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VAKU  作者: segakiyui
5.光の牢獄

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2

「でも、ほとんど女の人だったけど。見かけが目立つ以上に…よくもてたかも。すすむよりハンサムな人も一杯いたけど……何て言うのか……」

 鹿子はことばを探した。

「そう……種類が違うっていう感じ……猫にまたたび、って知ってる? あんな感じだった」 

「ふうん……じゃあ、ここでは女性の方が『記憶』を溜め込むのが苦手なのかも知れない。悪夢が限界まで溜まってしまうと、生き物はVAKUを訪れて、VAKUと接触することで悪夢を捨てていくのが常だから。でも、それは、前にも言ったけど、彼みたいな不良のVAKUには苦しいことだったはずだわ。捨てられる『記憶』は拒否できないし、VAKUが存在するのはそのためだから、捨てにくる者も拒めない。けれど、彼はその『記憶』を受け取っても処理出来ない………はっきり言って、かなりの苦痛、だったはず」 

「そんな…」

 鹿子は『炎』に移した視線を、再び光の塔の中のすすむに戻した。

「わからない、まったく、わからない。なぜ、そんな苦痛を選ぶ必要があったのか」

「選ぶ?」

 鹿子は『炎』のことばに、慌てて彼女を振り向いた。じっとすすむに目を注いだまま、『炎』がことばを継ぐ。

「そうよ。彼を調べてみてわかったのだけど、彼は六歳ぐらいまでは、ちゃんと正常なVAKUでいたはずよ。保護者や友人にも困らなかったはず、なのに、六歳あたりで急に『記憶』を吸い込むばかりで放出できなくなっている……何かが起きて、彼が『記憶』を放出する事を止めたとしか思えない。…………けれども、それ以上は、どうしても入れなかった………かろうじて、あなたの事が『記憶』に残っていただけ……」

「あたし……?」

 鹿子はいきなり自分の名前が出たことに、体を強張らせた。『炎』が光の塔から目を逸らせ、鹿子を凝視する。

「そう、あなた」

 『炎』は考え込みながら続けた。

「気になったの。彼はあなたの作った食べ物しか受け付けない、とわかった時。あなたは多分知らないでしょうけど、『記憶』を放出できないVAKUが代用する方法に、『記憶』の放出ができる能力者と常時接触して、受け入れた『記憶』を少しずつ流し、圧力を減らして生き延びる方法があるの。もし、あなたに『記憶』を放出する能力があったら、VAKUが食事という理由づけで接触し続けるのは、もっともなこと……」

「でも……あたし、そんな能力なんて……ないわよ?」

「そうね……そこで、もう一つの仮説。VAKUがあなたに放出口を与えてしまった、ということはあり得るかしら」 

「だが、『炎』」

 それまで黙って聞いていた『瞳』が、おもむろに口を挟んだ。

「どうして、VAKUがそんなことをするんだ? VAKUにもこの世界にも、何のメリットもないことだ」

「だから、彼女に来てもらったのよ、『瞳』」

 『瞳』の反論にも揺るがず、『炎』は頷いた。

「何が起こったのか、VAKUには入れなかったけど、彼女になら入れるかも知れない。だから、あえて、ここまで話したの」

 最後のことばは鹿子に向けたものと知れた。

 『炎』は目に強い光をたたえて、鹿子を凝視した。

「もし、あなたが協力してくれれば、VAKUが放出口を失ったわけがわかるかも知れない。そうすれば、VAKUを『治す』ことができるだろうし、それがうまくいけば、VAKUを処理しなくても済む……どうかしら」

「わかった」

 鹿子はごくりと唾を呑んで、もう一度、光の塔に閉じ込められているすすむを見上げた。

 お伽噺では、塔に閉じ込められているのはお姫様の方なのだが、すすむ相手では鹿子が王子役をするしかないらしい。  

 脳裏についさっき経験した、失った記憶に対する恐怖が過ったが、鹿子は必死にそれを思い出すまいとした。 

 くるりと『炎』に向き直る。

「で……どうすればいいの?」

「難しくはないわ。『瞳』」

 『炎』に促されて、『瞳』がどこからか椅子を一脚持ち出してきた。

 鹿子の前にそっと置く。 

 そのままで、元の、光の塔を監視する位置に戻り、『炎』と鹿子を見つめた。 

「座って」

 鹿子はゆっくり椅子に腰掛けた。

 前に立った『炎』が、覗き込みながら低い声で話しかける。

「目を閉じて……催眠術に似てるけど、わたしもこうして当てた手から、あなたが見ているものや経験していることがわかるわ。もし、苦しくなったり我慢できないような事が起こったら、すぐに声を上げて。止めて、ってね」

「止めて、ね。わかった」

 鹿子はしっかり頷いた。額に当てられた『炎』の手を辿って、深く黒い相手の目を見つめ返し、覚悟を決めて目を閉じる。

「いい……ゆっくり呼吸して………ゆっくり……そう……」

 『炎』の声が次第次第に遠くなっていく。額に当てられた手がぽわりと温もった。その温かさに溶け込もうとした瞬間、聞き慣れた声が叫んだ。

「だめ、だ!」

(すすむ?!)

 ぼんやりと薄明かりの中に消えていきかけた意識が、間髪入れず引き戻される。はっ、と息を吐いて目を開けると、正面の光の塔の中で、目を覚ましたらしいすすむが、絡む光の糸を払うように身もがいていた。

「すすむ!」

「だめ……止めるんだ……鹿子……関係がない……何の関係も…」

 うろたえたように光の塔に駆け寄り、『瞳』が塔に手を当てる。どんな力が走ったのか、すすむが体を強張らせて悲鳴を上げ、それでも光の網にしがみつくようにして鹿子を見た。 

「馬鹿……! 何を…してる……逃げろ……逃げ……うわああああっ!」

 警告は途中から悲鳴になった。弾けるように後ろへ飛ばされ、光の塔の中でもまれるようにすすむの体が舞う。

「止めて! 止めさせて! 『炎』!」

「『瞳』!」

「だめだ。こいつは『記憶』を呼び込もうとしている」

「え…」

 どぅん。

 部屋全体が大きく揺れた。


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