もいないなら俺やる。」小柄で足が速い。肩は普通より上と言う。
「中学のとき野球部だったのか?」小林が聞くと堀江が頷いた。
「中学のとき野球部か…………となると園部君どうよ?」小林がそう言うと、読者をしていた無口な男子、園部悟が顔を上げた。
「やってみない?」ちなみに小林と園部は1年C組で既に知り合いである。
「うーーーーーん。」園部が悩み始めた。そこに、C組出身のサッカー部の大塚が発言する。
「園部君、中学のときピッチャーだったらしい。」
「そうさ。」園部が言った。
「ほう、的確じゃないか。ちょうど良い…………なんキロぐらい出る?」小林が言うと、園部は顔を歪めた。
「120位だな。最近測ってないし、引退してから1年半以上経ってる。うまくいかないと思うけど。」園部が言うと、堀江が口を出す。
「120って中学で?」
「ああ。」
「それなら、結構速いほうだな。球種は?」
「ええと、ストレート、スライダー、カーブ、フォーク、シュートかな?」園部が言うと、鈴木が目を丸くする。
「シュート投げられたのかよ!完璧に先発要員だな。」
小林が思い出したように言った。
「クラスマッチってDH制?」
「違う。ピッチャーにも打撃は参加させるよ。ルールにゃ書いてないけど、日本じゃそれが主流…………特に高校野球レベルは。だから常識として、書いてないだけさ。委員会でそう言ってた。」クラスマッチ委員の大高が言う。
「ま、打撃は並みでいいんだよ?参加してくれるよな?」小林が言うと、園部が頷いた。
「まあ…………できる限りはやるから下手でも起こるなよ。」
「分かってるって。」小林が嬉しそうに言う。 スパスパ決まるので大変機嫌が良い。
「他にピッチャーはいるよな?中継ぎとか抑えとか?あと2人は先発要員が欲しいな。合計最低でも4人。さあ、誰かいないか?誰か一役は必ずやるんだぜ。」小林は言った。これもクラスマッチ委員会が決めたことだ。
「俺は何やりゃいいと思う?」そう言ったのは白玉だ。小林は白玉の4段腹を見ながら言った。
「白玉は決めてある。」
全員が意外そうに顔をあげる。クラスマッチ委員会は全員が役割を持つ事を定めていた。
「監督だ!」小林が叫ぶ。
「ちょ。俺は細かいルールすら怪しいんだぞ。むりだっつうの。」
「形だけに決まってんだろ。俺達が相談して決めたこと…………例えば、代走とか代打を審判につたえりゃいい。」小林はクラスメイトに対するセリフとは思えない事を言う。
「ただのパシリじゃん。」
「パシリは監督より上の地位だ。」小林はそう言うとクラスメイトに向き直る。
「あ、そうそう……………コーチ4人いるんだよ。ピッチングコーチと打撃コーチと1塁コーチと3塁コーチ。これはそう単純じゃないよな?」 小林が聞くと鈴木が答えた。
「3塁コーチは目利きじゃないとな。2塁から本塁に行くか行かないかの判断はモロにそうだ。1塁コーチは盗塁の指示とかも…………だから、目が良くて状況判断ができるやつだ。誰か?」鈴木が言うと、新聞部の秋山が手を上げた。
「俺、結構目良いからやらして。あんまり選手としては働けないから。」体格のいい秋山が言う。
「視力なら1,8以上あるから。俺3塁コーチにさして。」秋山の片棒の赤松が言う。
「うむ。この二人なら適任だな。」小林が言うと、クラス全体が頷いた。この二人の頭のよさは知れてるし、何より状況判断などがテストの時間配分などに反映されている。
続いてピッチングコーチに入江、打撃コーチに飯島が任命された。
「さて、選手に戻るが…………ファースト、さあ誰だ?」小林が言うと、堀江が補足する。
「バントとか痛烈な当たりをとれるやつが良いな。あと、難球でも捕球すること。」
クラスが沈黙する。
30秒ほど続いた沈黙を破ったものがいた。
「「「「「じゃ、俺がやる。」」」」」
と。
5人が一斉に手をあげていた。
ハンドボール部の大高、テニス部の西野、春日、細谷。そして、バスケ部の海老澤。
5人は一斉に譲合いを始める。どれもこれも、運動神経は普通なので、任せて小林は次に移る。
「さて、次にキャッチャーだが…………一番負担だぞ。さあ、誰がやる?」小林の問いに小橋が手を上げた。
「岩崎君が空いてるよ。彼はキャッチャーだったと思う。」
「そういえば!岩崎がいたんだな。上手いか?」
「それはもう。盗塁は阻止するし、後ろにはそらさない。」
「しかし、帰国は間に合うのか?」小林が言う。
「……………………いつ帰ってくるんだっけ?」小橋は鈴木を振り返る。
「あーーーっと、5月1日に帰って来るんだよな、それが。」
「4月29日の第1Rと第2Rが駄目じゃん。替わりが必要だな。誰かキャッチャーやりたい人?」小林が全員を向くが、手を挙げる者はいない。
「じゃ、先にショート決めるか。貴司、やれ。」小林が断言すると、本を読んでいた吉田はあきれ顔になった。
「何だって最後にしたんだよ。内野だろうが。」
「お前が断った時、人員不足のせいにするためだ。」小林は悪びれる様子は微塵もない。
「ちょっと待った。右打者が多いんだから、ショートは負担だぞ。大丈夫か?」小橋が遠慮なく言う。
「大丈夫だ!!!」海老澤がいきなり横から硬式テニスボールを投げた。
「何の真似だ!!」吉田はそう言いながら、顔に当たる寸前でキャッチする。
「な。こいつの中学時代の卓球部で培われた反射神経は伊達じゃないぜ。これで文句な痛え!!!」小林の唇に吉田の席からテニスボールが飛んできて当たった。 小林は吉田を睨むが吉田は動じず、
「送球も一応自信が。」
「こにゃろ。まあ、いい。貴司は小学校時代は野球クラブだったんだよな。」小林の問いに、吉田が曖昧に頷く。
「小学校がありなら、俺がキャッチャーやります。」そう言いながら、バド部の山田が手を上げた。
「ほう。それは助かる。じゃ決まりな。」
そう言って小林はファーストのポジションを争う連中を見たが、すぐに連中の一人が言った。
「俺になりましたーーーじゃんけんで。」大高が嬉しそうに言った。
「じゃ、これで決まりな……ってまだ帰んな!全員に役割があるって言っただろ。代打とかも決めなならんのよ。」小林はそう言い、一人ずつ足の速さや肩の強さを聞いていった。 G組連中はイライラしながらも応対した。
ーB組教室ー
「じゃあ、三次さん。帰りは気をつけて下さいよ。あと棋道部室をノックするときは、4回叩いて下さいよ。それ以外は敵と判断しますので。棋道部室は部室棟2階です。夜の7時まで活動してるのは棋道部くらいですから、明かりですぐに分かりますよ。一応看板もあります。じゃ、私は仕事がありますので。」後藤は一方的に話すと帰ってしまった。
「はあ…………」三次はため息をついた。新学期早々、色々な騒動を起こしてしまっている。三次は必要以上に自分を罵倒した。
体育館につくと、既に何名かが練習していた。1年生がもう見学に来ている。
「あ、志穂。ネット張るの手伝ってー」ネットを運びながら蛯原美樹が言った。
「分かった。」三次は元々ジャージに着替えていたので、部室に鞄を置くなり、蛯原の元に走って手伝った。
ネットが張れたので、全体練習が始まるまで、蛯原と打つ。
「はあ…………………」始めて数分しか絶っていないのに、三次はため息をついた。蛯原が怪訝な顔をする。
何も両者が下手な訳でもないので、ため息をつく理由がない。
「どうしたの?何か調子悪い?」蛯原が言った。
「どうして?そう見える?」三次は少し赤くなった。
「見えるよ。ため息ばっかりついてる。まさか………きついの?(小声で)」
「違います!きつかったら休みます!!何考えてんの!」三次は思わず大声を出した。
「だって私の言うこと曖昧にしか聞いてないでしょ。心配するのは当然じゃないの?」蛯原も少し怒ったようで、目が細くなっていた。三次は恥じ入った表情になる。
「ごめん美樹。大したことじゃないよ。気にしないで。」三次は急いで謝った。ところが蛯原はますます声を尖らせる。
「大したことだから、ため息ばっかりついてんでしょ。悩み事?」蛯原はいつになく厳しい。普段ね蛯原は快活だが、うるさくは無く、試合に負けて悔しさと自分に対する情けなさで泣いてしまうくらい、真っ直ぐな人間だ。そして何より優しく、笑顔の似合う美少女という感じだった。
「そうなんだけどね。もう解決するから。」三次が言った。蛯原が少し和らぐ。
「ストーカーとか?」蛯原が言った途端、三次は目を丸くした。
「何で知ってるの?」
「え、そうなの?」蛯原はキョトンとしている。
「じゃあ、何でストーカーだと思うわけ?」三次が聞くと、蛯原は無言で顔を動かした。
その先には男子バド部の3年生がいた。
「あああ…………」三次は知っていた。
蛯原が弱味を握られて付き合わされている事を。
「最近、しつこくて。今週末もだし。」蛯原は無理に苦笑している。ちなみに、蛯原は三次にはちょっとしつこい先輩と付き合っていると言っていた。3年B組のその生徒は蛯原が見ていることに気が付くと、笑いを浮かべた。
どこか、軽い薄いにやけた笑い方だった。
蛯原は会釈し、下を向いた。何やら、ぶつぶつ言っていた。
やがて顔をあげる。
「志穂大丈夫?警察に相談したら?」
「う~ん、でも怜衣ちゃんがストーカー被害で警察に相談したら、危害を加えられない限り心配はないって言われて相手にされなかったって。だから大富豪同好会に解決してもらったって。私もそうする。」三次が言うと蛯原はキョトンとする。
「そんな同好会あったっけ?」
「知らないよね。私も昨日怜衣ちゃんと電話してて知ったし。」
「大丈夫?なんか怪しくない?」
「大丈夫だって。知り合い多いし、昨日行ったら、何だかんだで頼りになりそう。今日も部活が終わったら行くの。」三次が言うと、蛯原はしばし黙った。
「じゃあ、私も一緒に行く。大勢の方がいいでしょ。あ、舞も誘って。」
舞と言うのは、松本のことである。
「でも…………良いの?遅くなるよ?」
「大丈夫。じゃ、決まりだね。」蛯原が頷いた。
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「はあ、はあ。じゃ、これで、……文句、………ないな。」その頃、2年G組教室では、打順と全員のポジション&役割が決まり、黒板に書かれていた。
何故か息を切らした小林が言うと、これまた息を切らした群衆が頷き、賛成を示す。
小林が黒板を………………………………かなり汚れた…………例えば、黒板消しをいくつも書けたように白くなったり、チョークの赤とは明らかに違う赤色がついてたり………指した。
打順
1番 小林
2番 鈴木
3番 吉田
4番 岩崎(全員)
5番 館
6番 小橋
7番 堀江
8番 大高
9番 先発投手
(全員)というのは、岩崎が帰国していない試合でスタメン以外のバッターをローテーションすることである。
守備位置
先発投手……園部、高塩、大塚
中継ぎ投手……伊藤、細谷
抑え投手……西野
キャッチャー……岩崎、山田
ファースト……大高、春日
セカンド……鈴木、内山
ショート……吉田、金子
サード……小橋、海老澤
ライト……小林、松下
センター……館、浅藤
レフト……堀江、入江
1塁コーチ……秋山
3塁コーチ……赤松
打撃コーチ……飯島
投手コーチ……入江 (兼)
監督……白玉
代走、代打はスタメン以外の選手全員。
「じゃあ、大高。これ提出してくれ。お疲れーーー」小林が言っても、返事を返すものはいない。
当初は20分の予定が、1時間以上過ぎていた。




