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第78話 第四の殺人未遂――王子の証言(その4)

2019/07/08 20:25頃 誤字等を訂正。

「無ひも」→「胸ひも」

「川の部分」→「皮の部分」

他、ひらがなから漢字への訂正。

「……白雪姫に、不敬を働いた?」


 酒挽(さかびき)は、王子の回答にオウム返しをした。


「当然だろう。白雪姫は隣国の王女。()()()()()()()()()()()()()、その者の背中を殴りつけたのだ」


「しかし、白雪姫はその時点で死んでいた扱いになるわけで……」


「現に息を吹き返した。であれば、それより前の状態は、単に意識を失っていたとしか言いようがあるまい」


 確かに、死んだ人間は生き返らない。それは事実だ。

 しかし、釈然としない。もしかしたら、理香から、散々王子が「無能だ」と言われ続けたことが、意識の中に刷り込まれ、このような反論をしてくるような人物ではない、と思い込んでいただけかもしれない。


 王子は続ける。


「他国、それも国境を接する隣国の王族に手を上げたのだ。宣戦布告と捉えられても仕方のない状況だ。しかも、白雪姫もこちらにいる。何の知らせも行っていない状況であれば、我が国が白雪姫を拐かした上に、その身に暴力を振るったと解釈されても、おかしくない」


 事実関係としては間違っていないかもしれない。だが、物語としては随分と誤っている。


「よって、白雪姫が自国に招待状を出したのを聞いて、その者たちの処刑を、隣国の王族の前で行い、国として敵対関係になるつもりはない、という主張をすることにしたのだ」


 国を治めるのは王族。その支配者の意向とは異なる行動をした者を捕らえ、処刑することで赦しを乞う。それで国家間の戦争を止められるなら、4人の処刑を迷う必要はないのだろう。4つの首を差し出せば、何万という民が戦火に巻き込まれないで済むのだから。

 もっとも、酒挽の頭の中では「先に釈明をしろよ」という、至極当然な突っ込みが行われていた。

 そして、酒挽は頭を抱えざるを得なかった。


 ――またしても、重要な証言をする人物が、死んでいる。


 白雪姫が目を覚ました瞬間に立ち会った、それも、きっかけとなった行為の実行者が殺されている。

 体内からりんごの破片が飛び出した瞬間、それにより、白雪姫が意識を回復したことについて、証言する者がいなくなってしまう。


 ――待てよ?


 酒挽は、王子の証言を思い出す。

 王子は、白雪姫に不敬を働いた()()、と言った。つまりそれは、棺を持つ4名のことを指し示す。

 だが、その場に居合わせた人物はもう一人。

 白雪姫の世話を実質的に行っていたと思われるメイド、だ。彼女に白雪姫が意識を回復した時のことを聞く必要があるだろう。

 前の、胸ひも、櫛の2件と同じように、王妃が渡した物品、今回の場合は、りんごが、白雪姫の体から離れた瞬間に意識を回復したのか。救命措置は行われたのか。そこを確認する必要がある。


「ところで、あなたは白雪姫の口から飛び出した、りんごの破片はご覧になったのですか?」


「見た」


「どれぐらいの大きさでしょうか?」


 何か月もの間、白雪姫の体内に留まり続けていた相当頑固なりんごだ。大きさもそれなりになるのではないか。少なくとも、喉に詰まってしまうほどの大きさ。


「私が聞いたのは、りんごの芯、ということだ」


「……りんごの、芯?」


 あり得ない証言だった。

 白雪姫は「一口だけ」食べたと言った。それも、半分に割られたりんごの皮と断面の辺りだ。

 そして、食べた直後に意識を失う。

 たった一口、それも皮の部分を齧っただけの白雪姫の口から、りんごの芯が飛び出すわけがない。


 王子は、白雪姫が意識を回復した瞬間を見ていない。

 目撃者のうち、4名――実行者でもあるのだが――は、処刑も同然で殺されている。王妃と同様の手口で。

 残るは、メイド一人だけ。


「棺に入れられていた白雪姫の付き人であるメイドは、まだご存命ですか?」


「ああ。相も変わらず、白雪姫の身の回りを任せている」


 その王子の返答に、酒挽はホッと胸を撫で下ろす。これでメイドまでいなくなった、なんてことになろうものなら、また立証で色々と頭を使わなければならなくなるところだった。


 酒挽は宣言する。


「弁護側は以上です」

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