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第71話 王子への疑念

遅くなって申し訳ありません。日を跨いでしまいました。

「随分とあっさりとしたものだな、検察は」


 小人からの証言を確認した後、休廷となったため、酒挽(さかびき)とキイナは、理香の部屋へと戻ってきていた。

 理香はイス、酒挽とキイナはベッドという場所は、もはや固定化されている。

 状況を説明して見せたところで、理香がこぼした感想が、これである。

 確かに、直前の白雪姫殺人未遂よりも、検察は食い下がっては来なかった。


「物証もないですし、倒れるまでは白雪姫、倒れてからは小人からの証言だけしかないのです」


 しかも、事実か否かを確認する術が全くない。


「現場でりんごも確認できなかったしな」


 白雪姫が毒りんごを食べて意識を失う有名なシーン。

 理香が書いた「森の姫君」というタイトルの台本では、通りがかった王子のキスで、白雪姫は目を覚ますことになる。

 だが、童話裁判で証言されたのは、あまりにも美しすぎる死体に心奪われた王子が、小人に頼み込んで死体を城にお持ち帰りをするという暴挙だ。

 イケメンだから許される行為なのか、王子という権力者だからこそ可能なことなのか。


「どっちにしろ、王子はおかしい、という結論しか出てこないな」


 理香がため息交じりに呟く。

 この後、王子を証言台に立たせて証言を聞き出す立場の酒挽にとっては、気が重くなる要素しか思いつかない。

 下手に証言を聞き出せば、王子の変態ぶりが際立ってしまう、


「白雪姫を極刑に追い込んだ無能な弁護人だ。下手な証言でとても他人には言えない性癖が暴露されようものなら、裁判長の心象が悪化するかもしれないな」


 第一審で白雪姫の弁護人を務めた王子。現在は白雪姫の夫でもある。

 感情的な弁護や証言に終始する可能性があるなら、証言台に立たせないのも一つの手段ではあるのだが。


「……よくよく考えてみると、需要な立ち回りをしているんだよな」


 酒挽が腕組みをしつつ、天井に視線を彷徨わせる。

 王子は、白雪姫の死体を小人の家から回収し、意識を回復させている。少なくとも3か月は死体だった白雪姫を、だ。

 そして白雪姫と結婚する。

 その結婚式の会場で、王妃は殺された。


「王子が出てきたことで、加害者(王妃)被害者(白雪姫)の立場が入れ替わったとも言えるな」


 それまでは白雪姫は王妃に執拗に命を狙われる被害者でしかなかった。

 だが、王子に死体として奪われ、意識を回復させられてから起きた、たった一度の拷問が、加害者(王妃)被害者(白雪姫)の立場を入れ替え、結果として白雪姫は裁判にかけられることとなった。


「それに、狩人の件も聞いておかないといけないのです」


 未だに一度も証言台に立っていない、第一の殺人未遂事件の加害者であり、白雪姫を王妃の魔の手から逃した功労者。

 検察側は、狩人の所在を把握できず、裁判前の捜査中に証言を得られていなかったために証人として召喚しなかった。

 ところが第一審の弁護人である王子は、呼べば必ず召喚できる裁判所の制度を利用することすらせず、狩人の証言を求めていない。

 裁判所の証人召喚は、物語の終了時点で生存している者に限られる。

 召喚しなかったのは、狩人が存在しない――つまりは死んでいる可能性が高いと判断したせいではないのか。だとすると、その結論に至った根拠を問い質しておく必要が出てくる。


「検察側は、狩人の存在自体を疑っていると思うのです」


「いやいや、キイナ。料理人と白雪姫は、狩人と話をしているって証言した。それに、料理人が肺と肝を受け取って料理しているじゃないか」


「肺と肝は、料理人が()()()()()()受け取ったのです。狩人は料理人から、その肺と肝がイノシシのものだと教えてもらっているだけなのです」


「それだけで十分だと思うんだが」


 キイナは首を横に振る。


「正確には、白雪姫が森で狩人に殺されかけた、という部分が検察側の疑っているポイントなのです。小人は、白雪姫が倒れるたびに大騒ぎをしていたのです。りんごのせいで死んだときは、3日間泣き続けたのですよ? なのに、白雪姫が行方不明になったにもかかわらず、城は大した騒ぎになっていないのです。

 狩人は肺と肝を持ち帰ったですが、一緒に森に入った白雪姫とははぐれているのです。王妃は白雪姫を殺すよう命じているので、騒ぐことはないと思うのですが、他の人は、騒ぎ立てるはずなのです。

 当然、森に捜索隊が入ることになると思うのですが、小人の家にたどり着いた者はゼロ。

 子供の白雪姫が1日でたどりつける距離にある小人の家に、大の大人がたどり着けないのは不自然なのです」


 事実、王妃が毎日小人の家に、白雪姫を殺しに通っていたことになるわけだが。


「だからこその、王子なのだろう?」


 理香がしれっと言い放つ。


「なにが『だからこそ』なのです?」


「小人の家は、姫の国の領内ではない。王子の国の領地にある。いくら行方不明者の捜索だからとはいえ、勝手に大人数で国境を超えれば戦争だ。

 ここから先はボクの推測だが、姫の国は、王子の国に捜索の打診をしたのだろう。

 そして、その話を聞いて、王子は捜索に参加した。姫は、魔法の鏡が認めるぐらいの美しさだ。当然隣国であれば、その噂ぐらいは耳に入っているだろう。

 だから王子は、森に入り、小人の家にたどりついて、姫を見つける。それは死体であっても美しかった。

 さて、そこで問題になるのは、2国間でどのような話が行われたかだ。

 姫を見つけた王子は、小人からその死体を譲ってもらった。

 王子は果たして、姫を発見した事実を、姫の国に伝えたのだろうか?」


 酒挽の顔が暗く沈む。

 金に糸目は付けないと、最初は小人から死体を購入しようとした王子だが、その金は一体どこから出るのか。


「白雪姫の死体を引き渡す条件で、金を要求した?」


 酒挽の問いに、理香は頷く。


「だから、ボクは懸念したのだ。王子は『姫』『死体』『姫の死体』のどれを欲しがったのか、と。

 王子は何かを隠すために、姫に有罪になってもらう必要があった可能性があるのだよ」

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