表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/421

第99話 誰が白雪姫を殺そうとしていたのか

2019/08/29 脱字(カギカッコ)部分を補正しました。

2019/11/24 前書きの表記がおかしかったので修正しました。

「大した違いはないと思うけど?」


 酒挽(さかびき)が呈した疑問に、理香が解説を入れる。


「言葉をニュアンスだけで捉えれば、確かに大した差には感じないだろう。だが、意味を正確に捉えると、そうも言えない」


「正確に?」


「『知り()()事実』を言い換えれば、『情報を()()()()()()()()()()事実』になる」


「そう言われると、確かに不自然に感じるのです」


 まぁ、正しく表現すればそうなるのだろう。しかし、やはり「知る事実」と大差がないように思える。


「さて、メイドは、極力客観的な視点で、『()()()()()()()()()証言に努めている』と主張しているわけだ」


「……ん?」


 たった一言、理香が「その」を付け加えただけで、意味合いが随分と変わってしまう。客観的な事実を証言しているはずなのに、前提が狂わされてしまっている。


「わかるか? これは()()()()()()()()()()()()()()、ということだ。だから、メイドが言っている『事実』はすべて同じ内容でなければ、矛盾が生じる。メイドはわずかに言葉を足したり引いたりすることで、巧妙に誤認を誘発させているわけだ」


 キイナが首を捻る。


「つまり、どういうことなのです?」


「結論だけ先に答えてしまえば、姫が意識を取り戻した瞬間の話自体が捏造だということだ」


 白雪姫が、背中を叩かれたはずみで、りんごの芯が口から飛び出した結果、蘇生した、ということを理香は否定するというのだ。

 その話に、酒挽は思考がパニックに陥りかける。


「いや待て待て。なんでそんなことがわかるんだよ!?」


「姫が食べたのが、()()王妃が作った毒りんごだったということだ」


 そう言われて、酒挽はハッとする。


「そうか……()()だ」


 王妃は魔法の鏡を使っていた。それによって、自分よりも美しいとされる白雪姫が生き続けていることを知り、毎日のように小人の家に殺しに行く、という日を繰り返した。

 理香が頷く。


「姫の食べた毒りんごは、魔女によって作られたものだ。考えてもみるがいい。姫の意識を奪った胸ひもも、櫛も、魔女が絡んでいる。そして破壊されたり、体から離れた途端に意識が回復している」


 白雪姫を強力に締め上げていた胸ひもは、切断されることでその効果がなくなった。

 櫛は、髪から外したら。りんごは口から飛び出したら。白雪姫の意識が回復している。


「おそらく、櫛もりんごも胸ひもも、魔法によって白雪姫の意識を奪い、死に至らしめる呪いが掛けられていたのだろう。櫛は髪から脳に作用させるものと考えられる」


 なるほど。それなら櫛が白雪姫の髪に刺さったままになっていた理由がわかる。その状態でなければ、効果を発揮しないということになるのだから、王妃としてはそのままの状態で現場を離れざるを得ないだろう。

 

「じゃあ、胸ひもは?」


 理香が演劇部で行った実験でも、酒挽が裁判所でテールに行った実験でも、圧迫することで意識を奪うことが可能だということはわかった。

 だが、それは物理的な効果であって、魔法が絡むとは考えられない。

 もしかしたら、王妃による最初の殺害行為だから、精度の低い方法が用いられたのかもしれないが。


「胸を圧迫して気絶させるだけなら、胸ひもは縛られている必要はない、と以前に説明したよな?」


「なのです。でも実際に縛られていたので、徐々に締め付けが増していく術が施されていたのだと思っていたのです」


 キイナの言葉に、理香は首を横に振る。


「おそらく実際には、胸――心臓に作用するものだったのだろうと思う。胸ひもは、腰部分から胸にかけてひもをクロス上に編み、胸の部分で結んで固定する。もっとも心臓に近い部分に結び目を入れて固定する必要があったのだと思う。姫を気絶させたのは、苦しさから胸ひもを姫自身が切断したり、解いたりできないようにする目的があったのだろう」


 だから、櫛にしても胸ひもにしても、王妃は確実に白雪姫を殺すことが可能だと踏んで、白雪姫の死をその場で確認することなく立ち去った。

 おそらく、死に至る呪術には絶対の自信を持っていたのだろう。

 そして結果は魔法の鏡が教えてくれるのだ。わざわざその場で検視官のまねごとをする必然性もなかったわけだ。


「じゃあ、りんごは……」


 そこまで説明されて、酒挽にも思い至るところがあった。


「姫の証言のとおり、一口だけ齧ったのだろう。それが体内に取り込まれ、外部から対処の方法がないため、白雪姫は意識を失った。だが、りんごの半分にかけられた呪いの、ほんの一かけらだけだったから、姫は()()()()()()()()()()()


「それで、破片が口から飛び出して、呪いが解けたのですね?」


 キイナが出した結論に、理香は首を竦めて見せた。


「さすがにその結論は出せないな」


「どういうことなのです?」


 キイナの詰問に、理香は苦笑いを浮かべ、ため息交じりに答える。


「ボクはまだ、メイドによる白雪姫の蘇生に関する証言内容を君たちから聞いていないからな」


「そういえば……」


 酒挽はメイド自身の話しかした覚えはなく、メイドの証言の中身をまだ説明していないことに気が付く。


「そんなことしなくても、理香はきっと何でもお見通しなのです!」


「随分と買ってくれているようだが、いくらなんでも、ちゃんと説明して貰わないと、明確な答えは出せないさ。ボクは、何でもお見通しの魔法の鏡を持っていないのでな」


 理香はそう言って、悪戯っぽく笑って見せた。

申し訳ありませんが、次回の更新は来週の日曜日の夜とさせていただきます。

詳細はお手数ですが活動報告をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ