第27話 第二の殺人未遂――白雪姫の証言
裁判が再開します。
弁護側と検察側の立証ポイントが違うので、時系列が前後しています。
分かりにくくて申し訳ありません。
第28話が、狩人から解放~小人の家にたどり着いた話、第27話が小人の家で白雪姫が殺されかけた事件の話です。
「不愉快な思いをさせてしまって、すまなかったな」
夜、メールで届いた理香からのメールに返信したところ、すぐに電話がかかってきた。
「いや、こっちも少し言い過ぎた」
酒挽としては、学校の帰り道に、キイナに言質を取られている以上、向こうの謝罪に応じるほかはない。
「とは言え、第二の殺人未遂事件、姫が気絶した理由はこれで特定できたのではないかと思う」
随分と弱気な発言に聞こえたが、
「第一審で、全くと言っていいほど検証されていないことだからな」
理香の姿勢は、慎重だった。
キイナが裁判記録を確認したところでは、白雪姫が気絶した理由については、ほとんど触れられていないことがわかったという。
「状況を考えれば、窒息を疑う」
白雪姫の証言は、胸を締め付けられた結果、意識を失ったというものだ。
小人は、倒れた白雪姫の姿を発見し、胸ひもを切断したところ、息を吹き返した、と証言している。
しかし、窒息のもっともオーソドックスな痕跡である首を絞められた痕は、白雪姫から発見できなかった。
「それに、息が苦しくなれば、被害者は暴れ、もがき、その結果、加害者が怪我を負うことは少なくない。だが、王妃の体のどこにも、それらしき怪我の痕跡は発見できなかった」
だから、検察側は、白雪姫の証言が虚偽だと考えたのだろう、というのが理香の推理だった。
「問題なのは、検察側が一体どんな証拠を握っているか、分からない、ということだ」
第一審で審理の対象とならなかった事項は、裁判記録に一切記載されていないことになる。
つまり、今の時点では、検証ができない。
「想定できる可能性は、キイナに伝えた。当利には、ほぼ出たとこ勝負を押しつけることになって申し訳ないのだが」
「本番舞台に、トラブルは付きもの。雰囲気に飲まれないよう、こちらの筋書きを向こうに押し付けてやるさ」
==========
「それでは、審理を再開します」
酒挽の正面には、相変わらず退屈そうな表情を浮かべた幼女検事、テールが座っている。
「では、2番目の殺人未遂事件について、被害者である白雪姫に証言を求めたい」
証言台に一条の光が差し、白雪姫が現れる。
「証人にお尋ねします。名前は?」
2度目の登場であっても、裁判長による、この手順を踏まなければならないらしい。
「白雪姫です」
「職業は?」
「王女です」
「所属世界は?」
「童話『白雪姫』で、主役をしています」
「それでは、弁護人。尋問を」
酒挽は、白雪姫の横に立つ。ちょうど、視線の先にテールがいる位置取りだ。
「あなたが、第一審で、胸ひもにより気を失ったと証言した事件について、もう一度証言してください」
「は、はい。あれは、小人さんたちが出掛けた後の話です。
小人さんたちに『留守中は誰も家に入れてはいけない』と言われたので、玄関に鍵をかけて、家事をやっていました。
ひと段落したところで、玄関をノックする音と声が聞こえたのです。確か『奇麗な小物はいりませんか』という声だったと思います。
約束だったので、玄関を開けずに窓から覗いてみたところ、おばあさんが籠を下げて立っていました。
何を売っているのか聞いたら、色々な色が編み込まれている奇麗な締め紐を見せてくれました。
それはそれは、見事な絹の締め紐だったので、買わせてもらおうと思って……その、小人さんたちとの約束を破って、鍵を開けて、物売りのおばあさんを、家の中に入れてしまったんです。
紐を買った私は、付けていた胸ひもを外して、取り変えようとしたんですが、おばあさんは『私が奇麗に縛り上げてあげる』と言ってくれたので、お言葉に甘えようと思ったんです。
最初は私の正面で服の合わせ部分に紐を通してくれて『鏡を見ながらやってあげよう』というので、鏡の前にイスを置いて座りました。
おばあさんは、私の後ろに立って、紐を持つと、左右に引っ張って私の胸を締めあげたんです。
体がゾワゾワっとして、一瞬寒気みたいなものを感じたと思ったんですが、目の前が真っ暗になって……その後、小人さんたちに起こされました。
その時はもう、おばあさんの姿はありませんでした」
それが、第二の白雪姫殺人未遂事件に関する、白雪姫の証言だった。
理香の実験でキイナが体験して話したことと、証言が一致する。
「いくつか質問があります」
「は、はい」
「先程の証言で、小人たちの留守中は、家に誰も入れてはいけない、と言い付けられていたという話ですが、なぜ、おばあさんを家に入れてしまったのですか?」
「あの……そのおばあさんが正直そうだったのと、優しそうだったので、入れても大丈夫だと思ったんです」
「つまり、あなたの判断で、物売りのおばあさんを家に入れたわけですね?」
「は……い、そう、です」
白雪姫は、沈痛な面持ちで返事をする。
正直、いたいけな少女をいじめているように思えて、酒挽の気分は落ち着かなかった。
「あなたが今使っている胸ひもは、物売りのおばあさんから買う前に使っていたものですか?」
白雪姫は、自分の胸元を見て、否定の返答をする。
「その胸ひもは、今もお持ちですか?」
「はい。捨ててはいないので、どこかにあると思いますが……正直に申し上げて、どれを付けていたかは、覚えていませんが、小人さんはご存知だと思います。私、小人さんの家に逃げ込んだ時、服は着て行ったものだけでしたし、ひもも、代わりのものはなかったものですから」
確かに白雪姫は、狩人に助命を訴え、森へと逃げた。
着の身着のままだったはずで、代えの服はなかったと考えられる。
だからこそ、奇麗で新しい締め紐を欲しがったのだろう。
「さて、白雪姫。あなたは、物売りのおばあさんから、締め紐を『買った』と言いましたが、そのお金はどこから出したものですか?」
白雪姫は王族。普段は金銭を持ち歩いているとは思えない。
ましてや今回は、王妃が狩人に白雪姫の殺害を命じ、狩人が見逃してあげた後の話だ。
可能性としては、狩人が白雪姫に持たせて逃がした、ぐらいしか考えられない。
「小人さんに、首飾りを売ったんです」
白雪姫は、狩人に見逃してもらった後、小人たちの家にたどり着いた。
方々を彷徨った白雪姫は、空腹に耐えられず、小人たちが出掛ける前に用意していた食事に手を付けた。
空腹を満たした白雪姫は、逃走の疲労も加わり、眠ってしまった。
その後、7人の小人が帰宅。白雪姫を発見した際、白雪姫から、家に勝手に入ったこと、食事を勝手に食べてしまったことを謝罪し、対価として身に着けていた首飾りを差し出したという。
小人たちからは『それでは貰いすぎだ』と言われ、お金を渡された、という。
なるほど。それなら、白雪姫が物を購入することは可能だ。
「では。あなたは、この物売りのおばあさん、あなたのお母さんだと思いましたか?」
「あの……小人さんたちが、お母様だと仰ったので、そうなのかと……」
酒挽が白雪姫の証言を遮る。
「今お尋ねしているのは、あなたが物売りのおばあさんを見た時にどう思ったか……」
「異議あり」
幼女検事が、机を思いっきり叩いて立ち上がる。
「証人の証言途中の言葉を遮った上で、質問の言葉を変更した今の尋問は、弁護側が意図する回答を証人から引き出そうとしたものです」
所謂、誘導尋問だという異議だった。
「違うのです。白雪姫の回答は、小人が言ったことを証言しているという『伝聞』に他ならないのです。伝聞証拠はには、証拠能力が認められていないのです。なので、途中で遮ったとしても、問題はないはずなのです」
手を挙げて、キイナが反論する。
「検察側の異議を却下します。証人は、弁護人の質問に答えてください」
「え……と、私は、お母様だとは思いませんでした」
まぁ、そうでなければ、鍵を開けて家に招き入れるとは考えられない。
「最後にもう一つ。この事件は、あなたが狩人から見逃してもらった事件から、何日後の話ですか?」
白雪姫は、はっきりと即答した。
「次の日です」




