第42話 第三の殺人未遂――小人(最年長者)への反証
2019/5/12ー5:00頃 言い回しのおかしかった酒挽のセリフを修正しました。
「それでは弁護人。反証を」
裁判長が進行するが、正直なところ反論する余地はほとんどない。
小人は確かに白雪姫の主張を鵜呑みにした上に、何の根拠もなく「物売りの婆は王妃の変装」とまで断言している。そして変装して直接殺しに来た、とまで言い切った。
白雪姫は「王妃に命令された狩人に殺されそうになった」と証言はしている。その一方で自分自身では「物売りが王妃の変装だとは思わなかった」とも。
白雪姫が説明していないことまで勝手に拡大解釈して、完全な思い込みにより虚偽の内容を正しいものとして証言する小人。
第一審、テールはある意味やりやすかっただろう。ある程度証言させておいて、ほとんどの証言を「信用に値しない」と断じれば事は足りる。
かえって反証することで、思い込みの激しい証人、という印象を増強しかねない。
事は慎重に運ぶ必要がある。
「あなたは、白雪姫に刺さった櫛を抜いたら、彼女が息を吹き返した、と言いましたね?」
「言った」
「それ以外の救命措置は行いましたか?」
「いいや。櫛を抜いた途端、白雪姫が息を吹き返したんじゃ」
「でも、彼女が息をしていたかは分からないんですよね?」
「……まあそうじゃが」
「意識を取り戻した、ということでよろしいですか?」
「おお、それじゃ」
どうにも言葉が出てこないらしい。
テールの様子を窺う。何の反応も示さない。もう、この証人の証言能力は削いだと思っていることだろう。
「それでは、櫛を抜いたのは誰ですか?」
「ワシじゃ」
つまり、櫛に残っている指紋は、最年長者の小人と言うことになる。
「では、毒入りの櫛を抜いたあなたは、どうしましたか?」
「白雪姫が目を覚ましたので、声をかけたぞ」
「その時、櫛は?」
小人は少しだけ考えて答えた。
「手に持っておったと思う。最後、ワシがその櫛を隔離したんじゃから、そうなろう」
酒挽はテールに向き直る。
「櫛はどこで発見されたものですか?」
「物置のようなところです。それだけ棚の上に置いてありましたので、仰るとおり『隔離』と言っても差支えないでしょう」
……来た。
酒挽は表情には一切出さず、心の中でニヤリとした。
「つまり、検察側は小人の証言であっても、更なる裏付けが取れれば、証言として認める、という理解でよろしいですね?」
テールの眉間に皺が寄る。そんな理論構成をしてくるとは思わなかったのだろう。
「……裏付けが取れたものに限りますが」
言質は取れた。
再び小人へと視線を動かす。
「ところで小人さん。あなたは櫛をどこかにしまうまでの間、手を洗ったりしましたか?」
「いいや」
「櫛の毒は、表面に塗られていたのですが、その後、あなた自身が体調を崩したり、体中が痒くなったという事はありましたか?」
「なかったぞ」
「では、あなたはそのまましばらく家の中を動き回ったという理解でよろしいですか?」
「まあ、そうじゃな。ただ、櫛を置いた後は、手を洗ったぞ? 本来、家に帰ったら真っ先に手を洗うよう、白雪姫に言われておったからのう」
「他の小人は?」
「もちろん、言いつけを守っておった」
酒挽はホッとする。これで一つ前進した。
「ところで、櫛の毒ですが『毒入り』ということは、あなた自身、櫛のどこに毒が仕込まれていたと思ったのですか?」
「櫛の中じゃろう?」
何を言っているんだ? と言わんばかりの表情で言われてしまった。
さて、これで時間稼ぎといこう。
「さて、弁護側から2つの証拠の提示を求めます。
一つは、小人の家の壁などに毒が付着した形跡があるか否か。
もう一つは、櫛の内部構造です。表面の毒以外に、何かしらの機構が含まれていないか」
裁判長がテールに向かって確認する。
「……それでそちらの気が済むのなら、やらせますが?」
「必要なことですから、お願いします。特に小人の家のドアノブに指紋のない毒の付着があるかどうかを入念に確認してください」
頬杖をついていたテールが、今度は完全に顔を上げてこっちを見つめ、そして苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
もし、ドアノブに指紋なしで毒の付着している痕跡があれば、第三者が侵入してきたことを意味する。
手袋をしていても関係ない。
テールもそれに気がついたのだろう。
それに、一度『やらせる』と言った以上、拒否はできまい。
「弁護側は以上です」
酒挽が宣言する。
「では、一旦休廷といたします。検察側は、今弁護側から話の出た証拠品の提示ができるように準備をしてください。加えて、被告人の蜂毒アレルギー検査も実施してください」
「……賜りました」
テールの答えに、裁判長は木槌を叩き、休廷を宣言した。




