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手を伸ばして引き出し、それもアルバムだと気づいた。赤いぺらんとした表紙、ページも数枚分しかない安っぽいものだ。
「いつのかな…」
今までこれは見たことがない、と表紙を開いて、思わず微笑んだ。
毛布の上に転がっている男の子。病院で撮ったのだろうか、裸んぼで手足を広げている。『すすむ、誕生』の文字に笑みを深めたが、次の写真に思わず手を強張らせた。
「何……これ……」
『すすむ、両親と』
その文字を読んでも信じられない。
そこに写っているのは、今のすすむの両親ではなかった。見も知らぬ二人が赤ん坊のすすむを抱えて笑っている。
鹿子は慌てて写真を追った。
ちょうど二歳の誕生日を迎えた辺りで、両親の顔は今の両親のものになっていた。
「養子……」
幼なじみと言いながら、今まで全く知らずにいたことだった。
すすむの知られたくないことを無理に見てしまったようでためらったが、思い切って続く数枚を目で追った。
「小さい頃はやんちゃ坊主の顔だけどね………あ……れ……?」
ふと首を傾げた。
付いているコメントからすれば、すすむの写真は七歳ぐらいまできていることになる。
だが、どこにも鹿子の姿がない。すすむと行ったはずの六歳の夏祭りの写真にさえ、鹿子が写っていないのだ。
「変……だな……」
覚えている限り、鹿子は五歳ぐらいからすすむと一緒にいる。それも離れているのは夜寝る時ぐらい、という親密さだったはずだ。その頃はすすむの両親も今ほど無愛想ではなかったし、すすむがどこかに出かける時は必ず鹿子も同行した。鹿子のアルバムは、五歳頃のはなくしたようだと言われたものの、その後のものはほとんど、すすむと写っている写真ばかりだ。
「待って…」
誰に言うともなく、鹿子は呟いて目を閉じた。
いや、待て……確かに七歳の夏祭りはすすむと一緒の写真がある。
(でも、六歳のは?)
覚えていなかった。単に忘れているだけだろうか。
もう一度目を開いて、すすむの六歳の夏祭りの写真を見つめた。
暗闇に赤や黄色、オレンジの提灯。踊りの中央を白いライトが照らしている。その光景を背に綿菓子を持ったすすむと両親が写っている。
六歳の夏祭り。
鹿子は何をしただろう? 屋台を見ていたのか? りんご飴を舐めていたのか? パチンコを試していただろうか。
鹿子は次第に早くなってくる呼吸に気づいていた。
いつもの苦手な光景とこの写真はそっくりだ。そう思いついて、ますます息苦しくなってくる。
それを我慢して、鹿子は必死に記憶を探った。
何か変だ。何か大切な事を鹿子は無視してきている。それはすすむに関する事、そして鹿子自身に関する事だ。
鹿子は六歳の夏祭りを、奇妙な空白に置き忘れてきている。
(もう少し……もう……少しだ……)
額からにじんで流れてくる脂汗に、唇を噛んだ。気分が悪い。今にも吐きそうだ。けれども、これはどうしても思い出さなくてはならない。
六歳の夏祭り。
その時、鹿子に何があったのか。
「待って」
「!」
背後で声が響き、ふわりと肩に手が置かれて硬直した。びくっと跳ねた体をなだめるように、置かれた白い手がゆっくり上下にリズムを取る。
「急がないで……段階がいるの。わたし達なら手伝える………VAKUの助けにもなるわ」
「『炎』……」
鹿子はのろのろと振り向いた。
どこから入ったのか、『炎』が後ろに立っていた。




