第54話 隣の部屋に……
お待たせしました。第54話です。
遅くなりまして申しわけありません。
2019/5/30 23:40頃 誤字を訂正しました。
「ありがとうございました」
閑梨は、酒挽とキイナを見送るため、店の入口で深々と頭を下げていた。
エレベーターの扉が閉まる音を聞き届けてから、ゆっくりと上半身を起こす。
「は~……っ」
最早溜息しか出ない。
しかしその意味合いは、ストレスから来るものではなく、むしろ安堵からのものだった。
踵を返して店へと戻り、さっきまで滞在していた部屋の隣へと入る。
「失礼します」
そこにいたのは、閑梨の上司である課長の矛瀬と、同期の男性職員神里大澄、そして――
「お疲れ様です」
幼女検事のテールが、座っていた。
閑梨は彼女の向かいに座る。
「ギリギリ及第点、といったところでしょうか?」
「いいえ」
閑梨の言葉に、テールは首を横に振る。
「百点満点です」
言い切ったテールは、オレンジジュースを口にする。
「ったく、お前だけは敵に回したくないな」
神里が肩を竦めながら、そう評する。
「やだなぁ、神里は。私は職務命令に忠実なだけだよ」
そう言って笑う。
「職務命令ねぇ……」
「弁護人から必要な情報を収集して、弁護保佐人に宴席でお相手して貰いたい……きちんと課長の命令どおり、ですよね?」
にっこりと笑って矛瀬に笑いかける閑梨。
それに対して、矛瀬は曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
「それもこれも、課長にきっちりと迂闊な姿を綺麗に晒して頂いたからです。やっぱり、アルコールを入れると、口の軽さに真実味が増しますね」
お世辞なのか本心なのか分からない口調で、閑梨が矛瀬を讃える。
だが、確実に矛瀬の平常心は削ぎ落されているだろう。
なぜなら、閑梨は酒挽とキイナの会合前に、矛瀬にこう言っていたのだ。
――私は本来課長が作るべき報告文書を代わりに作るためだけにここにいます。よもや私ごときにフォローされるようなヘマはしないとは思いますが、アルコールが入るのですから、十分気を付けてくださいね。
矛瀬に対して完璧にかけたプレッシャー。感じざるを得ないストレス。奪い取られる余裕――そして相手が高校生という事実。
余裕が侮りとなり、失策に失策を重ねていくという失態を演じた矛瀬に対し、
「素晴らしい連携でした。酔っぱらった課長の失言をフォローしている素面の部下。その部下もうっかり口を滑らせる。そこにあたかも失敗したような体で、次回審理の話を潜り込ませて話を聞く。幾重にも張り巡らされた策略、見事なものです」
テールの容赦のない感想が下される。
実際には連携など皆無。無自覚に追い詰められていた矛瀬が勝手に自爆したところに、閑梨が上手くフォローに入っているかのごとく見せていただけだ。
弁護側の二人に圧を掛けた矛瀬の存在。
休廷のタイミングで、敢えて会合を持ちかける違和感。
それらを踏まえた上で、一見すると弁護側に寄り添うように発言を続けた閑梨。
だからこそ、味方だと錯覚し、口が軽くなる。
その結果。
「お陰で、弁護側が何を考えて小人の家の検査を要求したのかがわかりました」
酒挽が自らその方針を語った。小人の家のどこからか櫛の毒と同じ成分がに検出され、そこに白雪姫曰く、手袋をしていたはずの人物の痕跡があれば、白雪姫に手を掛けた犯人は実在することになる。
そして、検察側が主張する理論を用いれば、「白雪姫に殺意を抱くのは王妃だけなのだから、白雪姫を殺そうとしたのは王妃以外にあり得ない」が成立する。
検察側は自らが構築した理屈に足元を掬われかねないのだ。
「それで、白雪姫が主張している『殺されかけた』というのは、思い込みなんですか?」
閑梨が問いかける。
「さぁ?」
テールは首を傾げる。
「「……え?」」
その反応に、閑梨と神里も首を捻る。
「少なくとも、被告人自身はそんな事を一度たりとも主張していません。主張していたのは、あくまでも7人の小人と、第一審の弁護人だった王子だけですよ」
思いの外断水が継続しそうです。




