CHAPTER3ー2 女の戦い
3時間目の後は昼休みである。
女子はさっきまでの気迫はどこへやら、「一緒にお昼食べよーーー。」とか「屋上で食べない?」とか急に女子らしい会話が増えた。
小林は購買に出かけ、海老澤と金子は疲労からか眠そうで、箸が止まっている。
鈴木と吉田は早弁をしているので、あっと言う間に食い終わった。
吉田が教室から出て行くと小柄な男子が待っていた。
「行きますか。」
「ああ。」
二人は階段を降りる。小柄な男子の名前は後藤謙介といい、大富豪同好会の書記長であり、吉田の副官の一人である。万能という単語がぴったりで、1年の時に同じクラスだった。そして、ケンカで負けそうな所を助太刀したので、以来、吉田の副官となった。
ちなみに後藤は彼女持ちである。んが、何人もの彼女を渡り歩いている。告白される事が多く、受け入れては斬っているのである。最も大半は他校生からであり、M高生は誰も知らない。本人が言ったので、吉田も知り得たのだ。
本人曰く、自分に合う人を探している、であり、決してプレイボーイではない。
「岩本さんが何か吉田君の悪口をグダグダ言ってましたよ。何かしたんですか?」 「何にも。どんな悪口?」吉田が聞いた。
「人でなしとか、冷酷とか。」
「手厳しいね。鈍感とか言ってなかった?ライトノベルなんかで女子怒るときには必ず出てくる言葉さ。」
「吉田君は一体岩本さんに何を期待してるんです?ライトノベルの主人公は確かに優柔不断で鈍感で、成績、運動はダメ。唯一の取り柄が優しさ、ですけどね。吉田君の場合は唯一の取り柄であるはずの優しさが最もないかと。」 「ごっつぁんよく知ってんね。てか、あんな絵に描いた男子がモテるかね?」吉田が言う。
「モテやしませんね。第一……………岩本さんにと言うより大野くんに失礼でしょう。」後藤はやや躊躇しながら言った。
「だな……………」吉田はそう言ったきり黙ってしまった。
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2007年の12月の事だった。
大野正貴は大富豪同好会の会員であった。体格の良さから、依頼者の護衛などもしていた。
12月のその日、吉田と後藤が棋道部の活動が終わり、6時からは大富豪同好会の活動をしている時に、依頼者が来た。
それが大野自身であった。
大野はいつになく焦って入ってきた。そして、こう叫んだものだ。
「頼む!!怜衣を、救ってくれ!!!」と。
吉田と後藤が事情を聞くと、大野の彼女である岩本怜衣が交通事故にあったらしい。
両親、弟共々である。
そこからは、岩本家のヘリに乗り、病院に向かいながら聞いた。
「母親と弟さんはもう息を引き取ってしまったらしい。だが、父親と怜衣はまだ生きている。でも時間の問題だと……………大量出血があちらこちらにあるらしい。」
ヘリは1分で病院に着いた。元々位置的にM高から病院が見えるのである。歩いても10分。しかし今は一刻を争う。
病院内を駆けながら、尚も言う。
「輸血が必要だが、誰もいないんだ。父親の財閥に人がいるはずなのに………」
「頂点に君臨してんだろ。なら、没落したら良い気味と思うやつがほとんどさ。」吉田は言った。
「家の中のお手伝いさん達にも、いなかった。」大野が言うと、病室にたどり着いた。
病室に入る。途端、死臭と血の臭いが充満した。 「この方達ですか?」それまで父親と岩本をみていた初老の男性が言った。格好からすぐに執事と分かった。
「はい。ドクター!!」
大野が医者を呼ぶと、医者は早口で話した。
「この方達の血液は極めて珍種です。娘さんは、血液型キメラ、父親はAB型のRhーです。」
「「ほう。」」
後藤はAB型のRhーである。Rhーは200人に一人程である。AB型となれば、稀だ。
吉田はA型とB型の血液型キメラである。血液型キメラとは、A型が98%、B型が2%といった具合の血液型が混同したものである。
O型を輸血すれば良いように思えるが、微妙に偏った割合のため、どちらかが凝固するらしい。
岩本怜衣はA型とB型の血液型キメラだった。
70万に一人、と言われる血液型キメラ。
もはや、悩んでいる暇はなかった。
「ただ、大量出血を押さえるまでの時間を稼げばいいのです。二人の血を全て取るわけではありません。協力して下さい…………」土下座された。
吉田と後藤は了承した。
結果、二人は一命をとりとめた。しかし後藤と吉田は、1週間の入院を義務付けられた。
それ以外は丸く収まった。
かに見えた。
入院4日後、患者達は大野が死んだ事を聞かされた。
大野は岩本達が助かった次の日、母と弟の命を奪った飲酒運転の犯人を監視カメラから調べ始め、ついに見つけた昨日、復讐を果たした。しかし、良心の呵責に耐えられず、自死したのだ。
吉田と後藤は信じていなかった。しかし葬儀で、大野の体を見、心臓に手を置いた時、現実を受け止めるしかなかった。
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「岩本さんに冷たくしてはダメですよ。吉田君に恩返しするために、自分が家族の代わりになろうとしてるんですから。」後藤が言った。
「わかりづら……………ツンデレとは違うし…………」
「大野が死んだ時、岩本さんも自殺を謀りましたよね。」後藤が暗く言った。
「僕が岩本さんに冷たくすると、また自殺を謀ると?」
「吉田君と違ってタフではありませんからね。傷つきやすいですし、もう既に心に深い傷を負ってますから。」 「……………」
「さ、優しくですよ。」後藤と吉田はいつの間にか部室に着いていた。
中では岩本がiPodで音楽を聞いていた。それに何だか新人がいる。吉田はその女子の名前を知らない。
後藤がドアを閉めると、その女子が気付き、岩本を叩く。岩本もこちらを向くと、イヤホンを耳から外した。
「この人は?」吉田は岩本に聞いた。
「三次志穂さん。私の体験したことの証人だから来てもらった。」
「はて?では、こちらの方は岩本さんの家に泊まったんですか?」吉田は未だにその女子を直視しない。
「違うよ。学校で見た時一緒だったんだ。」岩本が三次を見た。後藤が助け船を出す。
「三次さんもバド部で知り合いで、悩みがあるので相談したいと。内容はまだ知りません。」後藤が言いながら、席に着いた。吉田と後藤ペア、岩本と三次ペアが向かい合う形になる。 「えっと…………三次志穂です……………あまり人には話せない事なので……でも、あなた達は信じてくれると聞いたんで……………」顔を赤らめ、照れている。のか?
下を向いたまま敬語で話す。雰囲気が誰かに似ているが思い出せなかった。
「分かりました。しかし、誰から聞きました?」吉田が言う。
「怜衣ちゃんから…………同じB組になったんで………」三次がようやく顔を上げた。
吉田は表情を変えないが、三次が相当な美少女であることに気付いた。しかも、こうも大人しめだと、男子は一発で参ってしまうような気配がある。
「じゃあ、内容を詳しく説明して下さい。」後藤が言う。
「はい。始めに言いますけど、作り話ではないので………信じて下さい。」
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つい、昨日のこと。それは、新学期早々やってきた。 実はその体験は過去に3度も経験していた。
1度は、親友の松本と一緒だった。残りの2度は自分だけだった。
バド部の活動が終わり、女子部の部室の施錠を週一で担当する役割があった。
体育館の部活はバド部が最後まで残る。顧問の先生は世界史の教師でもあるので、来る日来ない日があった。
2008年の1月下旬、夕方7時に部活はお開きになった。
しかし、部室の施錠を任されているのに、なかなか着替えずに駄弁る後輩が多く、イライラするも叱る勇気もなく、結局、自分が体育館部室の施錠をしたのは、8時を回っていた。 体育館に誰も居なくなったことを確認して、軽く掃除し、電気を消す。
三次は一連の動作を済ますと、非常口を示す緑色のランプと消火器の赤色ランプだけになった体育館内を小走りで移動する。急いで出て、体験館に南京錠を施す。真っ暗な校庭。真っ暗な教室棟。真っ暗な………いや1箇所だけ明かりのついた文化部室棟。
三次は急いで帰った。
校門がようやく見えてきた時、三次は自分の足音以外の足音が聞こえている事に気がついた。砂の上で足を引きずるような音がした。 オドオドしながら見回す。しかし、誰もいない。
怖くなり校門まで走り駅までひたすら走った。明るい場所に出てから辺りを見回したが誰もいない。
三次はひたすら急いで帰った。
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「なるほど、なるほど。」吉田は珍しく感心したようだ。
「でも、岩本さんが一緒だったのはいつですか?昨日?」後藤が口を挟む。
「はい。でも昨日は…………今までとは違ったんです…………」三次が僅かに震える。後藤が先を促した。
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昨日は、新入部員のために張り切って部活をして疲れたか、6時に終わり施錠の役はバスケ部に回すことが出来た。
体育館を出たのは、6時10分。4月なので日は沈んだものの、明るかった。
三次は校庭で岩本に会った。
「怜衣ちゃんじゃない。部活今、終わったところ?」
「うん。一人?」岩本の問いに三次が肯定すると岩本は少し安堵した表情になった。
「ね、駅南のマック寄ってかない?お腹空いちゃった。」岩本が誘う。三次は今日は遅くなる事を親に伝えていた。差し支えもないので、行くことにした。
マクドから出てきた二人は真っ直ぐ駅に向かった。だが、しかし。急に例えようのない、悪寒が二人を襲った。人通りが急になくなり、車も通らなくなり、店の活気が急に消え、沈黙が支配していた。
その中、
コツッ、コツッ、コツッ………………
足音が近づいてきた。
二人が振り向くと、フードを被り、背の低い影が歩いてきた。
「変出者??やだ………気持ち悪い………」怯える三次の腕を岩本が引っ張った。
「志穂!!!走るよ!早く!!!」
「うん………」階段をかけ上がる。改札にたどり着き、もう一度振り向くと誰もいなかった。
「何なのあれ?誰か知らないけど、気持ち悪っっ!!」岩本が激怒する。
「あっ、ちょうどいい電車ある。悪いけどお先していい?」岩本が三次をのぞき込む。
「えっ!!!うん、大丈夫だよ………じゃあね。」
「うん、バイバイ。」岩本が手を振り、6番線に消える。
三次は手を降ろし、少し起伏のある左胸に手を置く。
妙な胸騒ぎがしていた。
地元の駅で降りると、三次は早足で帰った。電灯は多い方で車もなかなか通っていて、女性にとって危険な道ではないが、早く家に帰れと何かが警告していた。
家がある道に入る十字路に来たとき、それは現れた。
真っ正面から信じられない速さで三次に迫ってきたフードの人間だっ。
「イヤあああああアアアアアアアアアぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」三次の絶叫が響いた。
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「それで気付いたら、家の中で、お母さんに寝かされていて………………詳しく話したら、日があるうちに帰って来なさいと…………」三次が言い終わった。
「それじゃ、駄目なんですか?」吉田が言った。
「ダメです!!!!5月に入るとすぐ、総体の予選があるんです!!!部活だけじゃなく、クラスマッチも!!!選手として、練習しないわけには行かないんです!!!」三次が吉田を見て真剣に言った。
吉田は珍しく気圧されたようで、後藤に「そういうもん?」と聞いて、後藤が「そういうもんです。」と言った。
「なんか、霊的な物は感じないんですがね。ただのストーカーかも知れません。」吉田が言った。
「だとしたら、ヤバいじゃない。もしかしたら、殺されるかも…………」岩本が言った。 「私、どうしたら良いでしょう?」三次が言った。
「そうですね。そいつの正体をちょっと聞きたいんですが…………身長はどのくらい?」吉田が言うと、三次は立ち上がり、自分の頭より、少し高い位置を示した。
「顔は見えました?」
「全然…………」
「ですよねーー見えてたら警察に届け出ですよ。」
吉田はしばしば考えていだが、やがて言った。
「では、護衛を付けましょう。ごっつぁん、よろ。」
「私は、ダメですよ。もうすでに護衛役は3人いるんですよ?!」
「後藤………………」
「くっ、…………駄目なものはダメです。三次さん、吉田君が護衛でも構いませんよね?」
「えっ?あ、ハイ。大丈夫です。私に選択肢は
…………」三次が赤い顔をしながら言う。
「まあ、三次さんが良いなら僕が付きますよ。」
「ありがとうございます。あの…………代金は護衛の度にですか?」
「ほう。総体が終わるまでに事件を解決できなかったとしたら、うん。三次さんに付きっきりでしょう。でもそれは、事件を解決できない自分たちの責任ですから。電車賃だけ払ってくれれば良いですよ。」吉田は笑いはしないが、目の冷たさがなくなり、真面目な表情になった。
「ありがとうございます。何から何まで…………」三次はペコペコする。岩本が鼻を鳴らした。
「やたらと優しいわね。ひょっとして貴司………志穂に惚れたの?」岩本がむくれた。
「ちょっと怜衣ちゃん…………」
「そうですね。岩本さんよりは遥かに人格がありそうです。」吉田が淡々と言った。 「なっ?!どういう意味よそれ!」
「言ったままの意味ですが?理解出来ないとは………可哀想に………」吉田がハアとため息をつく。
「むかつくーーーー!!!!」岩本がぶちきれてしまい、三次が宥め、後藤が苦笑していた。
チャイムが鳴り、一同は解散となった。




