第69話 第四の殺人未遂――小人の証言(その2)
すみません、遅くなりました。第69話です。
酒挽は、証言台の小人に近づく。
「小人さんたちが帰ったとき、白雪姫は窓際で倒れていたそうですが、窓際の床に倒れていた、ということでよろしいですか?」
「そう」
「どのように倒れていましたか?」
「どう?」
「うつ伏せとか、壁に寄りかかってとか……」
「仰向け」
前の2回がうつ伏せだったこととは対照的だ。
そういう意味で言えば、今回、王妃は小人の家に入ることができなかった。直接手を下していない、という点にも違いがある。
「白雪姫は『りんごを一口食べて意識を失った』と証言しています。倒れていた白雪姫のそばに、りんごは落ちていましたか?」
「落ちていなかった」
「……落ちて、いない?」
それはおかしい。それでは白雪姫の証言と矛盾する。
百姓に化けた王妃は、りんごの半分を白雪姫に渡した。白雪姫はそれを一口食べたところで意識を失った。
なら、食べきれなかったりんごは、白雪姫の手元から離れ、床に落ちているはずだ。
「白雪姫の体の下にあったとか……」
「なかった」
小人は断言する。
それでか、と酒挽は納得する。
先程小人に「りんごを食べて倒れていたところ」と尋ねた時の、小人の反応だ。
小人からすれば、家に帰ったら白雪姫が倒れていただけなのだ。胸ひも、櫛など、前科のある部位を確認したが異物は発見できず。もし、床にりんごが落ちていたのが発見されていれば、りんごを食べて倒れたと推測できる。
だが、小人はそこに言及しなかった。なら、本当に見つけられなかったのだろう。
「変なことを聞くようですが……白雪姫は本当に死んでいたんですか?」
最終的に彼女は生き返ることになる。この時点で本当に死んでいたかどうかは確認すべきだろう。
「死んでいた」
当然のように即答。もっとも、何か月もの間棺に横たわっていたのだ。その状態で生きていることの方が難しいだろう。
「ガラスの棺とはどんなものですか?」
「土台というか、底というか、白雪姫が寝ている部分は木製で、横と上をガラスで作ってもらった。白雪姫の姿が見えるようにしてもらった」
「つまり、自分たちで作ったわけではない、と」
「僕たちにはそんな技術はない」
「それにしても、なぜガラスの棺を作ったんですか?」
「いつでも白雪姫の姿を見ることができるように」
普通の棺桶のように、顔の部分を必要な時だけ開閉する、というものでは満足できなかったのだろう。それもそうか。3日間仕事に行かず、白雪姫の棺の周りで7人が7人とも泣いていたわけだからな。その上、その後は毎日一人が残り、白雪姫の日がな一日眺め続けていたのだから、ショーケースのようなものだったのだろう。
「王子があなたたちの家に来たのは、いつぐらいのことですか?」
「白雪姫番を皆が10回ぐらいやったころだと思う」
7人の当番が10周で70日。白雪姫が倒れてから2か月は経過したことになる。死んでいたら絶対に蘇生不可能だ。少なくとも脳は死んでいる。
「それで、王子はなぜあなたたちの家に来たんですか? 先程の証言では、泊まりに来たという話でしたが」
「あの森は、王子の国の領地。何でもその時は、足を延ばしすぎて帰れなくなってしまったらしい。夜の森を移動するのは危険だから、泊まりに来たのだと思う」
「その時は王子は独りですか?」
「そうだった」
……それはもしや、お供とはぐれて、森の中で迷子になっていただけなのでは? と、小人に聞いてもおそらくはわからないだろう。王子に尋問する機会はあるのだから、その時直接聞けば済む話ではある。
「それで王子は、白雪姫の死体を『売って欲しい』と」
「そう」
「いくら提示されたんですか?」
「金に糸目は付けないと言われた。でも売るつもりはなかった」
つまり、どれだけ金を積んでも、王子は死体を手に入れたかったと。
理香は王子が何を手に入れたかったかによって話が変わると言っていた。王子の目的は果たして「白雪姫」なのか「死体」なのか「白雪姫の死体」なのか。
そして王子は、金銭取引から方針転換し、情に訴える。
「『ください』と言われたときは、どう思いましたか?」
どれだけ金を積んでもいい、という主張から一転。タダでの引き取りを持ち掛ける王子。
もし、ここで王子が白雪姫とキスをして、その結果白雪姫の目が覚めていたらどうだっただろう。
目の前で奇跡を起こして見せた王子が、白雪姫をお持ち帰りになることに異議を申し立てる小人は、おそらくいないだろう。
だが、現実はそこまでメルヘンではなかった。
王子は「彼女を見ずには最早生きていけない」と訴える。客観的に見ても変態、ひいき目に見ても、死体愛好家の所業にしか思えない。
「白雪姫は死してなお、美しかった。王子の気持ちも分からなくはなかった」
まぁ小人も、毎日一人が白雪姫の死体を眺め続けていたわけだから、類友と言えるかもしれない。
だが、生きていた白雪姫を見ている小人と、死んでいる白雪姫しか見ていない王子の間は、どう考えても隔絶しているようにしか思えないが。
「で、結局、白雪姫を王子に譲ることにいたわけですか」
「そう」
「王子は、自分のお城まで棺を運ぶために、家来を呼び寄せたわけですか」
「そう」
「どうやって王子は家来を呼び寄せたんでしょう?」
通信機器など存在しない時代背景である。
しかも、王子は白雪姫の死体に夢中。棺のそばを離れるとは到底思えない。
「わからないけど、次の日に家来が来たから、呼び寄せたんだと思う」
……それは、行方不明になった王子を捜索していた家来が、小人の家を調べに来ただけなのでは、と思わずにいられない。やっぱり迷子じゃないか。
「何人ぐらい来ましたか?」
「10人ぐらいだったと思う」
護衛だな、間違いなく。
「それで王子は、家来に命じて、棺を城まで運んで行ったわけですか」
「そう。家来は皆、馬で来たけど、帰りは棺を運ぶために4人歩いて行った。王子も歩く家来に合わせて馬で城に帰っていった」
棺を持って歩いて帰る。当然重さがあるから、少なくとも4人一組で各角を持って移動したのだろう。
なるほど、10人ぐらいというのも納得の数字だ。8人で2交代、12人で3交代。これで人力で運ぶわけだ。
「馬車ではなかったんですね?」
「そう。馬車だと揺れる。死体とは言え、白雪姫がかわいそう。揺れるたびに棺のあちこちにぶつかる可能性があった。だから多分、王子は家来に持たせて歩いて帰ったんだと思う」
確かに可能性はある。王子が白雪姫の死体を何かの芸術作品と捉えている可能性も否定できない。もしかすると、蝋人形よろしく、本当に鑑賞するためだけに入手したかっただけなのかもしれない。
いずれにせよ、白雪姫を傷つけないよう、慎重に運んだのは間違いないだろう。
酒挽は心の中だけで嘆息する。
――これは、王子に証言させるとき、根掘り葉掘りと聞くことが多そうだ。
申し訳ありませんが、明日の更新はお休みさせていただきます。
木曜日中に更新できるよう、頑張りたいと思います。
なお、次回は、検察側による反対尋問です。




