第77話 第四の殺人未遂――王子の証言(その3)
2019/07/06 23:55頃 誤字訂正「書ければ」→「欠ければ」
王子への質問は続く。
「証言で、お城に白雪姫を連れ帰ったあなたは『どこに行くにも白雪姫の棺を持ち歩いた』とありましたが、やはり4人の従者に運ばせていたわけですか?」
酒挽は、言葉を慎重に選んで尋ねた。
白雪姫は、この時点では死んでいるという認識だが、王子は物扱いをしていないと主張しているから「連れ帰った」。そして王子自身、一度も「家来」と呼んでいない棺の運搬係は「従者」と表現した。
「そうだ」
王子からは特に異議も異論も差し挟まれなかったことに、酒挽は内心ホッとして話を進める。
「寝る時は?」
「私のベッドの隣に棺を置かせた」
「食事の時は?」
「当然、横に棺を置いた」
「……入浴の時は?」
「当然、一緒だ」
「まさか、棺から出して、体を拭いたとか……」
「それはしなかったが、棺自体を拭かせた」
つまり、白雪姫は棺から出されることなく、ずっと王子に付き従っていたということになりそうだ。
死体を抱きしめたり、人形のように扱うことはなかったようだ。
王子は、白雪姫を見るだけで満足していた、ということになる。
「ところで、従者が白雪姫の背中を叩いたそうですが、あなたはその場に居合わせなかったのですか?」
どこに行くにも白雪姫入りの棺を運ばせた王子。しかしその証言は「叩いたという」と、まるで伝聞のような内容だ。印象としては、四六時中白雪姫の棺と一緒にいるように思えたのだが。
「ほんの少しの間、私は白雪姫の傍を離れた。その間のことだったのだ」
まぁ、家来が王子の見ている前で、お気に入りの白雪姫に何かをすることはあり得ないはずだ。そんなことをしようものなら、首が飛ぶ。物理的に。
「で、白雪姫の口からりんごの破片が飛び出して、意識が回復した、と」
「そうだ」
これまでの第二の殺人未遂の凶器である胸ひも、第三の殺人未遂の凶器である櫛が、白雪姫の体から離れた途端に意識が回復している。どうやらりんごも同じ効果が出たようだ。
「回復した瞬間も、あなたは立ち会っていなかったのですか?」
「瞬間は間に合わなかったが、直後に白雪姫と話した。うれしさのあまり、何を話したか覚えていない。心を落ち着けることも含めて、彼女を食事に誘い、そしてプロポーズをした、という流れだ」
「白雪姫は、空腹だったのでしょうか?」
少なくとも3か月は食事を取っていない白雪姫。最後に食べたのは、りんご一口なのだから、腹が減っていておかしくはない。
「そのような話は出なかった」
「では、時間帯として、食事の頃合いだったということですか?」
「少し早かったが、その認識で間違いない」
「白雪姫は、状況がわからず、混乱していたのではありませんか?」
目を開けたら、小人の家ではなく、見知らぬ城にいたわけだ。それも、棺に入れられ、その棺を4人の従者が運んでいるという、字面にすると非常にシュールな状況である。
「棺には、一人メイドを付けていた。白雪姫は、いつ目覚めてもおかしくなかったからな。気が付いたときに同性がいた方が安心するだろうと思ってな。実際、メイドが白雪姫に状況を説明してくれたおかげで、さほどの混乱はなかったようだ」
いてもおかしくはないように思えた。
白雪姫は棺に入れられていたとはいえ、王子があちこちに移動させている。場合によっては揺れて、衣服が乱れたり、髪を梳いたりする必要がある場合だってあるだろう。
小人が棺に、白雪姫の出自を書いていたから、隣国の王女として扱っていた可能性はある。
とはいえ、意識を取り戻した白雪姫を即座に食事へと誘い、そのままプロポーズをする、とは。
まぁ、死体に恋をした、と言い切ってしまうのだから、生き返ったことが相当うれしかったのだろう。
流れを見る限り、ナンパに近いような気がしてならないが。
「しかし、王族、それも隣国の王女との結婚だというのに、次の日に挙式とは、ずいぶんと性急なのではありませんか?」
こういうのは、時間をかけ、国を挙げて盛大に祝うのがセオリーだ。
なのに、二人は翌日に結婚式を挙げた。
招待客なんてロクに集まらないだろう。
――なのに、王妃は来た。
来てしまったばかりに、命を落とすことになる。
おそらくは、魔法の鏡に問いかけたことで、白雪姫が生き返ったことを知ったからだろうということは、想像に難くない。
酒挽の知る童話「白雪姫」では、ナルシストな王妃は、毎晩魔法の鏡に問いかけていた。「鏡よ鏡、世界で最も美しいのは誰?」と。
しばらくは、自分だという回答しかなかったから、安心しきっていたところに、突然白雪姫が生きていた、なんて情報が飛び込んできたら、真っ先に確認に行くだろう。もしかしたら、殺すつもりで出向いたのかもしれない。だとすると、完全に返り討ちにあったことになる。
そして、ふと思う。
王妃は、魔法の鏡を持っているからこそ、白雪姫が生きている事実を知ることができた。
今までの彼女の行動から考えれば、当然、自分より美しい白雪姫を殺しに来ることは間違いない話だろう。それも即座に行動に移すことがは間違いない。
しかし、今度の場所は、小人の家、などというセキュリティが脆弱な普通の家ではない。
武装した兵士が防衛している城だ。
当然、王妃は簡単に手を出せないはずだ。
だが、ここで結婚式の招待状が届く。
城に入る正当な理由がある。
――何かが、おかしい。
偶然というには、話ができ過ぎている。
一つでも何かが欠ければ成立しない展開なのに、すんなりと話が進み過ぎる。
童話という物語のご都合主義が影響していることは間違いないが、どうにもこの結婚式自体が、王妃をおびき出すために仕組まれていたような気がしてならない。
「結婚式を翌日に開催することにしたのは、白雪姫の希望だったのですか?」
「それは私の我がままだ。一刻も早く、白雪姫とのことを、国民に知らしめたかったのだ」
王子が翌日の挙式を主張。
白雪姫の生存を知った王妃には、渡りに船の千載一遇のチャンスだ。
「ところで、真っ赤に熱せられた鉄の靴は、誰が用意したものなんですか?」
「私が用意した」
「王子が?」
どういうことだ? 王子が王妃が来ることを知っていたのは間違いない。
検察側が最初に事件の概要を説明した時、「白雪姫自らが王妃に招待状を出した」と言っている。
当然、主催者である王子が知らないはずはない。
それを踏まえて、例の靴を用意したとなると、王子が王妃を殺すつもりだったことになってしまうのではないか。
しかし、王子は別のことを証言した。
「あの靴は、白雪姫に不敬を働いた、棺の運び手4名を断ずるために用意させたものだ」




