第41話 第三の殺人未遂――小人(最年長者)への反対尋問
すみません。遅くなりました。
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2020/01/05 17:50頃 誤字を修正
証言が矛盾した。
白雪姫は、自分が「権力のためなら、身内の命を奪うことさえ厭わない」王族であるが故に、命を狙われていると証言した。
だが小人は「白雪姫の国では男が代々王位継承をしている」と証言した。その言葉のとおりであれば、白雪姫が権力のために命を狙われることはあり得ない。
「トーリ……」
キイナが不安そうな表情で酒挽を見つめてくる。彼女も相反する証言が飛び出して、戸惑っているようだった。
しかし、酒挽はニヤリと笑って、
「弁護側は以上です」
そう言い放った。
その瞬間、向かい側に座るテールが、頬杖から顔を持ち上げ、目を僅かに見開いたのが見て取れた。
それ以上に過剰反応を示したのは、酒挽の隣にいた。
「な……ぁぅっ」
酒挽はキイナの視線を無視してそのまま着席する。が、隣に座るキイナが何かを言う前に、彼女の後ろ髪を掴んで軽く引っ張る。それ以上の発言を強制的に止めさることは忘れない。
「何するですか!?」
「セクハラ」
「な……」
酒挽のあまりの発言に、引っ張られた髪の根元をさすりながら言葉を失うキイナ。
テールが冷たい目で睨んでくる。
「弁護人。たとえ本人が喜んでいたとしても、少し場を弁えて頂けませんか?」
「これは、申し訳ない」
「な……なな……っ」
ワナワナしているキイナを尻目に、裁判長の木槌の音が響き渡る。
「本人が罪を認めたので、本件審理に戻るように」
「必要であれば、そちらの事案で手をお貸ししますよ、弁護保佐人殿。被疑者は犯行を自供。目撃者は潤沢。罪を免れる要素は皆無です」
テールの童顔が、嗜虐に歪んだ。
「では検察側の反対尋問を」
テールが立ち上がり、証言台へと近づいていく。
「申し訳なかったのです」
酒挽の隣で、キイナが小声で謝罪してくる。
「まぁ、過ぎたことだし」
酒挽が苦笑いをこぼして見せる。
彼が小人への質問を終了したのは、弁護側にはもう一度「反証」の機会が与えられているからだ。
白雪姫と小人の証言の間に発生した矛盾。無策のまま下手に質問を続けるより、検察側が反対尋問で証人から何を聞き出し、反論してくるのかを見極めてからの方が、下手に墓穴を掘らなくて済む。
つまり、酒挽としては、テールが小人に対し何を質問するかを確認してから、反証の材料を揃えていけばいいのだ。
テールの尋問が始まる。
「証人。あなた、というより、あなた方は、被告人を自分の家に住まわせることに同意しましたよね?」
「そうじゃ」
「元々7人がお住まいの家に、あなた方よりも大きな被告人が住むことになったわけですが、一人増えた分で、生活はどのように変わりましたか?」
「そうじゃな……」
小人が少し思案する。
「……ワシらは全員で動くもんでな。白雪姫が来るまでは、夕食はあらかじめ作り、机に盛り付けておいてから出掛けておった。白雪姫が来たことで、ワシらが出掛けている間に家の事をやってもらえるようになったんじゃ」
「ですが、その恩恵は一度も受けることがなかったはずです」
「……そうじゃったかの?」
「そうです」
小人の言葉に、テールはきっぱりと断定する。
「ここまでの時系列を確認すれば明らかです。
被告人が狩人の手を逃れ、あなた方の家に来たのが1日目。
この時に、被告人が家事を一手に引き受ける条件を受け入れたわけですから、被告人が家事を行う機会は皆無に近かったでしょう。
そして、被告人が胸ひもにより倒れていた2日目、今回の櫛の件は3日目。
両日とも、被告人は意識を手放します。あなた方が帰宅するまで。
当然、被告人は、あなた方の夕食を作れなかった……間違いありませんよね?」
「そう、じゃな」
白雪姫のところに物売りが来たのは、家事が一区切りついてから後のことだ。夕食の準備に取り掛かる前に殺人未遂事件が起きたのだろう。
「さて、もう一つ。あなた方の家には、寝具はいくつありましたか?」
「……ベッドが7つじゃ」
「あなたたち小人と同じ数しかないのですね?」
「来訪するものなんぞ、ほとんどおりゃせんからな。泊まろうなどと言い出すものも皆無じゃったし」
「でも、被告人は、あなた方に匿って欲しい、と言った」
それはつまり、寝食を共にする、ということと同義だ。
7つの寝具に対し、寝る者は8人。数が足りない。
「被告人とあなた方は、閨を共にした、という認識でよろしいですか?」
酒挽が手を挙げる。
「異議あり。それは今回の事件の審理とは関連性がないと思うが?」
「いいえ」
テールが酒挽の方を振り向いて首を横に振る。
「被告人は、証人が言うとおり『可愛くて器量の良い娘』です。そんな女性が、無邪気にも男性である彼ら小人7人の眼前で、無防備に寝て見せるのですよ? しかも、7人しか寝れないところに8人という密集度でです。情が湧くのも当然です。そこが問題なのです」
「弁護側の異議を却下します」
裁判長が言うと、テールは満足げに頷く。
「さて、改めて問います。あなた方7人プラス被告人の閨での様子について、お答えいただけますか?」
「む……そうじゃな」
小人は答える。
「もとより、白雪姫はワシらより大きいんじゃ。彼女が眠れるベッドは一つだけ。なので、そ奴は、他の者より1時間遅くまで起き、その次に大きいベッドの持ち主と交代し、1時間後から眠り始める。起こされた奴は、その次の大きさのベッドに行き、というように、順番に眠るようにしたんじゃ」
「結果、被告人は睡眠時間を百パーセント確保し、その他の方々は1時間ずつ時間を削られた、ということでしょうか?」
「概ねそれで合っておる」
少し不機嫌そうな声で答える。恐らくテールの言葉の端々に、少しずつ白雪姫に対する悪意がにじみ出ていることが分かるのだろう。
「今の証言から分かるように、証人らは被告人を猫かわいがりしている様子が伺えます。
これは、証人が先程の弁護人の『鍵が掛ったかは、確認したんですか?」という問いに対し『白雪姫が掛けたんじゃ。確認するまでもないじゃろう?』と回答したことからもわかります。
つまり、彼らは彼女の言い分を鵜呑みにする傾向にあったと言えるでしょう」
すかさず酒挽は異議を唱える。
「それは、検察側の憶測に過ぎないことだ」
「そうですね。鵜呑みとは違いました。
先程証人は『母親から命令された狩人に殺されそうになった』とだけ被告人から聞かされたにもかかわらず『あんなに可愛くて器量の良い娘を殺したい者など、王妃以外あり得ん』とまで言い切りましたし、何の根拠もなく物売りを王妃の変装だとまで証言しています。
もとより、物売りに会ったと言っているのは被告人だけであり、証人らは被告人のそれらの主張が正しいことを前提として、勝手に憶測を交えて証言をしています。
よって、彼らの証言は信用できないものと、検察側は主張します……ただ一点を除いて」
なるほど、そう来るか、と酒挽は小さく舌打ちする。
小人の証言はアテにはならない。
そう切り捨てることで、白雪姫の証言を裏付ける根拠を排除していこうという戦略だ。
そして、彼らの証言の中から都合のよさそうで、客観性をある程度確保できる証拠だけを抽出しようとしている。
テールが宣言する。
「被告人の国における王位継承に係る部分だけを、検察側は証言として認定します」




