第47話 呼び出し
お待たせしました。第47話です。
活動報告にも上げさせて頂いておりますが、昨日第46話をアップさせていただいております。
ご覧になっていない方はそちらからどうぞ。
「トーリィ……放課後ちょっと付き合って欲しいのですぅ……」
昼休みも終わり間際と言う時間帯の教室で、キイナの沈んだ声が頭上から聞こえてきた。
『森の姫君』の台本を読んでいた酒挽が頭を上げると、彼女は正面に立っていた。絶望に打ちひしがれた表情で。
「……何かあったのか?」
放課後は演劇部の活動がある。しかも、間違いなく理香が手ぐすね引いて待っているのだ。彼女が評した「りんご食って倒れるだけ」のシーンを稽古するために。そのことは、キイナも一緒に聞いていたはずなのだが、それを除外しても都合をつけなければいけない用事なのだろうか。
「……呼び出しを、受けたのです」
「誰から?」
「男の人なのです」
告白の呼び出しと言ったところだろうか? しかし、キイナは照れや困惑というより不安、怯えの感情を抱いているように思える。
キイナは異世界人だ。外見上はかつらを被ってウサ耳と髪の色を誤魔化しているが、逆に言えば、それだけしか変装をしていない。
正体がバレることを懸念してだろう。キイナが校内では、酒挽にくっついて行動する。そのため、二人の仲を勘違いする輩も多い。それがある意味、抑止効果となっていたのか、キイナからその手の話が出たことはなかった。
「俺よりも、理香に付いていって貰った方がいいんじゃないか?」
噂の当事者が現場に登場しては、最悪決闘などという熱い青春的展開が待ち構えている可能性もある。
キイナに他人を近づけさせない、という点からも、二人の関係はおいそれと否定できない。キイナがフリーと分かれば、アタックしてくる生徒は少なくないと簡単に予想ができる。
「なぜに理香なのです?」
「こういうのは、当事者の同性が出ていくより、異性の第三者が対応に当たった方がいいと思うんだ。その点理香なら……」
「理香だって当事者ではないですか?」
考えようによっては、そう捉える事も不可能ではない。
幼馴染で同じ部活。クラスこそ別ではあるが、ほぼ行動は共にしている。仲も良く、一時は周囲から誤解され、からかわれたこともあった……もっとも、理香が直接、間接に関わらず、完膚なきまでに噂の出所を精神的に叩き潰していたが。
まぁ、朝から3人で登校している様を見れば、酒挽のバランスがどちらかに傾くと修羅場を迎える程度の三角関係、と言えなくもない。
確かに「理香と付き合っている」から「キイナがフリー」という話に発展しないとも限らない。そう言う意味では当事者と言えなくもない。
「トーリなら大丈夫なのです。相手は課長さんという大人なのですから」
「……ん?」
課長、なんて単語が出てきた時点で、酒挽の頭は思考を停止した。
正確に言えば、今の段階では結論を下すには材料が少なすぎ、情報収集が急務だと判断したのだ。
さらに言えば、断片的な情報で勝手に恋愛関係だと勘違いしていた自分が随分と恥ずかしかった。
「えっと……この人の上司なのです」
キイナが差し出してきた一片の紙に酒挽が目を落とす。
それは名刺だった。『文化庁文化部認知外文明管理課民間伝承係』という漢字だらけでやたらと長い部署名と、『閑梨 琴』の名前が書かれている。
「この人の課長さんが、話をしたいと言ってきているのです。それが男の人なのです」
以前、理香がキイナを通して国家権力の介入がないよう『お・ね・が・い』はしたと言っていた。もっとも、内容を聞く限り、脅しと取られても仕方がなさそうなものであったが。
酒挽は頭を抱える。確かにこれは、理香がいない方がいいような気がする。というより、理香がいると話が大きくなるか拗れる気がしてならない。
「童話裁判の事はこちらですると言ったのですが、どうしても現在の状況を聞きたいと強く言われてしまったのです。転校手続きの話を持ち出されては、白旗を上げざるをえなかったのですよ。でも、理香やトーリのそばにいると、自分の現状認識能力とかに自信が持てなくてですね……」
「……わかった」
現状の説明を相手が希望してきている以上、いつかは応じる必要があるだろう。何せ相手は国家権力を握る役人なのだから。
「迷惑ばかりかけて申し訳ないのです」
キイナはそう言って頭を下げる。再び見えるようになった顔は、幾分か表情が和らいで見えた。
休廷中なので、しばらく裁判はお休みです。




