第14話 童話裁判の効果
2019/11/20 キイナの台詞中の「当利」を「トーリ」に修正。
「忘却?」
酒挽が聞き返す。
「童話は、連綿と語り継がれてきたものなのです。語り継がれなくなったり、忘れ去られてしまったりすると、真の終焉が訪れるのです。人に読まれたり聞かせたりするために存在するという意義を失うのですよ」
人間にとって、命とはすなわち存在を示す。
その存在を物理的に消し去る、という意味で言えば『死』を強制的に与える罰は、究極の刑罰と言えるだろう。
対して、『童話世界』の住人は、あくまでも物語の単なる登場人物の一人でしかない。
「『童話裁判』で争われるのは、物語そのものなのです。被告人はあくまでも登場人物の一人なのですが、問われる罪は、その登場人物の行動なのです」
そのため、脇役のとある行動が有罪となれば、物語に改変がくわえられるだけでそのまま存続し、脇役に極刑が言い渡されれば、その登場人物が出てくるシーンの一切が切り捨てられる。
結果、過去に何度も内容が書き代わり、一番最初に作られたものとは全く違う物語になってしまっている童話は少なくない、とキイナは説明した。
「そして、主役が極刑を受ければ、その童話は存在できない。白雪姫が物語から排除されてしまえば、それはもはや『白雪姫』ではない」
理香の言葉に、キイナは頷く。
即刑が執行され、『白雪姫』は世の中から抹消された。
人間界における所謂普通の裁判では、原審と呼ばれる第一審、控訴審と呼ばれる第二審、上告審と言われる第三審と、3回まで裁判を受ける権利があり、最後の裁判で結論が出るまで、刑は執行されない。
そこが『童話裁判』と根本的に違うところだ。
「そして『童話世界』では、非常に残酷なことなのです。語り継がれることに存在意義がある童話が、語り継がれなくなったまま存在し続ける……『物語』という指針を失った登場人物たちは、途方に暮れるしかなくなってしまうのですよ」
「……ちょっと待った」
「キイナの話に、おセンチにでもなったか?」
からかい口調の理香を無視する。
「俺は『白雪姫』を覚えている。なら、俺が語り部となって、もう一度『白雪姫』を広めれば……」
「やはり、センチメンタルに陥っていたか」
やれやれ、といった体で、理香は首を横に振る。
「何だと?」
「さっき言ったではないか。白雪姫が物語から排除されてしまえば、それはもはや『白雪姫』ではない、と。当利の覚えている『白雪姫』とボクの書いた『森の姫君』が全く同一の物語であっても『森の姫君』は『白雪姫』ではないのだ。だから、ボクは君との中学の思い出が欠けたままなのだ」
「あ……」
いつの間にか、目的を見失っていることに、酒挽は気がついた。
酒挽が語り部となれば、確かに『白雪姫』を復活させる、という結論は達成できる可能性はある。
だが、それは復刻ですらない。昔の『白雪姫』を知る人が皆無では、懐古する人は存在しないのだから。
酒挽は、理香を見つめる。自分がどんな表情でいるかすら、顧みる余裕もなしに。
「悲観に暮れる必要などないのです。だって、現にトーリは『白雪姫』のことを覚えているではないですか。そして、この裁判に勝てば『白雪姫』を取り戻すことができるのです。少なくとも、可能性があるのです。前向きに考えるべきなのです!」
理香の視線がキイナを捉え、ふと笑みを浮かべる。
「当利が『白雪姫』を覚えている理由。その答えは『童話裁判』自体にありそうだ。今は余計なことを考えず、事実関係を確認して、白雪姫の無罪を勝ち取ることに集中すべきだな」
「そう、だな」
「そうと決まれば善は急げなのです。早速、扉を開くのです」
キイナは片腕を正面に向け真っ直ぐ伸ばす。景色が歪んだかと思った次の瞬間、木製の玄関扉が現れた。
「理香、作戦は先程言われたとおり遂行するのです」
扉に手をかけ、酒挽の手を取ったキイナは、自信にあふれた表情を見せながらそう言った。
「よろしく頼む」
「おい、作戦て?」
「それは向こうに行ってからのお楽しみ、なのです!」
キイナに手をひかれて、酒挽は再び『童話世界』へと旅立った。
ようやく次回ぐらいに裁判へと突入できそうです。
もっと上手く展開できると良かったのですが、なかなか……。




