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第31話 第二の殺人未遂――小人の証言の代替

2020/02/16 第一審では検察は反対尋問をする機会がないにもかかわらず、テールのセリフ中に「反対尋問」とあった部分を訂正。


2020/05/17 誤り訂正

(誤)「第一の白雪姫殺人未遂事件」→(正)「第二の白雪姫殺人未遂事件」

※櫛の事件は、狩人の事件から数えて2番目の殺人未遂事件であるため

「一つだけ、確認しておく」


 証言台に立ったテールに対して、酒挽(さかびき)が尋ねる。


「何ですか? ここに立った以上は、正確に証言して差し上げますよ?」


「それは問題ない。ただ、第一審で小人が証言していない内容については、検察側にも答えられないだろう。協議の上、必要な内容だけ小人の証言を求めたいが、それに同意して貰いたい」


「証言の要否についてこちらと協議いただけるのなら、同意します」


「それでいい。では早速、前回裁判の小人の証言で、最初に白雪姫を発見するところについて証言を」


「わかりました」


 慇懃に頭を下げたテールは、手に持っていた赤い表紙の書類を捲る。


「小人の証言をまとめると、このようになります――」


 小人7人が鉱山で仕事を終え戻ってきたところ、出かける前に用意していた食事が、それぞれの皿から少しずつ食べられていたのを発見した。

 これは、留守中誰かが入り込んだのだと思い、他に何か取られたものはないかと、警戒しながら家の中を確認したところ、女の子がベッドで寝ていたのを発見した。

 程なく彼女が起き上ったので、名前を尋ねると、隣国の王女で『白雪姫』と名乗った。

 なぜ家に入って来たかを聞いたら、

『王妃の命令を受けた狩人に殺されそうになったのを、命乞いしたら見逃してもらえたので、森の中を逃げていたら、この家を見つけた』

『狩人とは、城に戻らない約束で見逃してもらった』

 と言った。

 可哀想に思った小人は、家事全般をやってくれることを条件に家に匿うことで合意した。

 その際、王妃がまた命を狙うかもしれないので、自分たちの留守中は誰も入れないように、と注意した。


「概ね以上になります」


 聞いたところ、白雪姫の証言と矛盾している部分はない。


「一応聞くが、小人は自分で『可哀想に思った』と証言したのか?」


「ええ。正確には『それは可哀想だ。なら、お前が、この家の世話をして……』という証言でした――もっとも、7人が7人とも違う証言をするので、最大公約数として、の証言にはなりますが」


「つまり、7人とも白雪姫を『可哀想だ』と思った、と言っている?」


「そうですね。『可哀想』『不憫』、色々な言葉を使ってはいますが、その認識でよろしいかと」


 テールは淡々と証言するが、第一審では相当大変だっただろう。なにせ、同じ内容の証言を大同小異な言葉の違いで7回も証言を聞いているのだから。


「白雪姫は、家事をすることに合意したのか?」


「小人側の証言では『わかりましたと言われた』と言っています。被告人の証言については、先の審理で尋問がなかったので、この場での回答は控えさせていただきます」


 白雪姫は証言可能なのだから、そちらに直接聞くのが筋なのだろう。

 テールの言い分を理解して先に進む。


「検察側は、白雪姫の証言と、小人の家の距離の整合性は確認したのか?」


「狩人が白雪姫を城から連れ出した時間とその移動時間、城から小人の家までの距離については、少し時間がかかり過ぎている、という問題があります。ですが、白雪姫は一時パニックに陥って、闇雲に森の中を逃げ回っていたことを考慮すると、時間的な矛盾はないと、我々は結論付けています。もっとも、肝心の白雪姫の記憶がはっきりしていないため、裏付けは取れないのですが」


 つまり、本当ならもっと早く小人の家に着いていてもおかしくなかったのに、白雪姫の移動経路が不明なため、正確とは言えない、とのことらしい。

 ただ、想定時間より遅いから、矛盾は成立しない、という事のようだ。


「先の審理で検察側が白雪姫に確認した『母親から命を狙われている』と小人に伝えた件については、正確にはどうだったのか?」


「『王妃の命令を受けた狩人に殺されそうになったと言われた』と言っておりますね。これも、三者三様で『王妃』『母親』等の表現が使われています。もっとも、白雪姫が証言した『お母様から命じられた狩人のおじ様から、命を狙われたこと』という証言を逸脱するような内容ではありませんでした」


「つまり、小人たちは全員、王妃――白雪姫の母親の命令だと認識しているわけか?」


「そうです」


 白雪姫の証言では『お母様』だったのを、小人たちがそう変換したのだろう。

 この点についても、問題はなさそうだ。


「小人たちは、なぜ白雪姫が自分の母親から命を狙われているのかまで理解していたようだったか?」


 白雪姫自身は、王族同士の権力争いに巻き込まれたと思っている。


「いえ、証言にはありませんでした」


「では、第二の白雪姫殺人未遂事件について――」


「それには、検察として異議を申し立てます」


 証言台で真っすぐ手を挙げて、テールが宣言する。


「被告人が小人の家で倒れていたのは事実ですが、その原因が殺害目的であることは立証されておりませんので『殺人未遂事件』とは認められません」


「検察側の異議を認めます」


 木槌の音とともに、裁判長が認定を下す。


「では、1度目に白雪姫が倒れていたところを発見された件について、証言を」


「小人の証言をまとめると、このようになります――」


 夕方、家に戻って来ると、白雪姫が床に倒れていた。

 体中を調べたら、胸を紐できつく縛られていたようなので、紐を切ったら、白雪姫の意識が戻った。

 白雪姫に原因を聞いたところ、物売りのおばあさんから胸ひもを買って縛って貰ったら、意識を失ったと言った。

 それは、王妃が変装していたに違いないから、次は「誰が来ても家に入れるな」と命じ、白雪姫も了承した。


「概ね以上になります」


 キイナが事前に裁判記録で確認した内容どおりの話だ。だとすると、問題なのは物証だが。


「小人が切断した胸ひもは、どのようなものだった?」


「小人の証言では、全員が『覚えていない』という回答です。そして、捨ててしまったということです。だとすると、白雪姫が証言した『見事な絹の締め紐』以外の情報は不明です」


 キイナの言うとおり、胸ひもは廃棄済みだった。


「小人は原因として『胸を紐できつく縛られていた』と言っているが、何でそう判断したのか、確認は?」


「検察側で尋問しました。白雪姫の服は、体の正面で左右から紐で縛り上げて合わせ部分を押さえる形状でした。通常はほぼ円形の紐を通す穴が、発見の際、横に引っ張られていたことから、相当に強く締めあげられていると判断した、と言っています。あと、朝出かけた時と紐が変わっていた、という事も一因だったようです」


 意外と細かい所まで小人は見ているものだ、と感心させられる。


「紐の切断については、何か言っていたか?」


「服の穴が広がる程の締めあげ具合だったため、結びの部分だけを切断したのではなく、上から下まで紐がクロスしている部分を全部はさみで切断した、とのことです」


「発見の時、白雪姫は息をしていなかったのか?」


「正確に言いますと、小人の証言では『していたんじゃないか』『していなかったと思う』に分かれました。検察側が尋問で確認したところ『誰も確認していない』という結論に至りました」


 肝心なところを見ていないものだな、と思わざるを得ない。

 まぁ、7人もいるのだ。誰かが確認しているだろう、という思い込みでもあったのかもしれない。

 とにかく、倒れている白雪姫の意識を回復させることを優先して事に当たったのだろう、と想像できる。


「発見当時、白雪姫はうつぶせに倒れていたのか、仰向けに倒れていたのか?」


「証言が微妙に違いましたが、顔の向きはともかく、胸は床についている状態で倒れていたので、うつぶせでよろしいかと思います」


 一体、どれだけ微妙な違いの証言が7回繰り返されたのか。酒挽は興味を惹かれるが、審理に影響を及ぼす内容とは思えないので、スルーする。


「白雪姫が意識を取り戻したのは、紐を切断してからどの程度だったのか?」


「具体的な時間を示すものはなく、『程なく』『すぐに』『しばらくして』等という証言だったので、紐の切断からさほど経過することなく意識を取り戻したものと推察されます」


「検察としては、白雪姫が意識を失ってから、小人たちが家に帰るまでの間は、どの程度の時間が経っていたという推定を立てているんだ?」


「誰も正確な時刻を確認しているわけではなかったので、白雪姫の証言による家事の状況と小人の帰宅時の証言から、30分から2時間という幅で推定可能、というのが結論です」


 随分幅がある。


「では小人の『王妃が変装していたに違いない』というのは、小人が白雪姫に言った、ということでいいのか?」


「そうですね。白雪姫は小人に対して『おばあさん』としか言っていませんでした。それは小人も証言しています。そのため『王妃が変装していた』は、小人の推理、と言うことになるでしょう」


「小人は、なぜそんな推理をしたのか、言っていたか?」


「『白雪姫を狙っているのは王妃だから、間違いない』。この証言だけ、小人全員が一言一句一致していました」


 そこは一致するんだ。相当に白雪姫への思い入れがあるとわかる。

 そこで酒挽はテールの証言をまとめる。


「では、不明点は、『なぜ白雪姫が自分の母親から命を狙われているのか、小人が理解しているか』という点でいいか?」


「その前に、被告人が小人に説明したかを尋問することを提案します。説明していなければ、小人も答えようがないでしょうから」


 確かにそのとおりだ。

 その提案に従い、2度目の白雪姫の召喚を行うこととなった。

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