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第91話 白雪姫蘇生の瞬間――メイドの証言(その1)

少し遅くなりまして、申し訳ありません。


2019/08/11 サブタイトルの一部を「第四の殺人未遂」から「白雪姫蘇生の瞬間」に変更しました。

「珍しく、お一人なのですね?」


 童話裁判所の法廷に入った酒挽(さかびき)に、検察側の席に座るテールが声をかける。テールはいつもどおり、頬杖をしてつまらなそうな表情浮かべていた。


「少し調べ物をお願いしていてな」


 酒挽は、そう言いながら席に座る。


「へぇ……キイナさんに任せっきりではないのですね」


「裁判記録の確認だけは、童話世界(こっち)でしかできないからな」


 童話世界の物は、人間界に持ち込めない。それは、全くの無害と思われる裁判記録とて例外ではない。


「確認だけなら、あなたがすればいいのでは?」


「……できるの?」


「可能ですよ。裁判記録の確認は、弁護保佐人と弁護人、双方に認められていますから」


「でも、私が調べた方が早いのです」


 キイナが現れて、酒挽の隣に座る。手には封筒が3つ抱えられていた。そのうちの一つを差し出してくる。


「これが、トーリに頼まれていた分なのです」


「残りの二つは?」


「……見ていたら、参考になりそうだったところがあったので、ついでに写しを取ったのですよ」


 一瞬返答に間が開いたのを見て、理香の指示であることを悟る。理香の存在は察されないようにした方が賢明だろう。理香自身も、そう言っていたことを思い出す。


「もう何度も記録を読み返していますから、大体の場所は把握済みなのですよ」


 キイナは微笑みながら、そう説明してきた。少し声が大きいのは、テールに聞かせるつもりの発言だということなのだろう。

 当のテールは、軽く嘆息すると、視線を二人から外す。


「トーリからお願いされていた、王子のりんごに対する証言なのですが、第一審では『破片』と言っていたのです」


 渡された封筒から書類を取り出す。書かれているのは、王子の証言。だが、物証がないため、テールが「お話にならない」と何度も発言をしているのが目につく。おまけに、弁護人を兼ねているため、反対尋問はゼロ。


「それと、検察側は、メイドを証人として召喚していないのです」


 死体状態の白雪姫専属メイド。「いつ目を覚ましてもおかしくない」白雪姫のために、王子が当てがった女性である。

 王子自身が弁護人と証人を兼ねていることも影響しているのかもしれない。メイドの証言と王子の証言は、ほぼ同じ内容である可能性が高い。であれば、王子はメイドに証言を求める理由はない。

 一方の検察側が証言を求めなかった理由は判然としない。

 検察側は裁判前に証人に事情聴取をすることができる。その中で、不要と判定されたのかもしれない。

 いずれにせよ、話を全く聞いていない酒挽には、証言を求めるしか他に説明を求める機会はないわけなのだが。


「起立」


 号令を受けて、全員が立ち上がる。静まり返った法廷に、裁判長が入廷してきた。真ん中まで進むと椅子に座り、木槌を叩く。


「それでは、審理を再開します」


 裁判長に指名されて、酒挽が立ち上がる。


「それでは、白雪姫が意識を取り戻したときの目撃者である、メイドに証言を求めます」


 証言台に光が差し込み、メイド服姿の女性が現れる。見た目、酒挽よりも上に見える。突然の召喚にも平然としているところからすると、訳も分からず、目を覚ました白雪姫に状況を説明する係としては、適切な配役だろう。


「証人、名前は」


「名前はありませんので『メイド』と」


「分かりました。では、証人、職業は?」


「メイドをしております」


「所属世界は?」


「童話『白雪姫』です」


「それでは弁護人、尋問を」


「では、メイドさん。白雪姫が意識を取り戻したときのことを証言してください」


「はい」


 深々と一礼すると、メイドは証言を始める。


「私は、王子様から白雪姫様の身辺に常について回るよう命じられました。王子様は、どこに行くにも白雪姫様の入った棺を伴っておりましたので、必然的に私もご一緒させていただきました。

 王子様は、ご公務のため時折、棺の傍を離れなければならないことがありましたが、その際、非常に悲しそうな表情をされておりました。聞き及んだ話では、白雪姫様が傍らに居られない時は、食事も喉を通らなかったそうで、私と棺を運ぶ者ともに、可能な限り王子様のお傍を離れないようしておりました。

 そんな生活を続けてから、どれくらいのことだったか。王子様が、やはりご公務のため、白雪姫の傍を離れなければならないことになりました。私はいつものとおり、白雪姫様の傍に寄り添っていたのですが、突然、棺を運ぶ者が『この死体のせいで、俺たちは一日中ひどい目に遭っている!』と叫び出しまして、ガラスの蓋を開け、白雪姫様のお身体を起こすと、お背中を叩いたのです。止める間もありませんでした。

 ところが、背中を叩いた衝撃なのか、白雪姫様の口から、りんごの芯が飛び出してきたのです。

 同時に、うめき声が聞こえたので、私は慌てて白雪姫様に近づき、口元に耳を近づけると、呼吸をされているではありませんか。

 しばらくすると、白雪姫様のお目が開き『ここはどこかしら?』と尋ねられたので、ご自身のお名前と、意識を失うまでの間の話を確認させていただきました。

 その結果、記憶が全部失われている、あるいは一部欠損している、という事実が認められなかったことと、ご本人に混乱のご様子がなかったため、白雪姫様を伴いまして、王子様に、意識が回復された旨、ご報告させていただきました。

 以上が、白雪姫様が意識を取り戻した瞬間に、私が見聞きしたすべてでございます」


 メイドは、一礼をして証言を締めくくった。


 棺を担いだ者が激高をして背中を叩いた。

 白雪姫の口からリンゴの破片が飛び出し、意識を回復した。


 その二点については、王子の証言と合致する。

 しかし、白雪姫が食べたはずの一口のりんごの部位と、口から飛び出したのがりんごの芯という矛盾点は解決されないままだ。

 酒挽はメイドを見る。

 顔は無表情に近い。ただ、口角が上がっているため、微笑んでいるように見えるが、目は笑っていない。

 もしかすると、ただのメイドではなく、白雪姫と王子の護衛を兼ねた人物なのかもしれない。

 そう考えると、何となく、隙が無いように見えてくる。


「死体だと思っていた白雪姫が息を吹き返したのに、随分と冷静な対応ができたんですね」


 酒挽は質問のつもりもない感想を呟く。

 それに対してメイドは、酒挽を一瞥すると、返答する。


「王子様は、白雪姫様が生きていて、必ず意識を取り戻す、と信じてらっしゃいました。であれば、白雪姫様に付き従う私も、同じ前提で対処します。それに……」


 そこでメイドは一旦言葉を切り、瞼を閉じて手を胸の前で組む。まるで神に祈るシスターのような体勢で証言を続けた。


「白雪姫様のお肌は、本当に瑞々しく、死んでいると言われても、にわかには信じられませんでした。おそらく、王子様に言われなくとも、私は、白雪姫様は、いずれ目が覚めると考えていたと思います」

次話は、水曜日に投稿予定です。

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