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第28話 第二の殺人未遂――白雪姫への反対尋問

弁護側と検察側の立証ポイントが違うので、時系列が前後するという事態が。

分かりにくくて申し訳ありません。

第28話が、狩人から解放~小人の家にたどり着いた話、第27話が小人の家で白雪姫が殺されかけた事件の話です。

「では検察側の反対尋問を」


 裁判長の進行に、テールは立ち上がる。


「あなたは森で狩人から見逃してもらった後、どうしたのですか?」


 酒挽(さかびき)は、おや? と思う。

 こちら側は第二の殺人未遂事件について白雪姫に証言を求めたのに、検察側は直接関係のない、白雪姫の森での行動について質問を始めたからだ。

 白雪姫も戸惑ったのだろう。一瞬「え?」と声を漏らしてから、答える。


「よく覚えていません」


 そして首を横に振ってから言葉を継ぐ。


「森の中は暗くて、怖かったです。木がまるで私を睨みつけているみたいで……でも、お城に戻らないと狩人のおじ様と約束しましたから、無我夢中で走りました」


 狩人が白雪姫を見逃したもう一つの要因が森という存在だ。狩り場でもある森は、獣たちの巣窟でもある。たとえ自分が見逃しても、獣に襲われるだろうという判断が狩人にはあったと思われる。

 もっとも、それを証明しようとしても、狩人の証言は得られないのだが。


 白雪姫の証言は続く。


「……そして疲れてもう走れないと思ったちょうどそのときに、小さな家を……後から小人さんの家とわかったのですが、そこを発見しました。呼びかけても返事はなかったので玄関のドアノブを回してみたのです。鍵はかかっていませんでした」


「つまりあなたは、家主に無断で家に入り込んだわけですか」


「あの、その……」


 困惑した顔で、白雪姫はこちらを見てくる。


「異義……」


 立ち上がろうとした酒挽を制して、キイナが立ち上がる。


「回答を取り繕う必要などないのです。事実をありのまま答えていいのですよ」


 カン、という木槌の音。


「弁護保佐人、不規則発言は慎むように」


「申し訳ありませんなのです」


 キイナは頭を下げてから着席する。


「ここまでは理香の予想どおりなのです。理香が異義を唱えていいと言った条件は、まだ満たされていないのです」


 キイナの呟きに酒挽は舌を巻く。

 あの幼馴染の演劇部部長は、この裁判のストーリーをどこまで描いているのだろうか。


「さて、弁護保佐人のお墨付きも貰いました。証人、お答えください。家主に無断で家に入り込んだわけですか?」


 テールが尋ね直す。


「……はい」


 俯き加減で白雪姫は答える。心なしか、小さくなった声で。


「それで、家に無断で押し入った後、あなたはどうしたのですか?」


 テールがこちらをチラ見した気がした。

 おそらく、言葉の端々に白雪姫を陥れる言葉を挟み込むことで、挑発しているのだろう。


「家には、7人分の食事が用意されていました。申し訳ないとは思ったのですが、空腹には勝てず、皆さんの食事から一口ずつ食べさせていただきました。

 お腹が満たされたら、急に疲れが出て、ほんの少しだけ休もうと、ベッドに横になりました。

 そのまま寝入ってしまい、帰って来た小人さんたちに起こされるまで、そのまま、でした」


「なるほど。小人が自分たちのために用意した夕食を勝手に食べ、お腹いっぱいになったからベッドに潜り込んだところ熟睡。帰宅した小人に発見される……()()()()()()としてもっとも間抜けな捕まり方ですね。()()()()()()とは……」


 やれやれ、いった態度をテールが取ったところで、キイナが立ち上がる。


「異議ありなのです」


「何ですか、弁護保佐人?」


 問い返したのは、裁判長ではなく、テールだった。挑発的な微笑を浮かべて、キイナに向き合う。


「本法廷は、白雪姫が王妃を殺害せしめたかという事案に関する審理を行っているのです。関係のない事案を審理する必要などないのです」


「果たして本当にそうでしょうか?」


「どう言う意味なのです?」


「今私が証人に尋ねたのは『緊急避難』に関する事項です。

 証人は、何の装備も準備もなしに、森に一人放り出され、食べることもままならない状況下にあったのです。つまり、客観的に見ても、証人は生命の危機に直面していたのです。

 そんな中、砂漠の中のオアシスのように、家を見つけ、食事まであった。自分の命を守るため、家へと侵入し、食事にも手を出す。生物としては、当然の選択なのではないですか?

 それとも、弁護側は本件は『緊急避難』ではないと?」


 テールがにやりと笑いながら言う。

 だが、そう来るか、と酒挽は舌打ちをする。

 ここで肯定すれば『王妃が白雪姫を執拗に殺そうとしたため、身の危険を感じた白雪姫が王妃の殺害を命じた』という検察側の理論を肯定してしまうことになりかねない。

 命を狙われているから、相手を殺す。

 言葉としては、あたかも等式として成立しそうに錯覚するが、実際は人の命が一つ失われることになる。

 自分が害される以上の結果を、相手にもたらしている事実がある以上『緊急避難』による無罪は、成立し得ないだろう。


「では逆に聞くのです。家に侵入され、食事を食べられてしまった小人は、被害を訴えたのですか?」


「……確認しておりませんが」


「では、小人の証言を得るまで、あたかも罪が確定しているような印象を持たせる発言は慎むべき、なのです」


 今度はテールが舌打ちをする番だった。


「弁護保佐人の異議を認めます」


 裁判長が宣言をする。

 着席したキイナは、一片の紙を机の上に滑らせてくる。


『検察が、白雪姫の行動に犯罪行為(住居侵入罪、窃盗罪がくると思う)が含まれると主張したら、被害者側の証言を得たのか確認せよ』


 理香が書いた文字が、そこにはあった。

 丁寧なことに『あたかも罪が確定しているかのような印象を持たせる発言は慎むべき』という発言内容まで添えられていた。


「……ホント、理香は何でもお見通しなのです」


「全くだな」


 舞台の台本を書くことができる理香。

 一つの裁判事例を物語に置き換え、客観的事実は何かを見定め、どうすれば「勝訴」の結論にたどり着くか。それをこの『童話裁判』という物語で、実行し続けているのかもしれない。


「理香は、当利の思い出を取り戻すために、必死なのですよ」


 そうだった。理香は欠落してしまった思い出を取り戻したいと言ってキイナに協力している。それも、酒挽との思い出を一方的に忘れてしまっているからだと、言葉に出していた。

 改めて考えてみて、自分の顔が熱を帯びて行くのを、酒挽は自覚した。


「弁護人。イチャついているところを申し訳ありませんが、話を進めてよろしいか?」


 テールが正面から白い目で二人を睨んでいた。


「「ど、どうぞ!」なのです」


 酒挽とキイナの慌てた声が、ハモる。


「では、確認を続けます。あなたが目を覚ました時には、家の中に七人の小人がいたわけですね?」


「はい」


「当然、不法侵入……おっと、失礼。家人に無断で家に入った理由を問われたと思いますが、何と答えたのですか?」


「自分の名前と身分を告げました。

 そして、断りもなく家に入ったこと、勝手に料理をいただいたこと、ベッドで寝てしまったことを謝り、損害の補償をするため、首飾りを差し出して、謝罪しました」


「家に入った理由については、どう説明したのですか?」


「……お母さまから命じられた狩人のおじ様から、命を狙われたこと。おじ様が見逃してくれたこと。森の中を逃げ回っているうちに、この家を見つけたことを話ました。

 それで、事情を説明して入れてもらおうと、家の扉をノックし、声をかけたのですが、反応がなかったので、扉に手をかけたら、開いていたことを説明して、家に入ってしまった、と説明しました」


 別に今でなくてもいいのに、白雪姫はその場で「ごめんなさい」と頭を下げた。


「確認しますが、あなたは小人に対して『母親から命を狙われている』と言ったのですね? 同情でも買うつもりで?」


「そんなつもりは……」


 白雪姫が慌てて手を左右に振る。


「異議あり」


 酒挽が手を挙げた。


「検察側の憶測を証人に押し付けるのはやめて欲しいね」


 テールはいちいち細かいところに白雪姫を貶める言葉を差し込んでくる。


「弁護側の異議を認めます」


 テールは軽く肩をすくめて見せた。あからさまに悪意が籠っている。


「検察側からは以上です」

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