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第79話 第四の殺人未遂――王子への反対尋問

遅くなって申し訳ありませんでした。

「……よかったのです?」


 酒挽(さかびき)が席に戻ると、キイナが尋ねてくる。


「何が?」


「トーリは、純粋な証人としての証言を聞いただけなのです。弁護人としての王子への尋問は、必要なかったのですか?」


「嫌な予感しかしなかったものだから」


 余計なことを尋ねて、藪蛇になっても仕方がない。それ系の質問は、反証のタイミングまで待つのが得策だと、酒挽は判断したのだ。


 酒挽が席に座ったのを見計らって、裁判長が木槌を叩く。


「それでは、検察側の反対尋問を」


 宣言を待って、テールが立ち上がる。


「お久しぶりです、王子」


 テールの挨拶に、王子は軽く手を上げるだけで応じた。少し不愉快な表情を見せたところから、幼女検事には、あまり良い印象を抱いていないようだった。


「先程あなたは、被告人に不敬を働いた4名を処断したと証言しましたが、その4名は、小人の家から城まで白雪姫の棺を運んだ者と重複しますか?」


「していない」


「では、小人の家から運んだ12名は、証人として召喚可能であると考えてよろしいでしょうか?」


「可能であろう」


 奇妙な質問の仕方をしたテールだったが、第一審の弁護人である王子相手の質問と考えれば、さほど不自然な問いとも言えない。だが、テール自身の証言と矛盾していた。


「……後で裁判記録を確認してみるのです」


 横でキイナが小声で提案してきたことに、酒挽は頷く。

 テールの問いは、白雪姫の棺を運搬した12人には、検察側、弁護側とも第一審では証言を求めていないことを示している。

 だがテールは、狩人に対して、裁判前の事情聴取の際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っいていた。

 童話世界の裁判では、物語の幕が下りた時点で存命の登場人物には証言を得ることが可能というルールになっている。

 そして、裁判は検察側が物語の終了後に捜査を行い、起訴をする。

 つまり、件の12人は、事前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。

 もし行っているのなら、この場で「召喚は可能か」と確認する理由がない。


「次に、白雪姫の口から出たという、りんごの破片の話ですが、あなた先程、弁護側の『被告人の口から飛び出した、りんごの破片はご覧になったのですか?』の問いに『見た』と答えたにもかかわらず、大きさを問われた際には、『私が聞いたのは、りんごの芯、ということだ』と答えています。

 目撃していると証言しているにもかかわらず、なぜ『()()()()()()()』と条件を付けたのですか?」


「私は白雪姫の口からりんごが飛び出した瞬間を目撃したわけではない。であれば、りんごの芯を見せられて『これが白雪姫の口から出てきた』と説明を受ければ、自ずとそのような回答をすることになるだろう」


「……そうですか」


 テールはそう答えたものの、納得はしていない様子だった。

 それは酒挽も同じだったが、理由が同じところにあるかどうかは疑問だった。

 酒挽が思っているのは、一口りんごを齧っただけの白雪姫の口から、なぜりんごの芯が出てきたか、ということだ。

 証言が矛盾している――つまりは、どこかに嘘があるか、酒挽が気づいていない他の事実関係が存在するのかの2択しかない。


「確認します。あなたは、被告人の口からりんごの破片が出てきた瞬間は目撃していないが、出てきたという現物は目視で確認した、という理解でよろしいですか?」


「それで合っている」


 つまり王子は、どこからか現れたりんごの芯を目撃したことになる。

 小人の家では、白雪姫が落としたはずの食べかけのりんごが消え失せ、白雪姫の体内にあるはずのないりんごの芯が口から出てきたわけだ。


「もう一つお尋ねします」


「何か?」


「あなたは、被告人が意識を取り戻した後、彼女の境遇について聞きましたか?」


「聞いた」


 王子は即答した。


「であれば、被告人の背中を叩いた咎により責められた4名を処断する必要はなかったのではありませんか?」


 白雪姫は、二度と城に戻らない、という条件で、狩人に見逃してもらった。

 運よく小人の家に転がり込むことで、食事と寝るところは確保できた。

 その後、すったもんだがあって、王子により城へと連行される。

 経緯を聞けば、白雪姫とその家は関係が断絶状態にあると理解するだろう。

 それなら、白雪姫への暴力を、わざわざ隣国に馬鹿正直に伝える理由はない。

 むしろ、背中を叩いたら、死んだ原因であるりんごが取り除かれて意識が戻ったのだ。白雪姫の父親である王様からすれば、恩人である者に恩賞を与えこそすれ、罪人として首を差し出される理由はないはずだ。

 ――もっとも、同じ身内である王妃は、積極的に白雪姫を殺しにかかっているわけなのだが。


「国とは、支配地域を拡大するため、常に争いを求めるものだ。物理戦力による戦争、経済戦争など、さまざまな争いの方法がある。それらが勃発する引き金は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()簡単に引かれてしまう。

 一度起きてしまえば、苦労するのは民だ。

 ならば統治者として、リスクを冒す可能性は、どんな些細なものでも徹底的に排除すべきだと思うが?」


 だから、4名を処刑した、と王子は言っている。


「そうですか」


 王子の意見を肯定も否定もすることなく、テールは返事をする。


「最後に一つお尋ねします……あなたは、被告人にプロポーズをしました。これまでの被告人の証言からすれば、被告人の生存が発覚すれば、被害者は再び被告人の生命を脅かす行動に出る可能性が考えられたと思いますが、その点について、あなたは被告人に、何らかの言及を行いましたか?」


 随分と慎重な言い回しでの問いに、酒挽は疑問を覚える。

 だが、王子が即答したことで、その疑問を考える時間は奪われた。


「もちろんだ。私は白雪姫に『何も心配することはない。君のことは私が必ず守って見せる』と言った」


 月並みなセリフである。

 だが、その言葉は、堂々とした態度で証言する王子の凛々しさに、似つかわしいと、酒挽は思った。



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