第98話 メイドの巧妙な証言
2022/2/11 誤字の指摘をいただきました。ありがとうございます。
(誤) ”「所々に私の見解を挟んで~”
(正) ”『所々に私の見解を挟んで~”
ブン、という音が響くと、目の前にドアノブのない木製の扉が現れる。
「……あれ?」
童話世界から人間界に戻ろうと、キイナが扉を出した。
が、いつもなら、すぐ向こうから開かれる扉が、いつまでも閉じられたままだった。
「理香~、戻ってきたのですよ~」
ドアをノックする。割と強烈に叩いている。
一番最初に理香がドアのノック音で起こされたと言っていたことを思い出した。なるほど、これなら安眠を妨害するには十分な音量だろう。
しばらくすると、扉が開かれる。
「すまない。ちょうど、崖の上の刑事が密室トリックを暴いていたところだったのでな」
なかなか扉が開かなかった言い訳を、理香は淡々と語った。
「あれ、もうそんな時間か?」
「これは録画だ。戻ってくるまでの暇潰しにな」
そう言って理香はリモコンを持ち上げる。
丁度2時間サスペンスで、犯人を追い詰めているシーンだと一目でわかる崖の上のシーンだった。
密室トリックの話をするのなら、事件現場で行うべきじゃないか、と突っ込みたくもなるが、そこは2時間サスペンスドラマの様式美。残り20分ほどのタイミングで、崖の上にて犯人を追い詰めなければ、物足りなさを覚えてしまう。
テレビは、ちょうど犯人が膝から頽れるところで消えた。
「で、どうだった、メイドは?」
イスに腰を下ろすと、理香が尋ねてくる。
酒挽はキイナと並んでベッドに座ると「うん……」と呟いて少し思案する。
「なんだ。言葉も出ないほどエロかったのか……」
「何を想像している!?」
「メイドと言えば、主人に傅く存在。姫に忠義の全てを注ぐメイドならば、裁判長に対して、無罪にするよう、全存在をかけた色気を振りまいていたに違いあるまい」
「お前、世の中の全メイドさんに謝れ!」
「冗談だ。篭絡するなら幼女検事だからな。きっと、ぎゅっと抱きしめれば『ママ』と言ってしまいそうな程の母性を前面に押し出した豊満なメイドが登場したのだろう? 当利には刺激が強かったのではないか?」
「何が!?」
「残念なことに、理香が想像するような柔肌の露出多めなタイプのメイドさんではなかったのです。むしろ、邪な考えで近づけば、切れ味鋭いナイフでスパッと切り落とされると思うのですよ。護衛メイドだったのです」
「君は君で、何を残念がっている1?」
「ナイフがどこを狙っているかに、興味が惹かれるな」
「とにかくっ! メイドは白雪姫の無実を信じていた! だから偽証は白雪姫の不利につながるからと、自分が見た内容を、そのまま証言したと言っていた! それも、白雪姫の証言と食い違っていることをわかっていながら、だ!」
「その心意気やよし、なのですが、後は任せた感が半端なかったのですよ……」
キイナもため息交じりに酒挽に追従する。
「……わかっていながら?」
理香が怪訝そうな表情を見せて聞いてくる。
「ああ。証言の内容について、検事に『白雪姫に不利な証言をしている自覚があるのか』と聞かれて、肯定したからな」
「……そういえば、随分と変な言い回しだったのです」
キイナが何かを思い出すように目線を天井へと向ける。
「変な言い回し?」
「えっとメイドさんは『しかし、それが私の知り得る事実です』『私は極力客観的な視点で、事実に反しない証言に努めているつもりです』と言ったのですよ。その上でそれが白雪姫にとって最善手だと言って……理香?」
不意に理香が口元を手で隠してフッと笑う。
「それ、間違いなく幼女検事が突っ込んだだろう?」
「なのです」
テールが突っ込んで当然の証言だろう。「事実に反しない証言に努めている」ということは、ともすれば、本来必要な証言を故意にしなかったり、敢えて解釈が間違いそうな言い回しをする、と言っていると捉えられかねないのだから。
「メイドはなんと反論した?」
「極力自分の個人的な思いを排除して証言している、と言ったのです」
一瞬の間。急に理香が大声で笑いだした。
「ああ、すまない」
そう言いながら、理香は目じりを指で拭う。
「どこに笑う要素があった?」
酒挽もキイナも、理香のお笑いポイントがどこにあったのか、皆目見当がつかなかった。
「いや、さすが姫に忠義の全てを注いだメイドなだけはある。実に巧妙に自分が偽証を強要されていると証言しているじゃないか」
「「は?」」
酒挽とキイナの声がハモる。
「キイナ。今の件、メイドの正確な証言を覚えているか?」
「ええっと――。
『それが私の知り得る事実です。もとより、私は個人的な価値観で白雪姫様の有利、不利を判断する立場にありません。なので、私は極力客観的な視点で、事実に反しない証言に努めているつもりです』
『事実に反しない、とは、どういう意味ですか?』
『所々に私の見解を挟んで証言させて頂いておりますが、極力私の個人的な思いを排除している、とご理解ください』
――なのです」
途中に差し込まれたテールの物マネが意外と似ていることは、この際脇に置いておくべきだろう。
「どこら辺に偽証を疑わせるニュアンスがある?」
酒挽には全く理解できない。
「まずメイドは『知り得る事実』と言った。つまり彼女は『知っている事実』を証言していないと言っているのだよ」




