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CHAPTER4ー2 野球練習

長かった話し合いが終わり、海老澤が急いで昇降口に向かうため、階段に通ずる2階ホールを走り抜けようとすると、

「弘毅…………」と静かな声が呼び止めた。

海老澤が振り向くと、小柄で物静かそうな美少女、松本が立っていた。

「ん?!舞?何で?何か約束してたっけ?!」海老澤が慌てる。

松本は首を振りながら置いてある椅子から立ち上がった。

「別に………待ちくたびれたけどね。何か『いつまで待たせんだァ!!!』とか『今日こそけりをつけてやる!!!』『望むところだ、貴司ィ!!!』とか聞こえたけど?何してたの?」松本の声は静かだが苛立っている事がわかり、海老澤は急いで弁解する。

「ごめん、ごめん。クラスマッチの話し合いでもめて………こんな時間になりました。」

「はあ。全く、メールぐらいするんだった。私はただ弘毅にこれを渡しに来ただけ。」松本は海老澤に封筒を渡した。

「何、これ?」

「時間がないから家で見て。そしたらメールして。待ってるから。」松本は言うが早いかサッと行ってしまった。海老澤は訳が分からず、封筒を鞄にしまった。 「わざわざ待っててくれたのにな。悪いことしたな。」海老澤が呟くと、金子が後からやって来た。

「そうだよ。せっかくのガールフレンドを失うよ。」金子が言うと、海老澤は鼻を鳴らした。

「フッ、そういうお前はどうなんだ。そろそろ彼女の一人でも作ったらどうだ?」

「は。工作じゃねえんだから。自由に作れるなら作ってるよ。」

「あ、そ。早くしないと、顧問がうるせえぞ。」海老澤はため息をついて、時計を見る。


しばらく歩き、体育館にまもなく着くと言うとき、海老澤がふと言った。

「そういや、お前全然話し合いに参加しなかったな。クラスマッチ興味なし?」海老澤の問いに

金子は気まずそうに答えた。

「クラスマッチは興味ありだよ。賞金までついてるのなんて、そうそうないから。10万だよ、10万。」

「クラスでだろ。それは学園祭で消えるわ。」

「木材に変わるだけだ。」

「うまいこと言ったつもりか?そこで大賞なら50万。」

「で、10月の歩く会で全員完走なら一人10万。のべ410万円!!!!」


話が勝手に進んでしまったので説明!


まず、クラスマッチでは大高が持ってきた説明書の通り、優勝チームにはクラスで10万、準優勝で3万、3位で1万である。各種目で配られるので、最高額は30万。3位決定戦はあるかないかは当日に決まる。


で、それらは普通学園祭費用にまわし、大賞を狙う。大賞なら50万、準大賞で10万。有志大賞(主に部活)で3万。


で、普通は歩く会にまわる。『歩く会』の説明はその時が来たら説明します。


金子の言う通り、『歩く会』で全員が完走ならぬ、完歩ができたら一人10万。但し、M高の60年間の長い『歩く会』でクラス全員が完歩できた例はない。


ちなみに、当然、賞金は生徒がだしあって集めたものである。負ければ一方的に損をします。

閑話休題。


「まあ、どっちにしろ………俺、あんま野球分かんないだよね。」

「ほう。ルールくらいは分かる?」

「基本的なのは。込み入ったのは分からない。」

「それは俺もそうだ。完璧な把握してるのは野球経験者くらいでしょ。」海老澤が言うと、金子は少し安心したようだった。二人はゆっくりと体育館に入っていった。


ー軟式野球部ー


小橋と鈴木は練習には遅れたが、軟式野球部は規律は緩いので誰も責めなかった。休むときでさえ、別に言わなくていいのである。来たい時に来て、帰りたい時に帰る。

現に今も、キャッチボールをしてる人間が何人かいるだけである。

小橋と鈴木はサッサと準備運動を終わらせ、キャッチボールをする。


10分もすると、二人は30メートル位離れて遠投しだした。

しかし、球は一度もバウンドせず相手のグラブに入る。送球は一定で無いものの、必ず、歩いて動いて取れる範囲に収まっている。本来なら外野手をするところだが、内野手になりうる、選手がおらず、泣く泣く二人はセカンドとサードを守っていた。 6時を回ると、キャプテンはこれ以上やっても来ないと判断し、更には4月の夕闇が後押しして、お開きになった。軟式野球部員15人のうち、今日来たのは、6人であった。






ー女子バド部ー


「お疲れ様でしたーー」

定型句ともいえる言葉を発し、片付けを始める部員たち。部長である三次は自ら率先して、片付けをするので、同級生からも先輩からも高く評価されていた。

「舞、言ってなかったんだけど。」蛯原は一緒にポールを運んでいる女子に言った。

松本は何?と言いながらも、こちらを向かない。

「志穂が最後まで体育館に残って施錠したり、戸締まりしたり掃除したりするのは知ってるよね?」

「うん。」

「夜遅くなってから、帰るでしょ。」

「うん。」

「それで、昨日ストーカー被害にあったんだって。」蛯原は躊躇いなく言った。

「え?」

「それでこれから相談に行くんだけど、一緒に来てくれない?大勢の方が安全でしょ。」

「どういうこと?ストーカー?警察に言った?」松本が久々に焦り出した。同じ女子として…………心配なのか?


「何事もなかったけどね。警察は何か暴行被害とかがないと捜査してくれないの。だから違う所に相談する。」

「違う所?どこそれ?」 松本が咳き込んで聞いた。

「それが志穂しか知らないの。志穂は大丈夫って言うけど、心配だから…………」

「わかった。一緒に行く。」

「良かった。」蛯原は安堵した笑みを浮かべた。


ちなみに、三次が部長になったのは3月からで、松本も蛯原も部長の仕事を見たことがなかった。

まず、部室に誰もいないかを確認し、戸締まりをして、施錠する。それから体育館の使用した部分をモップがけし、2階…………(正しくは4階。下2階には外の部活の部室がある。)のカーテンを開け、戸締まりをし、体育館の電気を全て消し、外側の南京錠をかけ、ようやく終わる。ちなみにたまにバスケ部とたまに代わってもらうが、今日は、軟式野球部と同様、人の集まりが悪く、途中で終わってしまった。と言うことは、金子と海老澤は無駄足だった訳だが…………それはさておき、7時になって、ようやく帰れる。3人なのでいつもよりは早いが。


3人は隣接する文化部室棟に足を運ぶ。後藤に言われた通り2階に行くと、明かりがついてるのは一ヶ所だけだった。




…たーだ必死にしーがみつーいてたーら、君が目の前にあーらわれたーーヘイ、ユー、こーのビッグマシーンにー乗って行けーよーーーぉっっ…………


「「「………………」」」3人は沈黙する。


何やら音楽が聞こえてくる。しかも結構な音量で。三次は意を決してあるきだし、ドアを4回ノックした。



すると中から間奏に混じって「いいとこなのに………」と不満げな声がし、音楽が止まる。

そして、ドアが開かれた。

「大富豪同きょう会にようこそ!」そう言って吉田がドアを開くと、3人が吉田を見返す。吉田は「かんじゃった………」と横を向き、苦い顔をする。

「三次さん。後ろの人は誰ですか?」吉田が真面目な顔になり、冷たい声になった。

「はい。私の友達のみ………蛯原さんと松本さんです。」三次は吉田が理解できるよう答える。蛯原と松本は礼をしたが、吉田は冷たい目のままだ。

「……………」

「……………」

「………………」

「………………」

「…………………」

「……あの、どうかしました?」

沈黙に堪えられなくなり、三次は聞いた。

「………三次さん、この人達は来る予定ではなかったですよね?」

吉田の声は冷たい。威圧されながら三次は、はいと答える。

「誘ったんですか?」

「一緒に来てくれると言い出したので………」

「ほう。」吉田は後ろの二人を見る。しかしすぐに三次に視線を戻すと言った。

「この人達は信頼がおけるのですか?」

吉田の質問に蛯原が割って入る。

「私達は友達ですから。志穂がストーカー被害にあったから、心配して一緒に相談するのがそんなに変?」

「……………君は何処かで見たような…………」吉田は冷たい目のまま言う。蛯原は憤慨する。

「酷くない?貴方の隣の席ですけど?それに………」蛯原は何故か少し赤くなり言った。

「貴方に始業式のとき、迷惑かけちゃって謝ったんですけど。もしかして許して………もらえません?」蛯原は少々、たじろいだ。

吉田はやおら言った。


「どうやら怪しい人ではなさそうですね。入って下さい。三次さん、松本さん、……………………蛯原さん。」ドアから身を引く。

「今の間は何ですか………また忘れたとか?」

「…………まさか。」吉田がようやく冷たい目でなくなった。

「松本さん、ドアを閉めてください。」

「はい。」ドアの近場に松本がドアを閉めるのを見て、三次が聞いた。

「舞と知り合い何ですか?」

「名前を知ったのは今日が初めてです。でも何回か海老澤と一緒にいるのを見たことがあるので………」

吉田の言葉に松本が赤くなった。

三人が吉田と向き合う形で座る。蛯原は辺りを見回して、感嘆する。

棋道部室はどの部室よりきれいで、床にはビニールシートが引いてあり、砂等がすぐに処理できるようになっていた。しかもビニールシートが何回も使える型である。

将棋盤と囲碁盤が分けて積まれ、駒の入った箱は、正方形になるよう更に大きな箱に敷き詰められていた。本は、将棋や囲碁の本、更には麻雀雑誌やライトノベルが……………特にライトノベルが………うじゃうじゃと但し、きれいに本棚に敷き詰められていた。で、壁には12枚の国旗が張られていた。

そして、片側の壁には賞状がたくさん貼り付けてあり、扉の内側には張り紙がしてあって、『人に厳しく、環境に優しく!』と書いてある。沈黙が訪れようとしていた時、吉田が聞いた。

「三次さん、今日はその二人も地元まで帰るのですか?」

「はい。二人とも同じ地区出身なので。」

三次が答えると、蛯原が言う。

「志穂をつけ狙う犯人はどうするつもりですか?」蛯原が聞くと吉田は何やら書類を書きながら言った。

「もう二度とそんなことができないようにするんじゃ、ないんですか?」

「具体的には何をするんですか?」

「どんな犯人かに寄ります。」吉田が淡々と答える。今度は三次が聞く。

「じゃあ、例えば凄い極悪人だったりしたら…………」

「そんな奴は、ストーカーなんてみみっちい事はしませんよ。いっそ三次さんを拉致して暴行するなり、なんなり………まあ、多分、三次さんの事が単に好きなんでしょう。エスカレートしてますがね。だから三次さん自身がそいつに『つけ回すな。今度やったら警察だ。』と言えばそれで良いんですよ。」吉田が書類を半分ほど書き終える。 「でも、知らないんですか?M市の警察は汚染されてるんですよ!!」蛯原が言うと、吉田はシャーペンを取り落とした。慌てて拾うが、芯が折れてしまっている。

「なんで知ってるんですか?」吉田は顔をしかめて言った。蛯原を真っ正面に見ながら言うと、また蛯原は少し赤くなりながら言った。

「怜衣ちゃんから………聞きました。」と言うと、吉田は感心したような、イライラしたような何とも奇妙な表情になった。

「それで…………わざわざ僕達の所に。」

「じゃあ、本当なんですね。」三次が言うと、吉田は頷いた。

「そうです。警察の連中は今や中国の秘密警察みたいなもので、賄賂をもらえば、見逃してしまう、捜査をしないのが常識になりつつ有ります。てか、なってます。」

「じゃあ、怜衣ちゃんが相談したのに、被害がないのに捜査できないなんて行ったのは………」

「そう言えば岩本さんを追い回していた奴は、警察官の息子でしたね。」

「その犯人はどうしたんですか?」三次が聞いた。

「とりあえず、二度と立てなくなりました。岩本さんに謝るよう言うと、僕が岩本さんの恋人だと勘違いして、嫉妬と焦りから、包丁で殺そうとしたんで。逆にそれで筋を切っただけです。殺したりはしませんよ。」三次がぶるぶる震えながら言った。

「警察にはつき出さないんですか?」

「こっちが逮捕されます。まあ、『チクったら今度は命だよ。』って言ったら何も有りませんけど。よし、できた。三次さん、ここに指印を押してください。どの指でもいいんで。」吉田はそう言って紙と赤いスタンプインクを渡した。 「はい。でも何に使うんですか?」

「記録を収めるだけです。」三次は人差し指をペタッとつける。

「…………………あの、貴司君?聞いて良いですか?」蛯原が言うと、吉田は紙を受け取りつつこちらを向いた。

「何で、名前を知ってるんですか?」

「名前では、ダメですか…………?」

「…………ハァ。で何ですか?」

「ここは、どんなことでも解決してくれるんですか?」蛯原が真剣に聞くので、吉田は真面目な顔で返答する。

「最大1000円の料金、それ以下は基本的に必要経費だけですけど。何かお困りですか?」

「………………いえ、ただ気になっただけです。」 「………そうですか………困った時はいつでもどうぞ。じゃ行きましょう。」吉田は立ち上がると、ラジカセのコンセントを抜いた。

「さっきは何の曲を流してたんですか?」

「ポルノグラフィティの『ハネウマライダー』ですが。有名だと思いましたが…………」三次の問いに、吉田は少し萎えたようだった。

三次、松本、蛯原が外に出て、吉田は施錠してから言った。

「これから、3人で帰って下さい。僕は後ろから見てますから。」吉田が言うと、3人はえっという顔をした。

「そのすきにストーカーがやってきたらどうするんです?」蛯原が聞くと、吉田は面倒くさそうに、

「男子が側にいたら警戒して出てきませんよ。あくまで犯人を押さえ、二度としないことを誓わせるのが目的な訳ですから。」吉田が言っても、蛯原は不安そうだ。今度は松本が聞く。

「じゃあ、ストーカーが出たら、助けとか求めていいの?」

「はい。大声を出して、後ろに向かって走って下されば。ま、三次さんの話を聞く限りは犯人は単独ですから。そんなに不安になることはありません。あと、三次さん。向こうの駅で松本さん達と別れた後はいつも通り帰って下さい。僕はずっと後ろから追いますので。」端から見ればどちらがストーカーなのか分からないような結論を述べる吉田。それでも三次は分かりました、と頷いた。

「では、皆さん。出発してください。」吉田が言うと、3人は踵を返して帰路についた。

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