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第90話 追試の結果

すみません。日を跨いで土曜日の投稿になってしまいました。

「お前ら、何やらかしてんの……?」


 連休明け。キイナは1日中別の教室に隔離されて、追試を受けさせられていた。

 そして放課後、採点を終えた答案用紙とともに現れたキイナに、酒挽(さかびき)は呆れた表情を見せながら、そう言い放った。


()は心外だ。やらかしたのはキイナ一人であって、ボクは無関係だ」


「『やらかした』はいくら何でも酷いのです! 私は頑張ったのですよ!?」


 キイナの手には、トランプのように広げられた答案用紙が握られていた。


「休み前は、赤点だけは免れたいとか何とか言ってなかったか?」


「平均点前後は確実に取らせてやると宣言したが?」


「平均点どころの騒ぎじゃねぇだろうが!」


 キイナが見せてきた答案すべてに、百という数字が書き添えられていた。


「言っておくが、ボクは平均点を取れるようにしか教えていない。それ以上の点数の上乗せは、すべてキイナの努力の賜物だ」


 そう言って、理香はキイナの頭を撫でている。


「理香の言うとおりなのです! トーリは、私の努力を褒め称えるべきなのです!」


 赤点の回避は最低条件。平均点が及第点。ならば、満点を取ったことは、素直に喜ばしいことなのだが、それをすることは、何か間違っているような気がしてならない。


「そもそも、目立つべきじゃないって話だっただろうよ」


 期末テストの後の転入、良すぎるスタイル、可愛すぎる容姿と、耳目を集める要素をふんだんに持ち合わせているキイナをこれ以上目立たせた場合、異世界人という、最も秘密にすべき事項がバレてしまうリスクが高まるから、追試だけは避けたい、というのが、そもそもの趣旨だったはずだ。

 なのに、追試で全科目満点なんて取ったら、別の意味で目立ってしまうではないか――酒挽はそれを懸念していた。


「夏休みという、浮ついた気分にさせられる長期休暇にかこつけて『勉強を教えてあげる』という口実でキイナを誘う人間は、皆無になるだろう?」


「逆に『勉強を教えて欲しい』って輩が湧いてくるだろうが!」


「そうしたら理香を紹介するのです。『私に勉強を教えたのは理香なのです』と言えば、私にわざわざ教えを乞う理由がなくなるのです」


 キイナがそう言い放ったのを理香が黙認しているのを見て、酒挽は、この件は理香も予想していたことなのだろうと考えた。わざわざ、理香がキイナをかばうために矢面に進んで立つとは思えなかったからだ。


「まぁ、もう少しで夏休みだ。数日間を耐え抜けば、余計な雑事に労力を割かれることもなくなる」


「余計な雑事?」


「キイナの身辺警護だよ」


「……随分物騒な話だな」


「その物騒な話を、当利が担っていたわけだが」


「俺なの!?」


 そんな自覚は全くなかった酒挽が、思わず声を上げる。


「どこの馬の骨ともわからない男子生徒に、キイナをいいようにさせるわけにはいかないだろう? その点、当利は安牌だからな。キイナには、できるだけ当利に纏わりつくよう指示していたわけだ」


「安牌ってなんだ!?」


「麻雀で、他家にロンされないことが確実な牌のことだ」


「安牌の意味を聞いてるんじゃねぇ!」


「転じて、絶対に手を出してこない、安心できる男子が、トーリなのです」


 キイナの言葉に、反論したい気持ちをグッと堪える。別に自ら節操なく異性に手を出すと主張する理由がないこともあるが、仮に反論しようものなら、理香からコテンパンに論破されるのは目に見えている。


「当利はキイナの正体を知っているからな。キイナがうっかり下手なことを口走ったとしても、突っ込むことはない。だが、他の人間は違う可能性がある。正体を知れば、それを利用して何をされるか、わかったものではない」


 そう言われてハッとする。

 キイナは異世界人なのだ。そのことを隠して、学校に通っている。

 正体バレのリスクを避ける意味で言えば、酒挽は最適な人物と言えるだろう。


「それに、初対面で下着なしのTシャツ姿のキイナに抱き着かれても、当利は理性を崩壊させずにいたからな。これを安牌と言わずに何と言う?」


 言われて、その時のことを思い出してしまう酒挽。生々しい感触が記憶から呼び戻される。

 そして、ふとした疑念が頭を過る。

 理香の家には、様々な衣装が揃っている。それはキイナのサイズにピッタリなボンテージの衣装がすんなり用意できたときに、理香自身が告白していることだ。

 なら、あの時、下着をキイナに着けさせなかったのは、敢えてだったのではないか。さらしで胸を押さえることぐらいは可能だったはず。ましてや、ボンテージでの実験の時に着た競泳用の水着があったはずではないか。

 もしかして、何かを試されたのだろうか。


「何か反論でも?」


 理香が尋ねてくる。


「……ない」


 理香の表情からは何も読み取れない。おそらくは、酒挽の考え過ぎなのだろう。


「さて……帰ったら裁判の続きだな」


 理香がそう呟く。

 キイナのテストのために、しばらく休廷だった童話裁判が、また再開される。

次回は日曜日の夜更新予定です。

ようやく裁判が再開されます。

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