第29話 第二の殺人未遂——検察側の提案
2020.01.22 「キイナ」と記載すべきところを「テール」と誤記していた部分を訂正。
「弁護側、反証を行いますか?」
裁判長の言葉に「はい」と答えた酒挽が立ち上がる。
そして証言台に立つ白雪姫に近づくと、尋ねた。
「先程、あなたは検察側の質問に『損害の補償をするため、首飾りを差し出して、謝罪しました』と証言しましたよね?」
「は、はい」
「一方で俺の質問には『家に勝手に入ったこと、食事を勝手に食べてしまったことを謝罪し、対価として身に着けていた首飾りを差し出した』と答えました。賠償と対価、なぜ証言に違いが出たのでしょう?」
この質問に、テールはあからさまな反応を見せた。
気だるそうにイスに座っていた背をピンと伸ばした後、背もたれに上半身を預けて、天を仰いだのだ。
「え、と、小人さんが言ったのです。『これじゃあ貰いすぎだから、お釣りを返す』『対価は正当な額を貰うから』と」
「小人は、その首飾りが、何の対価としては貰い過ぎだと言ったか、あなたは聞きましたか?」
白雪姫は、しばらく考えていたが、
「いえ、特に何も言われなかったと思います」
「わかりました。以上です」
酒挽は席へと戻る。そこには「え? え?」と、テールと酒挽を交互に見ているキイナの姿があった。
「あの、なぜテールさんがあんなに打ちひしがれているんです?」
「検察側が拠り所とした『不法侵入』『窃盗』を無効化する証言だからな」
「でも、無断で家に入ったことは事実なのです。食事を勝手に食べたことも」
「不法侵入は『正当な理由なく』が条件になる。家主の許可なく家に入った場合だけじゃなく、家主が『出て行け』と言ったのに、出て行かなかった場合にも成立する。
そして白雪姫は、小人に対価を払った。本人は賠償金のつもりだったんだろうが、受け取った小人はそれを『対価』と認識し、釣りを払っている。
最低でも、食事については小人側が『正当な対価』を受け取ったと認識しているようだし、不法侵入も、その後、小人が白雪姫を追い出していないので、立証は難しくなるはずだ」
不法侵入、窃盗の成立が難しい以上、それを違法行為と認定しないための『緊急避難』を持ち出す理由がなくなる。
「弁護人に提案があるのですが」
白雪姫が証言台から消えた後、テールが検察側の席に座ったまま、そんなことを言い出す。
「何だ?」
「次は、小人の証言を求めますよね?」
「そうだな」
白雪姫が家に来た件や、第二の殺人未遂事件で息を吹き返した件を証言してもらわなければならない。
「では、一旦休廷しませんか? それと、審理は朝一番から行うことを提案します」
「休廷はいいとして、朝から審理するっていうのは?」
「弁護保佐人は、第一審の裁判記録の量はご覧になりましたか?」
「あーはい、見たのです……」
キイナが遠い目をする。
部屋の天井に届くほどの高さを誇るという記録。
それを理香の指示で何度も読み返している彼女は、指示を受けるたびに絶望感を醸し出していた。
「あの記録の90パーセントは、小人の証言による部分です。時間を十分に確保して審理に臨まないと、夜通しになりかねないんですよ」
ため息混じりのテールの言葉は、随分と実感がこもっていた。
「できるなら、証言を求めないでいただけるとありがたいのですが」
そういうわけにも行かないだろう。彼らは白雪姫を救命した現場にいたのだから。
だが、裁判記録の大半を消費したという主張を聞けば、無碍に却下するのもどうかと考える。
「一応、検討はさせてもらうよ」
「どうぞ良しなに。この件については、こちら側も全面的に協力しますので」
そう言うと、立ち上がったテールは、こちらに向かって深々と頭を下げる。
そのやり取りをもって、裁判は休廷に入った。
小人の証言には、なにやら問題があるようです。




