第70話 第四の殺人未遂――小人への反対尋問
「では検察側の反対尋問を」
裁判長の宣言に、テールは席を立つ。
そして、小人に近づきながら質問を投げかける。
「証人は、被告人が『何をしても生き返らなかった』と言いましたが、どのような手段で被告人の死亡を確認したのですか?」
通常、人の死は医師が確認する。ドラマでは、ペンライトを目に当てて、瞳孔の大きさが変化しないことを確認するシーンを見かけるが、あれは脳機能が停止していることを確認するためだ。
加えて、心肺停止、呼吸停止の3つが揃って、初めて「ご臨終です」と言える。
「心臓が動いていなかったし、呼吸もしていなかった。色々したけど、白雪姫は目を開けなかった。だから死んだと判断した」
さすがに瞳孔の動向を確認することはしなかったか。
「色々したことを具体的に話してください」
「体を強く揺すってみたり、大声で呼びかけてみたりした」
「その時の被告人の様子はどうでしたか?」
「ぐにゃぐにゃしてた」
正体不明の状態なのだから、体には力が入っていなかっただろう。揺らせば揺らされるがままだったに違いない。
「その時、首は動きましたか?」
「揺すったらがくがくしてた」
「……ということは、死後硬直は起きていないことになるのです」
酒挽の隣で、ぽつりとキイナが呟く。
死後硬直は死後、2~3時間で顎や首周りに見られ始めるという。
白雪姫が倒れてから、小人に発見されるまでは、それほど時間が経っていない、ということになる。もっとも、結果的には生き返っているので、死んでいたかどうかは、甚だ疑問ではあるが。
「棺はどのようにして調達したのですか?」
「買った」
「それはいつの話ですか?」
「すぐ」
「誰が買いに行きましたか?」
「僕」
「一人でですか?」
「そう」
「それは、なぜですか?」
「だって、他の奴は泣いてばかりで、白雪姫のそばを離れようとしなかったから。僕たちのベッドは、白雪姫が真っすぐ寝かせられるほど大きくないし、体を曲げたら、かわいそうだし。代わりに僕が白雪姫を棺に入れる役を貰った」
「棺を調達するのにどれぐらいの時間がかかりましたか?」
「人間の大きさのものだから、すぐに入手できた」
「購入した棺には、蓋はついていなかったのですか?」
「ついていた。でも、それだと白雪姫が完全に隠れてしまうから、改めてガラスの棺を注文した」
「つまり、棺は最初に入れたものと、後から作ったガラスのものと2つあった、ということになりますね?」
「そう」
小人は、白雪姫を棺に入れてから3日間、周りで泣き続けた。
そして埋葬しようとしたが、死体っぽくないばかりに、ガラスの棺を特注して、そこに移し替えたということになる。
「ガラスの棺に移し替えたのは、被告人の死を確認してからどれぐらい後の話ですか?」
「多分、14日ぐらい」
「随分具体的ですが?」
「もうその時には白雪姫番を決めていた。そいつが一人残り、他は仕事に行った。僕から始めて2回。3回目をやる日に棺が届いたから、14日」
なるほど。だから正確に近い日数が出たわけだ。
「先程証人は『白雪姫番を10回ぐらいやった後に、王子がやって来た』と証言しましたが、その回数に今の証言の回数は含まれていますか?」
「いない」
ということは、白雪姫が倒れてから3日と、ガラスの棺が届くまでの14日。ガラスの棺に入れてから約70日で、約3か月は白雪姫は死体状態だった、と。
「ガラスの棺に入れられていた被告人に変化はありましたか?」
「全くなかった」
「ガラスの棺は、蓋を開けられる仕様になっていたのですか?」
「なっていた。白雪姫は、いつ目を覚ましてもおかしくないぐらいで、とても死体だとは思えなかった。だから、白雪姫が起きたら自分で開けられるように、ガラスと台座を固定はしなかった」
「つまり、被告人が棺から自力で抜け出し、元に戻ることは可能だったわけですね?」
「異議あり」
酒挽が手を挙げる。
「何ですか、弁護人?」
「小人さんは『ガラスの棺に入っていた白雪姫に全く変化はなかった』と証言している。白雪姫が棺を出入りしたとは認められない」
テールは「やれやれ」と首を横に振ってから告げる。
「私はあくまでも、可能だったか否かを確認しただけですよ。被告人が証人たちの目を盗んで出入りしていた、などと指摘しているわけではありません」
「弁護人の異議を却下します」
裁判長が木槌を叩いて宣言する。
確かにテールの言うことは間違ってはいない。しかし、可能不可能に言及することで『白雪姫が棺を自由に出入りしていたかもしれない』という主張の土台を作っているのは明白。現に異議に対し、その本音をきっちりと説明してきている。
一応酒挽はそれに対して、長期間全く変化がないという、動くことが可能であれば絶対に実現不可能な状況について言及することで、楔を打ち込んだ。
テールは、踵を返し、証人席から離れながら裁判長に告げる。
「検察側は以上です」




