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第30話 第二の殺人未遂――小人の証言

「……なるほど。これがお前の提案の理由か」


「ご理解いただけて、何よりです」


 酒挽(さかびき)は、検察側の席の前に立ち、後ろに座るテールに声をかけた。


 小人は全部で7人。証人として召喚したら、全員が証言台に立った。

 そこまではいい。問題なのはその後だった。

 裁判長がいつものとおり、名前などを確認した後、酒挽が「白雪姫が最初に家に来た時の状況を証言して欲しい」と言ったところ、


小人A「鉱山から帰ってきたら、出かける前に用意していた食事が食べられていた」

小人B「いや違う。鉱山に出る前に作っておいた食事が帰っていたら食べられていたのだ」

小人C「そうじゃない。食事を用意してから鉱山に出かけたのに、家に戻ったら減っていたのだ」

小人D「違うだろう。食事が食べられていたのだ。出掛ける前にきちんと人数分を用意していたのにもかかわらずだ」

小人E「違う違う。食事を楽しみにして帰って来たのに、減っていたから驚いたんだ」

小人F「そうじゃなくて、出掛ける前は人数分、確かに全て揃っていたのに、少しずつ減っていたんだ」

小人G「それは違う。全員で出掛ける前に食事の準備が整っているのを確認したのに、帰ってきたらちょっとずつ食べられていたんだ」


 小人全員が大同小異の証言をやりたがり、他の小人の証言を否定するところから始めて結論は言葉の順番や言い回しを変えただけのもの。

 なるほど、第一審の記録が爆発的に膨張するわけだ。

 いくら酒挽が1日使える日曜日を選択して審理を朝から行っても、遅々として進まないのは明らかだった。


「この証人の召喚、取下げませんか? こちらは拒否しませんよ?」


「できるの?」


「させてみせます。代わりに別の方法は、そちらが考えていただけませんか? こちらとしては、小人に証言を得なくても立証は可能ですから」


 検察側が立証するのは、白雪姫の王妃に対する殺意。小人の証言の重要性は格段に低いだろう。


「分かった」


 弁護側、検察側双方が同意したところで、酒挽が手を挙げる。

 

「裁判長。証人を取り下げてよろしいか?」


「検察側としても異議はありません」


 テールも手を挙げて即座に同意する。


「し、しかしですね……」


 裁判長は躊躇するが、テールが一睨みする。


「このままでは埒が明きません。いいから一旦証人を下がらせなさい!」


「わ、分かりました」


 相変わらずの傍若無人ぶりだが、テールの尊大な態度のおかげで、小人は証言台から姿を消した。


「代替案を思いつくまで、休廷します?」


 テールが尋ねてくる。


「いや、別の方法を思いついたからいい」


「へぇ……それは楽しみです」


 酒挽は、弁護側の席に戻る。


「……随分、テールさんと仲良く話していましたね?」


 一人席で待っていたキイナが、声をかけてくる。


「この件については、意見の合致を見たからな」


「あの、テール検事。この後はどうすれば……?」


 裁判長がテールに尋ねる時点で、あの幼女検事の方が場数をこなしていると分かってしまう。


「もう一度、弁護側の立証からでよろしいのでは? 検察側としては否はありません」


 そう言われてから裁判長は、木槌を叩く。


「そ、それでは改めて、弁護側の立証をお願いします」


 裁判長の宣言に、酒挽は真っ直ぐテールを指さした。


「では、テール検事に証言をしてもらいたい」


 裁判所中の空気が固まった。


「なるほど、そうきましたか……本当に、前代未聞のことばかりをなさいますね。物語の登場人物ですらない私に証言台に立て、と?」


 テールはゆっくりと立ち上がる。半身になり、片手で机に寄りかかり、もう片手は腰に手を当て、不敵にニヤリと笑っている。


「いいでしょう。あなたの挑戦を受けて立ちましょう」


「あの……テール検事?」


 動揺しているのは裁判長だった。


「問題はないですよね、裁判長?」


「いや、しかし前例がなくてですね……」


「規則上問題はありません」


 テールはきっぱり言い切る。そして、裁判長の答えを聞くこともなく、ゆっくりと歩いて証言台に立った。


「本気ですか? テール検事」


「くどい! 私がここに立った以上、他に何があると言うのですか!」


 小さな体から信じられない程の音量で裁判長を叱責する。それも、子供が叫ぶような金切り声ではない。普段の声をそのままに、音量だけを大きくしたような落ち着いた声音だった。


「は、はい。で、では弁護側の立証を始めてください!」


 裁判長が木槌を叩く。

 それに対し、テールがため息をつく。


「手順は疎かにしないでください……まったく……。

 私の名前は、テール。職業は、童話裁判での検事。なお、第一審、そしてこの第二審とも、この『白雪姫』の案件は私が担当しています。所属世界はありません」


 裁判長が尋ねるべき最初の質問を、テールが自ら発言し、


「お待たせしました。では、弁護人。証言を求めてください」


 こうして、前代未聞の検事に対する尋問が始まった。

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